第5話「真実」

「大ババ様の本名はカルラ。そして前王家ジルーフの当主。ルシアは後継ぎ。本来ここは魔導士の国。臣下の剣士に簒奪されたのさ。他ならぬ僕らの初代王アガト・イスファに」


 私の時間が凍る。ユハルに生き写しの初代が反逆者だったなんて。あれほど剣を奨励したのは魔導を隠蔽するためだったのか。


「王宮の地下墳墓で分かった。念入りに壊されていた。だが最奥に未盗掘の墓があった」


 何という執念。何がここまで兄を駆り立てるのか。空恐ろしい気持ちになる。まるで私自身が裁かれている気さえした。


「ジルーフをもう一度興す事がカルラの望みだ。ルシアを人形にしてでも」


 どれほどの憎しみを抱いているだろうか。想像もしたくない。


「私達は罪人の子なの?」


 下から吹き抜ける風が、私の心の虚ろをなぞる。宵闇にただ痛ましい沈黙。兄が徐に口を開いた。


「偽る事は罪だ。けどね、アリシャ。今を幸せにする事が一番大事だ。贖いはその後。誓う。ルシアは絶対に助ける」


 薄暮、ユハルの顔はよく見えない。けれど凛とした声は太陽の如く頼もしかった。ああ、この人が兄であることが悔しい。


「謀反は明日の剣舞奉納に合わせて決行される。ルシアと蒼龍が闖入するのが合図だ。カルラも必ず来る」


「当日の手はずを教えていただけますか。兄さん」


「ルシアは同じ剣舞の舞手であるお前が対峙する。他はジェイル様に任せる」


 貴方が助けるんじゃなかったか?私のときめきを返せ。さっきのは気の迷いだと信じたい。


「ユハル様、アリシャ様。そろそろ城に戻り、夕食をとりましょう。今夜は昔の様に私の部屋で。とっておきの干し肉がございますぞ?お二人は好きでしょう」


 宰相になっても変わらない私達の師父ジェイル。彼のとりなしが今ほどありがたいと思ったことはなかった。

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