「黄昏に宿る温もりと雨前のささやき」
午後四時を少し過ぎると、校門の周りには帰宅する生徒たちの姿があふれていた。急いで家に帰る者、友達と笑いながら遊びの計画を立てる者、塾に向かう者など、それぞれの足取りが見える。鈴木太白も校門を抜け出し、近くの本屋へ向かった。必要な本を買うためだ。
約三十分後、彼は本屋の中を歩き回り、書棚を眺めながら本を探していた。一冊のコミュニケーション術に関する本と、物理学の専門書を選び、レジで会計を済ませると、それらをカバンに入れて公園へ向かった。少し静かな時間を楽しむためだった。
公園近くの交差点に差し掛かったとき、彼の目を引く光景があった。年配の女性が道端で転び、手に持っていた買い物袋の中身が散らばっていたのだ。太白はすぐに足を速めてその女性の元へ駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
彼は優しい声で尋ねながら、そっと女性を助け起こした。
女性は太白を見上げ、少し感謝の表情を浮かべて微笑んだ。「大丈夫、大丈夫。横から黒い何かが突然飛び出してきてびっくりしちゃったのよ。それで転んじゃったの。でもありがとうね、若いのにしっかりしてるわ。」
太白は静かにうなずき、散らばった荷物を拾い集めて袋に戻すと、それを女性に丁寧に手渡した。「お気をつけてください。もう転ばないように気をつけてくださいね。」
彼は女性が無事に歩き去るのを見届けてから、公園へと足を進めた。そして公園に入るとすぐに、一本の大きな木の下で目に留まるものがあった。木製の小さな鳥小屋が地面に落ちていたのだ。彼はそれを拾い上げ、壊れていないか注意深く確認した。幸い、大きな損傷は見られなかった。
「風で落ちたのかな?」
彼はひとりごちると、木に登り、鳥小屋をもとの場所に戻した。その直後、「バサッ」という音が木の枝から聞こえてきた。見上げると、枝に挟まれた小さなボールが見えた。
「お兄ちゃん!あのボール取ってくれる?」
下を見下ろすと、可愛らしい服を着た二人の女の子が見上げていた。彼女たちは期待に満ちた目で太白を見つめていた。
「いいよ、待っててね。」
太白は微笑み、さらに上の枝に手を伸ばしてボールを取った。そして声を張り上げた。「ボールを下に落とすよ、ちゃんとキャッチしてね!」
二人の女の子は元気よく頷いた。太白がボールを軽く叩くと、ボールはふわりと落下し、女の子たちはうまくキャッチすることができた。太白は木から降りると、地面から少し離れた位置で軽くジャンプして着地した。
小さな女の子がボールを抱え、もう一人の女の子が地面に落ちた本を拾い上げて太白に差し出しながら、にっこりと笑って言った。
「お兄ちゃん、これ、落としたでしょ?」
太白は受け取った本を軽く眺めた後、微笑みながら尋ねた。
「ありがとう。この辺で二人だけで遊んでるの?お父さんかお母さんはどこにいるの?」
ボールを持っていた女の子が元気よく答えた。
「お父さんはまだお仕事で、お母さんはお家にいるよ!お家、すぐそこだもん。」
太白は「そっか」と頷きながら、そっと二人の頭を撫でた。
「でも、そろそろ帰ったほうがいいよ。暗くなったら、怒られちゃうかもね。」
女の子たちは顔を見合わせてから、少し照れたように笑いながら声を揃えた。
「分かった!じゃあね、お兄ちゃん!」
太白は遠ざかっていく小さな背中を見送り、近くの公園のベンチに腰を下ろした。そして鞄から買ったばかりの本を取り出し、ページをゆっくりとめくり始めた。空が徐々に薄暗くなる中、帰りを急ぐこともなく、この静かな時間を楽しんでいた。夕陽の残りの光が本のページに差し込み、彼の心に少しの暖かさを届けていた。
しばらく本を読んでいたが、ふと空を見上げると、いつの間にか厚い雲が広がっていた。太白は心の中で思った。
「雨が降りそうだな。」
そう考えながらも、本を鞄にしまい、その場を離れることはせずに何かを期待しているようだった。今日は少し変わった道を歩いて帰ろうと決め、これまで通ったことのない路地へと足を向けた。
歩き始めて約30分ほど経った頃、湿った涼しい風が彼の髪を撫で、心に微かな寂しさをもたらした。空はますます暗くなり、やがてポツリ、ポツリと雨が降り始めた。肩に落ちた雨粒を手で払うと、雨足が徐々に強くなっていることに気づいた。傘を持っていないことを思い出し、彼は周囲を見渡しながら雨宿りができそうな場所を探した。
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