第二章「秋風のさざ波」

「秋の夜に紡がれる感情の交差点」

窓の外では、秋風が木の梢を揺らし、さらさらと音を立てている。数枚の紅葉がくるくると舞い落ち、窓枠に彩りを添え、静かな教室にひときわ目立つ。鈴木太白は窓辺に座り、手にしたペンを無意識に紙面に軽く叩いていた。視線は問題集を越え、窓の外の黄金色の木々に落ちていたが、頭の中では再びあの雨夜の光景が蘇っていた。


その出会いは、静かな湖面に投げ込まれた小石のように、さざ波を広げた。それ以来、彼は沖田玉妃の一挙一動に目を留めるようになった。彼女は多くを語らず、いつも静かに自分の世界に浸っているが、時折見せる真剣な姿勢と集中力が彼を引きつけ、彼女についてもっと知りたいという思いを抱かせた。


「鈴木くん。」


馴染みのある声が彼の思考を遮った。


太白が顔を上げると、沖田玉妃が机のそばに立ち、真剣な目で見つめながら落ち着いた口調で言った。「今回のグループ課題、どう分担する?」


太白は軽く眉を上げ、彼女を見つめる目に探るような色を浮かべた。そして、カバンから数枚の原稿用紙を取り出して渡しながら、平静だが忍耐強い声で答えた。「これは僕の部分。どう直せばいいか見てくれ。残りは僕がやる。」


しかし、玉妃は手を伸ばすことなく、原稿の内容を一瞥し、少し眉を寄せた。「確かに論理は明快だけど、例えが硬すぎる。もっと身近な比喩にした方がいい。」


太白は少し驚いた。彼はこれまで自分の内容が十分に厳密だと考えていたが、まさかこのような角度で欠点を指摘されるとは思わなかった。彼は反論するように問いかけた。「厳密さだけでは足りないのか?」


「厳密さはもちろん大事。」


玉妃は真剣な表情のまま答えたが、次の瞬間、少し茶目っ気のある笑みを浮かべて言った。「でも、読者が読みたくなくなったら、厳密さに何の意味があるの?」


彼女の答えに太白はしばらく言葉を失った。彼はしばらく彼女を見つめた後、ため息をつきながら言った。「わかった。それならどう直せばいい?」


玉妃は椅子を引いて隣に座り、ペンを手に取って書き込み始めた。「例えば、この段落は『秋の落葉』を不確定な変化の比喩として使えばいいのに、機械的に規則性を述べるだけになっている。」


秋の斜陽が窓から差し込み、教室の中を照らしていた。その光は彼女の横顔を柔らかく包み込み、温かく真剣な表情を際立たせていた。太白は彼女のペン先が紙面を走る様子を見つめながら、胸の中に言葉にしがたい感情が湧き上がるのを感じた。


「本当に不思議だよ。どうして君はいつもこういうアイデアが浮かぶんだ?」


彼は小さなため息をつきながら、どこか困惑したように呟いた。


「たぶん、考えるのが好きだからかな。」


玉妃は軽快な声で答えたが、その笑顔には深く隠された疲労が漂っていた。「でも、時々疲れることもある……」


彼女の言葉はそこで途切れ、何かを漏らしたことに気付いたかのように黙り込んだ。


太白はその一瞬を敏感に捉え、彼女を見上げながら声を和らげて言った。「それなら、少しは楽を覚えたら?」


玉妃は驚いたように一瞬目を見開き、それから目を伏せた。しばらくして、低い声で呟いた。「たぶん、慣れてしまったんだと思う。いつも最善を尽くそうとしてしまうから……でも、時々本当に羨ましいと思うよ。」


「羨ましい?」


太白は目を見開いた。


「うん。」


玉妃は微笑みながら視線を窓の外に舞う紅葉へと移し、「君はいつも冷静で毅然としていて、迷わない。それに比べて私は、いつもあれこれ考え過ぎて、うまくいかないんだ。」


太白は黙り込んだ。他人の目には自分がそのように映っているとは考えたこともなかった。彼は、彼女が低頭しながら書き込む様子をじっと見つめ、耳元で揺れる髪の毛に微かに心が揺れるのを感じた。


そのとき、背後から軽快な声が聞こえた。「おや、二人とも随分と話が弾んでるみたいだね。」


太白が振り向くと、千葉夕嬢がドアのそばにもたれ、笑顔を浮かべていた。彼女は二人の間に近づき、冗談めかした口調で言った。「玉妃、そんなに真剣じゃ太白にまた面倒だと思われちゃうよ。」


玉妃はその言葉に顔を赤らめ、慌てて弁解した。「そ、そんなことないよ。ただ……」


「はいはい、わかってるって。」


夕嬢は手を振りながら太白に視線を向け、少し茶化した調子で言った。「太白、君ってほんと会話が苦手だよね。だから玉妃が緊張しちゃうんだよ。」


太白は困ったように眉を揉みながらも、反論することはなかった。彼は夕嬢の軽口に慣れており、むしろそれに安心感を覚えるほどだった。


夕嬢は顎に手を乗せ、楽しげに二人を見つめながら言った。「でもさ、二人とも息が合ってるじゃない?今度一緒に図書館で勉強するってどう?」


太白は眉を上げ、淡々とした声で答えた。「また君の怠け癖か?」


夕嬢はくすくす笑いながら言った。「バレちゃった。でもさ、私も一緒に行けば、ついでに雰囲気も和むでしょ?」


玉妃は太白を見つめ、一瞬躊躇した後、小さく頷いて言った。「いいよ、一緒に行こう。」


夕日が差し込む中、三人の影が長く伸びていった。秋風が吹き抜け、微妙な感情を吹き散らしながら、それぞれの関係を複雑な糸で織り成していくかのようだった。

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