第33話 亀 ナイトプール

「ねぇユキさん、亀って喋るの?」

今目の前にいる小さい亀は普通に喋っている、普通の事?絶対違うよね。


「知能が高い動物は喋ると聞いた事がありますが…そもそも人間の言葉を喋る必要はない気がします。」

確かに、人間とコミュニケーションを取るために覚えたのか?なんなんだ一体。


「あの、急なんですけどちょっとお願いがありんす」

ありんす?急にどうしたの個性出しちゃって。


「わっちはエンシェントタートルのトコヨでありんす、この湖の底で石に挟まっていた所にエサが降ってきたので噛み付いたら脱出できたという事でありんす」

偶然ユキさんの釣りに救われたのか、運がいいでありんすな。でも最初どちら様ですか?とか普通に喋ってたよね?忘れてないよ。


「なんか可愛いですね、このありんすさん。」

さっきトコヨって名乗ってたよ?


「んで何のお願い?手伝える事なら手伝うよ」


「実は飼い主を探して欲しいんでありんす」

飼い主?捨てられたとかなら可哀想だけど…見つけて復讐するでありんす!とかならちょっと手伝えないよ?


「わっちはずっと飼われていたので野生で生きていくのは厳しいんでありんす。前の飼い主は死んでしまったので新しい飼い主募集中でありんす。」


動物が言うとマトモだけど人間で言えば完全にヒモだよな。

エンシェントタートルってくらいだから長生きなんだろう、飼い主は寿命で亡くなったんだろうな…


「ギルドに連れて行ってあげましょう、最悪ギルドのマスコットになりそうですし」

確かになぁ、可愛いし喋れるから飼いたい人いるんじゃない?


「ちなみにわっちのスキルで魔力増強なんて事もできるので魔法使いなんかに重宝されるでありんす。前の飼い主もわっちのスキルを重宝してたでありんす、ろくでもねぇ野郎でしたがエサだけはくれたでありんす」

へぇ、ひどい飼い主だったんだなぁ、スキル使う道具扱いか。


エサは人間の食べるものならなんでも良いらしい。魚の匂いにつられてこの湖に来たら石に挟まってしまったそうだ。


「その飼い主って最近死んだの?寿命?それとも魔力増強とか言ってたし誰かと戦って?」


「王都を攻撃して返り討ちにあったそうで、名前はバビロンってヤツでありんす、魔王軍の四天王の。わっちは近くの草むらに放置されてたので死んだ事を知ったのは逃げ出した手下から聞いたんでありんす」


そうでありんすかぁ…

バビロンね、僕の大砲で消し飛ばしちゃったよ…

理由はどうあれトコヨの飼い主殺したの僕じゃん…


「とりあえず今日は地下室に連れて行こうか。」


「そうですね、ありんすちゃんとお風呂に入って一緒に寝ます!私のアパートはペット禁止なのでペットって憧れてたんですよね」


「トコヨでありんす、とりあえずありがとうでありんす」

はぁ?お風呂も一緒で寝るのも一緒?はぁ?羨ましいじゃん!


地下室にトコヨを連れて行くとなにやら興奮している。

「すごいでありんす!長年生きているけど見た事ないものばっかりでありんす!」


「トコヨって何歳なの?やっぱり5000歳とか?」


「わっちは自称80歳のピチピチの女の子でありんす」

自称?しかし絶妙なラインだなぁ…長生きだけど驚きもしない、そんなライン。


「今日私が釣ったお魚を焼きましょう!お台所借りますね!」

悪意が無いの分かるんだけど私のって強調しなくても…確かに僕釣ってないけど…

ちなみに食べきれない分は氷付けにして明日ギルドに持っていく予定だ。


「ちなみにトコヨって魔力増幅以外に何かできるの?」

もしかしたらとんでもない能力があったりして…


「特に無いでありんす。まあ念力が少し使えるので小さな物動かすくらいは…」

オセロと将棋はできるわけか、んで魔力増幅ができると。


シロなんか良いんじゃない?飼い主。


そんな事を考えていると料理が出来上がってきた。魚の塩焼き!のみ!


「コロは塩焼きが一番ですよ、食べて見て下さい」

一種類だけかと思い食べてみると美味い、美味すぎる。適度な脂と甘み、塩加減も丁度良く永遠に食べられる。


トコヨも美味しそうにバクバクと食べ、ユキさんはいつの間にか白ワインを飲んでいた。

ギルドに持っていくの減らして冷凍しよう。


夢中で食べた結果食べ過ぎてしまった…風呂に入って少し落ち着こう…


「トコヨちゃーん、お風呂いきますよぉー」

ユキさん少し酔っ払ってるな…トコヨを抱いて女湯に歩いて行った。トコヨ良いなぁ…露天風呂もできたので楽しんで下さい…


僕も風呂に入って汗を流した後、出て行くと珍しくユキさんが先に上がっていた。

「どうしたんですか?珍しく早いですね」


「それが…」

どうやらトコヨは暖かい水が苦手らしく風呂に入れないらしい。ユキさんも悪いと思ったのか身体だけ洗って出てきたんだとか。


「面目ないでありんす」

ないのかあるのか良く分からないなそれ。


地上でも問題ないのだが出来れば水の中の方がリラックスするらしい、水ねぇ…


ステータスを見ると幸せポイントが溜まっていてスキルポイントは600ポイントもある。なんか結構ザル勘定なんだよねこれ。

うーん、プールか…


「ユキさん、ちなみに水着というか水遊び用の服ってあるんですか?」

無いと言われると楽しみが半減するので最初に聞いておく。


「水着はありますよ、川とか池で遊ぶ用のが」

あるの?汚れてもいい服とかじゃなくて?


