第37話


「それはそうと…。ほぅ比奈に新しい男ね…。実に興味深い話だ」



周はちょっと考えるように顎に手をかけ、タバコを口に含んだ。



「しかも相手は同じ会社の経理部の男だよ。それがどうかしたのか?」



「どうもこうもない。これでお前は完全にあの女にフられたってわけだから、心置きなく俺のものにできる」



なんてさらりと言われ、俺は激しく咳き込んだ。



「あんたな!」思わず怒鳴ると、周は、



「周。円…」



「円周率の周だろ?」



うんざりして被せると、周はおもむろに俺を覗き込んできた。



驚いてちょっと身を後退させるも、周は素早く俺の腰を引き寄せて更に覗き込んでくる。



そして俺の顎に手を掛けると、俺の顔をちょっと上に向かせた。



周の切れ長の瞳がまっすぐに俺を捉え―――視線に絡められる。







「知ってるか?円の線には終点がないんだ。それは永遠で常に無限大」







突然真面目に言われて俺は戸惑った。



抗いたいのに、抗えない―――まるで吸い込まれるようなその視線に―――間近で感じる濃密な香りに







不覚にも溺れそうだった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る