第35話 個人的なお誘い



 エリザベス様と会場の端の方に移動すると、急にエリザベス様に添えていただけの手を取られた。


「え!?」


 エリザベス様は俺を見ると、『静かに』というように唇に指先を当てた。

 そして俺の手を掴んで、パーティー会場の庭園の奥に進んだ。

 

(ど、どうしたのだろうか!?)


 王家の庭は広大で、進んで行くと段々と人の気配もなくなり、エリザベス様と二人きりになった。


「この辺りでいいかしら」


 エリザベス様はそう言うと、俺を見ながら言った。


「回りくどいのは好きではないの。だから用件を言うわ。レオ、あなた……我が国に来る気はない?」


「え?」


 俺は唖然として口を開いた。


 どういうことだろうか?

 もしも、万が一にも俺が成人男性だった場合、逆プロポーズされたという可能性もある。

 だが、俺は現在10歳の子供だ。

 さらに、俺はただの伯爵令息だ。殿下にあいさつをするために歩み出て、皆が道を開けるような方が俺に求婚だなんて……

 それは絶対にありえない!!


 それならどういうことだろうか?

 本当に令嬢の考えることはわからなくて怖すぎる……


(はっ!! もしかして、不敬罪で自国に連れて帰って罰を!?)


 俺は段々と緊張で早くなる心臓を押さえながら尋ねた。


「エリザベス様、大変申し訳ございませんが……それはどういった意味でしょうか?」


 勇気を出してエリザベス様に尋ねると、エリザベス様は、何か気づいたように顔を赤くして慌てて言った。


「ご、ご、ご、誤解しないで!! これは私があなたに求婚したわけではなく、まぁ、どうしてもあなたが結婚を望むなら考えてあげないことも……」


 エリザベス様の会話の途中で一陣の風が吹いた。

 そして気が付くとキャリー様が俺の前にいた。


「レオ様、求婚って……どういうことですか!?」


 そして俺の肩を本気で大きくゆする。

 キャリー様はお子様とは言え、毎日剣の訓練を欠かしていないそうなので、腕力があり、なんといっても俺も子どもだ。


(ううっ~~脳が揺れる~~~)


 俺が肩を揺さぶられていると、ノア様とリアム様までやって来た。


「キャリー、何をしているんだ!!」


 ノア様が声を上げた後に、リアム様も声を上げた。


「レオが白目に……キャリー嬢。何があったか知らないが、その辺にしておけ!!」


 二人に声をかけられて、キャリー様が混乱したように言った。


「だって、レオ様ったら、先ほどと服も変わっているのです!!


 俺は小さな声で「ご……」(誤解です)と言いたかったが言葉にならない。


「ご……まさか、ごめん!? どういうことですか~~レオ様~~」


 説明したかったが、キャリー様にさらに両肩を持たれて揺さぶられて声が出ない。

 本格的に意識が薄くなりかけた頃。


「キャリー、やめろって!!」


「キャリー嬢。そこまでだ!!」


 ノア様とリアム様が止めて下さってようやく俺はキャリー様から逃れたのだった。

 両腕を押さえられたキャリー様を見て、エリザベス様が顔を歪めて言った。


「……ふっ、まるで野獣ですわね」


「なんですって!? この女狐!!」


 キャリー様が今度は、エリザベス様に向かって声を上げた。


「女狐!? そんなこと初めて言われたわ!! さすが野獣だわ、デリカシーがないのね!!」


「どっちがデリカシーがないのよ!? 女の子に向かって野獣なんていう方がどう考えてもデリカシーがないでしょう!?」


 リアム様が、二人の間に入って、ノア様がキャリー様を押さえた。それでも二人は激しい言い争いをしてる。


「ちょっと、二人共……落ち着いて……!!」


「キャリー、エリザベス嬢。本当にどうしたの!? 落ち着いてぇ~~」


 ヒートアップする二人をノア様とリアム様が本気でなだめていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る