聞けばビキニタイプらしい、少し恥ずかしいらしいがあまり着る機会もないし知り合いだけの場合がほとんどなのでそんなに気にしないとか。


決まった。200ポイント使ってナイトプール作る!

普通のプールでも良いけどお酒も飲みたい!

普通のプールサイドで酒飲むのはなんか…笛吹かれて怒られそう。


ナイトプールをアクティベートすると風呂の隣に扉が出現した。露天風呂の件もあったし期待できるぞ。


「トコヨ!ユキさん!水遊びする場所作ったよ!」


「作ったってどういう事でありんす?」

まあ見れば分かるよ。きっとすごいぞ。


みんなで扉を開けると男女の更衣室があり、奥に進むと…


わぁ…すごいな毎回…

星空の下のプール、オシャレな丸い電飾が施され、色んな浮き輪がプールサイドに置いてある。

プールには貝殻の形をした浮き輪が何個か浮いていた。

中に座って飲み物飲めるのか、あの浮き輪の正式名称何?


「これは…素敵ですね…神秘的です…。ただなんとなくですけど、少し…その、アダルトな雰囲気が…」

ユキさんは一生懸命言葉を選んだね、なんかエッチな雰囲気あるよね。なんでだろうね。


「すごいでありんす!こんなに綺麗な水が!」

トコヨは一目散にプールに飛び込み泳ぎ出した。

「最高でありんす!ありがとうでありんす!」


「あの…私も遊びたいのですが水着が…」

分かってますとも、出しますとも。


「色は何色がいいですか?」


「毎度すみません…そうですね…水色とか、たまに黒とか良いかも知れません。」

確かにパレオ付きの黒の水着とか似合いそう、大人っぽい雰囲気で。

僕はハーフパンツでいいや


ユキさんに水着を渡して僕も着替える。

うーん、良い体付きだ、ゴウケツさんには負けるけど。


プールサイドでビールを飲んでいるとユキさんが着替え終わって出てきた。


「あの、どうでしょう、似合ってますかね?」

最高です…その胸も、パレオから覗く白い足も…ドストライクです!ドストライクでありんす!!


「すごい似合ってます!生きてて良かったと思います!」


「大袈裟ですよ?でも似合ってるなら良かった、ショウさんも、その…素敵です!早くトコヨちゃんと遊びましょう!」


ユキさんはそう言ってプールに飛び込んだ。

すごい飛び込むな…なんか足からゆっくり入るイメージだったけど。


僕もプールに飛び込むとトコヨがスイスイ泳いでいた。

ちょっと気になる事があったのでトコヨを呼び止めた。

「なぁ、トコヨに掴まったら引っ張ってくれたりするの?」


「余裕でありんす!ちょっと掴まるでありんす!」

僕はトコヨの両サイドをガッチリ押さえる。その瞬間ものすごいスピードでトコヨが泳ぎ始めた。


うわ何これ速い!超楽しい!

息が続く限り水中の高速移動を体験した。


「そ、それ!私もやりたいです!」

「お安いご用でありんすー」


しばらくトコヨターボで遊ばせてもらった。水中を高速移動って楽しすぎるな…なぜかトコヨに捕まってると水の抵抗が弱くなるんだ、なんでだろ。


「トコヨって水の抵抗消してくれてたりするの?」


「え?はい、水流を調整してできる限り抵抗を無くして泳いでますよ」

そうなんだ、ありがとう。でもわっちとありんす抜けてるよ。徹底するならちゃんとしようね。


中々に疲れたので貝殻の浮き輪の上でお酒を飲みながら休憩中、白ワインをボトルから飲むユキさんはご機嫌だ。


「ショウさぁん、明日もギルド休んでもいいですかねぇ?」

明日休んだらガチのズル休みだよ?


「ショウさんと釣りしてぇご飯食べてぇ遊んでぇ、楽しかったんですよぉ」

ベロベロじゃん、でも楽しかったんだ。

最初はどうなる事かと思ったけどなんだかんだデートっぽいじゃないか。


「ショウさぁん、私、ずっとこうやって一緒に…」


……ん?寝た?気になるじゃん!何言おうとしたの!?

まあ動きっぱなしだったし疲れたんだろう。

厚手の毛布をポイント交換してユキさんにかける。


僕も少し寝よう…今日は疲れたけど楽しかったな…


………


いやだめだろ、ここ湖だからギルドがある町まで帰らなきゃ…うっかりしてたよ…


僕は眠い目を擦り運転をして町に帰った。

そしてユキさんの家の真下に到着。


もう限界!疲れた…少し寝よう。

僕は運転席で突っ伏して寝落ちした。

起きると9時を回ったところ、あれ?ユキさん寝坊してない?

立ち上がると毛布がハラリと落ちた。


毛布かけてくれたんだ…ちゃんと起きて行ったみたい。良かった寝坊しなくて。


僕も身支度をしてギルドに向かう、トコヨと大量の魚を持って…


ユキさんは通常通り出勤しており、溜まった仕事をせっせと片付けている。

「こんにちわー、あ!ユキさん!体調戻ったんですね!」

三文芝居!だがこうしないと遊んでたのバレちゃう!


「ショウさん、大丈夫ですよ、昨日は有給にして貰いました。結構溜まってたんです、有給」


ん?いいの?なんかズル休みがどうだのって…


ユキさんはやはり悪いと思ったらしくノアちゃんとマロンさんには正直に話したらしい。二人ともたまには休めと言ってくれたそうだ。

良い同僚だね。


トコヨをみんなに紹介し、大量の新鮮な魚を配ったらみんな上機嫌だ。このくらい単純な方が良いよね。

ユキさんは仕事に追われているし、


僕はトコヨの件もあるしダンジョンで見つけたドラゴンボーンのスタッフも渡したいので、シロを探すか。

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