第32話



スマホには比奈の写真が残ってる?



そんなのもうどーだっていいよ。



どのみち俺にはロックが解除できない。



友人のアドレスやナンバーなんて、どうにでもなる。



俺はスマホを諦めて、



比奈への想いを……スマホを―――捨てるように、それをゴミ箱に投げ入れた。




――――


――



それから三日は何事もなく平穏に過ぎていった。



新しいスマホはまだ買ってないけど、誰かと喋る気にもなれなかったし、丁度良かったんだ。



案外…スマホがなくても過ごせるもんだな。



俺はそんな新しい発見をした。



週末―――、俺は前から通っていたスポーツジムに足を運んだ。



ジャージ姿で首からタオルを下げ、ひたすらにウォーキングマシンで足を動かせていると、フロアの隅で若い女の人二人が俺を見てひそひそと喋っていた。



何だろう…そう思って視線を投げかけると、彼女たちは恥ずかしそうに目を逸らしたがすぐに顔を戻して、はにかみながらもちょっと笑った。





俺、何か変??もしかしてジャージに穴でもあいてるとか??



慌てて自分の身なりを眺め回していると、



「あの…」と女の人たちが遠慮がちに俺に声を掛けてきた。



「……は、はい」俺はマシンのスイッチを止めて彼女らを見ると、



「会員の人ですか?あの…良かったらスマホのナンバー教えていただけませんか?」



と、恥ずかしそうに俯いてそれでも懸命に言葉を搾り出した。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る