第29話 冒険 ダンジョン

昨日の麻雀の結果レイさんは二週間のお休みを勝ち取った。

そして今僕と将棋を打っている。


ショウ様と旅行に行くと言ったのは酔っ払っていたからでは無いらしい。

正直言って僕はユキさんのいるギルドに戻って報告をしないといけないし、デートの約束もある。


レイさんを連れてギルドに行ってしまおうかとも考えたがユキさんの手前それはできない。


という事で、レイさんの旅の護衛という名目でどこかに行こうとなったワケである。

僕のお金でギルドに依頼を出した。正直報奨金が山ほど貯まっているので痛くも痒くも無いのだ。


「どこ行きます?どこか行きたい場所とかあるんですか?」


「正直何も考えないで飛び出してしまいましたので予定は特にありませんね。」

カクテルを飲みながら王手をかけられた。


「うーん、どこかあるかな…参りました」

将棋で軽く負け続ける二週間というのもなかなか厳しいものがある。


「強いて言うならですが…子供の頃冒険に憧れておりました。絵本のような…」


「冒険ですか」

話を聞くとレイさんの家は代々王家に仕えるメイドらしい。子供の頃からメイドとして育てられていたが、たまに母親が読んでくれる冒険の絵本が大好きだったそうだ。

いつか自分も…と子供の頃は冒険に夢を馳せていたが、大人になるにつれてメイド業が忙しくなり夢は夢のまま今まで生きてきた。


「まあ私はメイドですので冒険者ではありません、夢は夢のまま心にしまっておきます。」

良いじゃん!行こうよ冒険!


「行きましょう!大冒険!僕もそういうの大好きですよ!」


レイさんは少し困惑してからニッコリと笑って、

「それでは参りましょう!今ここから始まる大冒険ですね!」

元気よく声を上げた。

とても嬉しそうだ。まずは武器を調達して、冒険のできる場所を探そう。


「ではまずドワーフの町で武器と防具を買いましょう。そこでどこか探検できる場所を聞いてみたら案外あるかも!」

全速力で地下室を走らせドワーフの街に向かう。

なんだろうこのワクワクは、昂って来た!


レイさんと交代で運転し、なんとか夕方にはドワーフの町に到着した。


「ここがドワーフの町ですか…鉄を叩く音、立ちこめる熱気、何もかも新鮮です。」


「ここに知り合いがいるんですよ、あの飾ってある剣を打ってくれた鍛治師とその恋人が」

シンくんとキキちゃん元気かな、まず会いに行ってみるか。


僕達はシン君のいる工房を尋ねた。

「こんにちわー」


「いらっしゃいま…ショウさん!ご無沙汰してます!」

変わらずに鉄を打っているんだな。ちょっと大人っぽくなった?

「このメイドさんの武器が欲しいんだけど何かあるかな?あとどこか冒険が出来るような場所ある?」


「ショウ様のお知り合いの方ですか、レイと申します。何卒私に扱える武器を見繕って頂きたく…」

急にメイドに武器をと言われたのでシン君は明らかに動揺している。


「え?ショウさんメイドさん雇ったんですか!!」

このままだと話が進まないので訳あって王家のメイドと冒険に行くんだと説明した。


「なるほど…それだと女性でも扱える…短剣とか、ナイフですかね。」

少し見せて貰いますと店の中の武器を見て回るレイさん。


「このナイフ…手に馴染みます…しかし流石ドワーフの町の武器…値段が…」

お金?僕使わないからあげるけど?


「シン君、あのナイフ二本買うよ、いくらかな?」

どうせ使い道が無いんだ、宝の持ち腐れだから必要な人にはあげちゃおう。


「え?二本ですか!?あれは父がこの前取れた希少鉱石で作ったので高いですよ!?ショウさんにはお世話になったので割引しても…二本で金貨200枚くらいには…」


「え?200枚?はい、これで200枚くらいあると思う」

僕は適当に袋に詰め込んできた金貨をドサっと置いた。


「ショウ様…なにもそこまで…私は安いのを自分で買いますので…」


「いや大丈夫だよ、僕はスキルポイントがあれば生きていけるからね。」

だって買い物する必要ないんだもん。どうせこれからも依頼受けたら報奨金溜まってくし。


「なんか200枚以上あるような…」

まあ取っておいてよと気前良くお金を払い、僕は冒険できる場所について聞いてみる。


「ちなみに冒険出来そうな場所ってある?大雑把な聞き方で申し訳ないんだけど…」


「冒険ですか…東に初心者用のダンジョンがありますよ。もう探索はされ尽くしてますけど初めての冒険ななら丁度良いのでは?」


「ダンジョン!」

ダンジョンと聞いてレイさんは大きな声を上げた。

きっと興味があるのだろう。僕も一緒ですよ!


時は金なり、早速そのダンジョンに向かおう!

