第4話「戦闘」

「見え透いた嘘は止めて貰おうか?ババ様。国が欲しいのはアンタだ!」


 老婦の杖はユハルの剣で真っ二つに斬り裂かれた。両者とも、鋭い眼光を交わす。次の瞬間、雷が彼女を掠める。宰相ジェイルが、怪鳥に乗って現れたのだ。おかしい。魔導はイスファでは禁忌の筈だ。


「杖がなければ、どうすることもできないだろう」


 私は、ユハルの手を握りしめながら、立ち上がった。心臓が鼓動を早めている。ババ様は、もはや人間の形をしていない。巨大な蜘蛛のような姿に変貌していた。ジェイルの放った魔弾を、無数の糸が絡め捕り、空中で爆発させた。


「なかなかやるな」


 老婦は、冷酷な笑みを浮かべた。彼女の糸は、蜘蛛の巣のように広がり、あっという間にジェイルを捕らえようとした。


 その時、ユハルが姿を消し、刀を振り抜いた。鋭い閃光が虚空を切り裂き、蜘蛛の脚が数本宙を舞った。蜘蛛は怯えて立ちどころに消えた。


「全力で戦えるのはここが限界。深追いはできませんな」


「ルシアが彼等の手にある以上、迂闊な真似はできません。ジェイル様。蒼龍には勝てない」


 髭を撫でるジェイル。ユハルが難しい顔をした。私の疑問符が限界濃縮する。今の私には2人の英雄も、ただの狼藉者にすぎない。


「諜報も文官の仕事のうちだけどね。アリシャ」


「兄さん。そんな事は聞いていません。ジェイル様のあれは…」


「魔導も戦争では普通に使う。今はもう戦時だ。内乱の一歩手前」


 背筋が寒くなった。確かにルシアは国盗りをすると言った。本心だとは決して思えない。


「支配されている。あの老婆にな。お前は間一髪助ける事が出来た」


「ルシアは何故、龍を操るのですか?ババ様が悪いのでしょう?」


 納得できない。ルシアは心優しい女の子だったはずだ。


「前の王朝に連なる者。龍神を自在に使役する魔導の国だったという。俺たちへの好意に付け込まれたんだ」


「兄さんはルシアをどうするつもりですか?」


 兄は黙して語らず、ただ天を仰ぐ。曇天の空が不気味に静まり返っていた。


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