第6話「謀反」

 蒼龍が中天の空を旋回する。騎手ルシアの冷徹な眼差しが地上を射抜く。雷が轟き、鉄針に吸収される。ルシアは冷笑した。


「巨大な避雷針か。ユハルらしいね」


 本役が社の舞台に舞い降りる。開けた山間の見晴らしは大混乱に陥っていた。そこかしこに悲鳴がこだましていた。


「白々しい。あの人たちは人形でしょう。3種類しかないじゃない。動きの型が。馬鹿にされたものね。あの魔導士の仕業かな」


 やれやれと肩をすくめたルシア。その瞳は怒りに燃えていた。


「ルシア!おば様のいいなりなの?民を狙う事は絶対に許せない!ユハルが悲しむ!」


 私は剣の柄を握った。睨み返す。刺し違えてもいいと思った。


「ユハルか。どうしても叶わない願いはあるよ?アリシャ。剣舞を踊っても」


 するするとターバンをとるルシア。白い髪が露わになった。


「染めていたのよ?イスファで生きる為に黒くね。生来白かったのですってね。ユハルも」


 残酷な独白。温かだった血流が冷たく凍った気がした。


「ユハルは私の兄です。私達は双子。兄はイスファに。私はジルーフに引き取られた」


「嘘だよ…」


 膝から崩れ落ちた。私の大切な片翼は跡形もなくもがれる。


「ユハルの話をする貴女は、本当に楽しそうだったわ」


 ルシアが剣を上段に構える。顔が妖艶な薄笑いに変わった。己の罪に最後を覚悟する。


「死ぬな、アリシャ!」


 目を開くと、ユハルが私を抱きかかえていた。気恥ずかしさで立ち上がる。


「出てこい。カルラ!お前がルシアを乗っ取ったんだろう」


「命令されて出ていくかよ?イスファの盗人が」


「ルシアを支配しようと、我らの龍は自由に出来んよ。妄執に取りつかれたお前では」


 ユハルは辺り一面に香を敷き詰めた。酸っぱい柑橘の匂いが充満した。私は涙が止まらない。するとどうだろう。一瞬だけ蜘蛛の姿が見えたかと思うと、老婆が参道を這いずり回っていた。


「何て事をしよるかぁ~」


 ざんと老婆の頭を掠めるユハルの剣。


「国外追放だ。二度とイスファの地を踏む事まかりならぬ。次は命をもらう」


 倒れたルシアを私は必死で介抱する。良かった。大きなけがは無いみたいだ。


 こうして今回の謀反は鎮圧されたのだった。ほとんどユハルとジェイルのおかげで。








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