第14話 修学旅行―俺のファンサ

 そんなイケメンパイアたちの横で、白いドレスを着た銀髪のゾンビたちが踊っていた。


「……ん?」


そのゾンビの中の一人に、何か違和感を覚えた。


ゾンビメイクをしていてもわかる、整った顔立ち。

他のゾンビと違い、ドレスの下に見え隠れする見覚えのある制服のような何か、

そして極めつけは、


「片足ローファーかよぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!」


俺はどこかのお笑いコンビ顔負けのツッコミを放った。

突然の大声に、周りにいた人たちの視線が集まり、俺は慌てて口を手で塞いだ

……もう遅いが。


ようやく見つけた!!!!

ってか、お前そっち側かよ! そりゃ見つからねぇわ。


今すぐ捕まえて、首根っこ掴んで連れ帰りたかったが、気持ちをぐっと抑え込んだ。

そんなことしたら、逆に俺がスタッフに捕まってしまう。


どうにかして、早く連れ出す方法はないかと考えていると、ヒートアップした観客たちに、後ろからぐいぐいと押され始めた。


さすが人気のヴァンパイア出現エリアだ。

女の子たちがキャーキャー言いながらどんどん押してきて、走り回って疲れ切っていた俺は踏ん張りがきかずに、そこで倒れてしまった。


推しに夢中で周りに目が向かないのか、倒れた俺は人々に踏みつけられた。


「痛っ!痛っ!」


くそっ、ここでも俺はマリアンを前に、何もできないのか…

あの時のドラゴン戦を思い出した。

あの時も俺はマリアンを守れなかったんだ。

同じじゃないか……


ビビアンと思われる白いゾンビは楽しそうに踊っている。

マズいぞ。

これ以上遅くなれば、最悪退学なんてことも……

せっかく学校生活にも慣れて、これからって時に!


何もできない自分が情けなくて、俺は固く握った拳で地面を叩いた。

この状態じゃ抵抗できないけどな……


身動きできず、人々に踏まれながら痛みに耐えていると、スタッフが異変に気が付いたようで慌てて駆け寄ってきた。


「すみませーん! 少しさがってくださーい。お客様、大丈夫ですか?」


その声でようやく足元の俺に気が付いた観客が、俺の背中や足に乗せた足を退けていく。


疲労困憊で、視界がぼやける中、いろんな人が俺を起こそうと手を伸ばしてくれているのだけはわかった。

全身の痛みに顔を歪めつつ、俺も手を伸ばした。


最初に触れた誰かの手をとり、立ち上がろうと試みた。

その手、その小さくて柔らかい感触には覚えがあった。


「あら、ごめんなさい、大変なことになってしまいましたわね。いろいろあって、連絡がすっかり遅れてしまいましたの。あなたがうちに入る新しいゾンビね?」


間違いない、マリアンの声だ。

そして、そのセリフ。

俺は異世界で初めてマリアンと出会った時を思い出した。


俺は雨でずぶ濡れで、泥だらけで、マリアンはドレスで気取って救いの手を差し伸べてきた。

俺は異世界に転移したてで訳が分からいままに、その時もこうしてその手を取ったんだっけ。


…………違うわ。


起こしてくれたのはセバスワルドさんだ。

マリアンは倒れている俺を、ただ見下ろしていただけだったわ。

記憶が美化されるってこういうことか。

怖いわぁ。


そんな恐ろしい体験をした俺には気付きもせず、この様子を見ていた観客たちから声が上がった。


「なんだ、これもパフォーマンスか!」


どんなパフォーマンスだよ!

仮にパフォーマンスだとして何目的!?


「あー、びっくりした。すごい演出! リアルすぎる!」


えぇ、そりゃリアルですからねぇ。

てか、みんなパフォーマンスだって信じてるの?

ちょろすぎない?


観客からの一言、一言、俺はそれに心の中でツッコミを入れた。

けれども、これが功を奏した。

俺は上手く新人ゾンビとして、パレードの列に加わることが出来た。

まぁパフォーマンスって思ってくれたからこそ

やり過ごせたわけだが……


こうして俺は隣でキレッキレのダンスを踊っているマリアンの横顔を見ながら

パレードを楽しんだ。


……一切踊れないけどな!!

それでもなんとか必死に、後について踊る。


「やっぱりあれ新入りだわぁ。ダンスにキレがないよね」


という厳しい言葉も聞こえてきた。


「演出とはいえ、俺らが踏み続けたんだから、そのせいもあるんじゃね?」


という、俺を擁護してくれる言葉も聞こえてきた。


その言葉に勇気をもらい、ぎりぎりモチベーションを保ちながら、俺は最後まで踊り続けた。


幸い、昼に殴られた俺の顔は痣ができて腫れあがり、口の中も切れて出血していたため血の跡が残っている。

下手くそに踊ってても、ゾンビとしては完璧だろう。


「あのゾンビのダンス……下手でぎこちないのが逆にカワイイー! 私、あの子推そうかなぁ~」


そういう、よくわからん女子もいるのか。

声のする方を振り向く……一応な?

ほら、俺って今パレードに加わっているから、あの…そのぉ…そう!ファンサってやつ!!


「きゃー! こっち見たぁ!! こわーいww」


怖いといいながら、すっごい笑顔で撮影してくる。

こんな俺でも、今だけは輝いているのかもしれない。

まぁ、今日限りのことだとしても悪くない気分だ。


そんなことを考えながら、パレードのゾンビとして上手く演じきり、退場のゲートを無事通過した。


 バックヤードに入ったところで、やっとマリアンと向き合うことができた。

怒りたい気持ちもあるが、正直に言うと見つけた安堵感の方が大きかった。



:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::


「え、マリアンとどうやって出会ったの?」

「お嬢様が、なんでこんな男子高校生が好きなの?」


あなたの何故が、異世界編に書かれています。

異世界編はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16818093086176310110


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