「あ、レイさん防具は買う?」


「いえ、メイド服が1番動きやすいのでこれで大丈夫かと思います。」

真面目な冒険者が聞いたら説教されそうな会話だ。でも正直地下室あるし危ない事は無いだろう。


早速東にまっすぐ進んでいくとダンジョンの入り口が見えた。

明らかにダンジョンだ。石造りの入り口に下に続く階段。中は真っ暗。明かり持ってきてないじゃん…


地下に戻り懐中電灯を二つとライターを準備、シン君に貰ったミッドナイト・ノヴァも持ってきた。ついに使う時がきたか。


「レイさん、準備はいい?」

「はい、ドキドキしてきました。今から絵本のような冒険が始まるのですね…」


二人で懐中電灯を照らしながらダンジョンに潜っていく。結構怖いんだが…大丈夫かこれ。


慎重に進んでいくが暗いだけで何もなさそうだ。どこまで続いてるんだろう…


「何かいます!!気をつけて下さい!」

油断しきっていた僕にレイさんが声を上げた。

懐中電灯を当ててみるとツノの生えた黒いウサギ?のようなものが3体こっちを見ている。


「モンスターです!倒しましょう!」

そう言ってレイさんは飛び出し、ものすごい速さでナイフを振っていく、ウサギもツノを立てて飛び込んでくるがレイさんはそれを軽く躱し、喉にナイフを突き立てた。」


え?強くない?なんかブレイズのアカネちゃんといい勝負な気が…


「王族を守る訓練もしていますからね、あとナイフはいつも使っているので慣れたものです。しかしこのナイフ…切れ味が素晴らしいですね…」

金貨200枚もしたからね、金貨がどのくらい高価なのかも知らないけど。


モンスターは討伐された後地面に消えていった。どういう仕組み?


「ダンジョンはモンスターを生み出します、そして死んだモンスターはダンジョンに返りまた新しいモンスターとなるようです。本で読みました。」

本当に冒険したかったんだな、メイド業務の間にダンジョンについて調べてるなんて。


「ちなみにモンスターは消える時に魔石を落とします。これをギルドに持っていくと換金できるようです。」


詳しすぎない?すごい調べてるじゃん。


「しかしドキドキしました…モンスターと戦える時がくるなんて…感無量です。」


「良かった。じゃあどんどん先に進もう」


懐中電灯の明かりを頼りにどんどん進む。階段を見つけては降りてを繰り返して今は地下四階だ。


「モンスターも強くなってきましたね、ボスは近いです。」

え?ボスとかいるの?さっき言ってたダンジョンがモンスター生み出すってヤツ?大丈夫かな…


レイさん曰くここは小さめのダンジョンらしい。大きいものはこんなに簡単に階段が見つかるはず無いそうだ。


「アレがボス部屋ですね、緊張してきました…」

たまにボスだけ異常に強いダンジョンあるよね、まぁゲームの話だけどさ。


僕達は緊張しながら扉を開ける、中を開けると燭台に火がつき、ボスが現れた。


「は?あれ絶対強くない?ミノタウロスってヤツじゃないの?」

二足歩行の牛の魔物、手には大きな剣…というか鉄の塊を持っている。


「良くご存知ですね、ミノタウロス、怪力が特徴の魔物です、行ってきます!!」

興奮して笑みが溢れているレイさんはミノタウロスに向かって走って行った。大丈夫なの?!本当に怪我しない!?


ミノタウロスはレイさん目掛けて剣を振り下ろすがひらりと躱し、足を切り付ける。

そして後ろを振り返ったミノタウロスだがレイさんはその後ろに回り込んでおり、また足を切り付ける。


膝をついたミノタウロスの背後から首に向かってナイフを突き刺すレイさん。

ミノタウロスは血を吐きながら最後の力で剣を振るが姿勢を低くしてギリギリで躱し、首に刺さったナイフでそのまま首を掻っ切った。


首から血を吹き出しながらドスンという音を立てて倒れるミノタウロス…強すぎる…そして格好良かった…


「ショウさん!やりました!ボス倒しました!!」

レイさんは楽しそうにはしゃいでいる、いやぁ凄かった…


僕何もしてないけど…格好いい剣持って突っ立ってただけだけど…


大きめの魔石を拾い宝物にしますと大事そうにカバンにしまっている。

良いなぁ!僕もかっこよく倒したいなぁ!


「とりあえず少し休みますか、大冒険とはいかなかったですが冒険しましたよね、僕達」


「はい、夢のような時間でした…まるで勇者にでもなったような…ありがとうございました」

少し物足りなさそうだな…でももうボス倒しちゃったし…半日で攻略しちゃったよ…


僕達は地下室に入り、お風呂に入る事にした。

よく見たらレイさん細かい傷結構あるな…ヒール風呂で綺麗に治してね。


風呂から上がった後に興奮冷めやらぬ僕らはダンジョンの話題で盛り上がった。


「大きなダンジョンだと隠し部屋みたいなものがあるらしいんです。宝物とかあるみたいですよ」


「へぇ、実はこのダンジョンも下に続いてたりして」

僕は気まぐれで地面透視を使ってみた。


あるな…下に続く階段…ボスの部屋の右角あたりか?


「少し調べてきます!」

レイさんは地上に駆け上がり、階段がある場所を調べに行く。

壁はボロボロと崩れ、隠された階段が姿を現した


レイさんは興奮しながら戻ってきて一言

「私達が発見者です!探索してしまいましょう!!」


正直地下室で探索したらすぐだが…

これは本当の大冒険になってきたぞ…

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る