第3話「再会」
紅い絹の舞衣が風に翻り、まるで血染めの花が咲いたように妖艶だ。しなやかな体で、剣を操る姿は、見る者の心を奪う。思わず口が滑った。
「大ババ様はまだまだお若いですね!」
ヒュンと鞘が頬を掠めて、床に深々と突き刺さる。軽口を窘めるにしてはやりすぎだ。龍神を象った御神体の前なのだから。
水が滴り落ちる仄暗い所。私と彼女の2人の空間だけが蝋燭に照らされている。踊り子ルシアの代役として剣舞奉納を務める事になった。今は、地獄の猛特訓の最中だ。
「姫様、感心している場合ではありませんぞ?駆け込みの貴女を2日で一人前にせねばならぬのです。所作の一つ一つを完璧にして下され」
溜息をついた。危ない。『ババ様がやればいい』なんて喋れば、今度は剣が飛んでくるだろう。
「アリシャ様?本音が丸見えでございます。ええ、ええ。ルシアはおろか貴女まで逃げるのならば私が舞いましょうぞ?」
「ごめんなさい。でもルシアは逃げたりしません。ババ様が一番わかっているでしょう?あの子を信じてあげて!」
声を荒げてしまう。師が落ち込んだ顔をしている。自己嫌悪で居たたまれなくなった。細長い鍾乳洞をとのろのろとした足取りで抜け出す。
大木の根元に座り込み、龍に似た雲がないか探す。中々見つからない。無為な試みを日が暮れるまで続けていると、茂みから少女がこちらを覗いた。見紛う事なき切れ長の眼。ルシアだ。
「アリシャ!久しぶり」
「ルシア!?どこに行ってたの?今年は私がやることになったじゃない」
「秘密だよ。でも心配ない。龍はいいなり。この国は私の物さ」
ルシアは、そう言うと、空を見上げ、両手を広げた。次の瞬間、彼女の体から光が溢れ出し、空に龍の形が現れた。そして、龍は彼女と共に空へと舞い上がり、村の上空から雷を落として飛び去った。
「ほれ、いわんこっちゃっない。国欲しさに私達をゆする気だ。あの子はとうとう龍を従える様になってしまったよ」
いつの間にかババ様が隣に立っていた。私は、魂が抜け殻の様になり、うずくまるばかりだった。
その時だった。彼女は怪しげな呪文を唱え、杖で地面に紋様を描いた。
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