第36話


「先に風呂にするか?それとも飯?それとも―――俺?」



なんて、聞いてきて周は俺の腰を引き寄せる。



「風呂はジムで入ってきた。飯だ!お前なんてもってのほか!」



俺は喚いて周を押しのけるものの、意思とは反して心臓がバクバクと音を立てている。



しばらく嗅いでなかった周の香りを―――急に間近で感じたから……



あの―――爽やかな柑橘系の香り……



その中に甘い芳香がかすかに感じれて、そのアンバランスな香りが―――



危なっかしくも、色っぽい―――






――――


――



「で、比奈のことはもう吹っ切れたのか?」



つまみの牛肉のたたきを食いながら、周が突然話題にした。



ちなみに周が作ったらしい。嫌味なぐらいそれはうまかった。



俺は箸を休めると、赤ワインのグラスに口をつけた。



「吹っ切るもなにも、あいつには新しい男がいるんだよ。吹っ切るしかないじゃん」



赤ワインの味は思った以上に深い味がして、うまかった。



俺の好きなフルボディだ。



偶然―――?じゃないな…



「好きだろ?赤ワイン、フルボディ。50年もののチリ産だ」



50年―――…聞いて吹き出しそうになった。



一体幾らするんだよ。



「好きなヤツには金を惜しまないたちなんでね。俺の財布は気にするな」



ええ……気にしませんよ。




くっそぅ。俺だってこれぐらい甲斐性のあるかっこいい男になりてぇよ!



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