第34話 道を割る令嬢
もうすぐ会場というところで、エリザベス様が俺を見ながら言った。
「あなた……もうアレクサンダーにあいさつに行ったの?」
俺は「まだです」と答えた。するとエリザベス様は俺を見ながら言った。
「では、すぐに済ませて会場の端でゆっくりとお茶にしましょう」
俺は基本的には最後の方にならないとあいさつはできない。
だが……エリザベス様とご一緒の場合はどうなのだろうか?
本来なら爵位を持つ者が初めてにあいさつをするが、その家族やパートナーも一緒にあいさつに行ける。
俺はこの場合、エリザベス様の家族ではないが……パートナーになるのだろうか?
「あの……私はエリザベス様の……その……パートナーということでよろしいのでしょうか?」
エリザベス様は怪訝な顔で俺を見ながら言った。
「当たり前でしょう? さぁ、行くわよ」
「は、はい!!」
俺はエリザベス様のパートナーとしてアレク殿下にお祝を伝えることになったのだった。
エリザベス様と一緒に会場に入った瞬間、視線を感じた。
そしてエリザベス様がアレク殿下のいらっしゃる方に歩いて行くと、みんなが道を譲ってくれた。
正直に言って恐れ多い。
むしろ、逃げたい。
どうしてこんなことに!?
爵位を持つ方々に道を譲られて、俺は少しだけ身体を丸めて歩く。
するとアレク殿下の前に辿り着いた。
「アレクサンダー様、本日はお招きいただきありがとうございます」
エリザベス様が淑女の礼をした。
惚れ惚れするほど完璧で美しい。
アレク殿下は、俺を見て一瞬驚いたようだが、すぐに事情がわかったのか、王族の威厳を持ちながら言った。
「どうぞ、楽しんで下さい」
「ええ」
そしてエリザベス様が俺を見たので、俺は急いで頭を下げた。
「アレクサンダー殿下、本日はお招きいただきありがとうございます。また、お誕生日おめでとうございます!!」
すると周りが一斉に俺を見た。
(な、なんだ!? 俺……おかしなことを言ったのか?)
動揺していると、アレク殿下の近くに立って他の人と話をしていたはずの美しい女性……この国の王妃殿下が、こちらを見ながら微笑みながら言った。
「ふふふ、アレクの誕生日をお祝してくれるのね、ありがとう」
にこやかに微笑みかけられて思わず見とれていると、エリザベス様が俺の脇腹を突いたので、慌てて「お声掛け頂き光栄です」と言った。
今日は王妃殿下にあいさつする予定なかったのだ!!
そもそも俺は本来なら王妃殿下と言葉を交わせる身分ではない!!
それなのに、声をかけてもらえた!!
あいさつをした俺に、アレク殿下が微笑みながら言った。
「母上、この人がレオナルドです」
すると王妃殿下が声を上げた。
「まぁ、あなたがあの蜜の花の!! またぜひ分けていただきたいわ。ふふ」
その瞬間、一斉に皆の視線が突き刺さる。
周囲からひそひそと声が聞こえる。
正直、居たたまれない!!
「有難き幸せでございます」
変な言葉だっただろうか?
もう、緊張して自分でも自分がわからない!!
「それでは王妃様、アレクサンダー様、御前を失礼いたしますわ」
エリザベス様が優雅にあいさつをしたので、俺も慌てて頭を下げた。
「レオナルド、楽しんでくれ」
アレク殿下に声をかけてもらって俺は「感謝いたします」と言って、エリザベス様と一緒にアレク殿下の前から去ったのだった。
アレク殿下の側を離れて歩いたが、常に視線が突き刺さる。
俺はエリザベス様の隣で背中を丸めていた。
「レオ。折角素敵な服を着ているのよ? 背筋を伸ばして堂々としていなさい。アレクにも言われたでしょう? 楽しめって」
「……っは!」
俺は急いで背筋を伸ばした。
するといつもとは違う景色が見えた。
いつもはこんなに豪華で、人の多いパーティーに参加することなどない。
本当に多くの人が参加していた。
俺は胸を張ってエリザベス様を見て微笑んだ。
「ありがとうございます。エリザベス様。本当にそうですね、楽しみましょう」
するとエリザベス様の顔が急に赤くなって、瞳を逸らされた。
「(そう、その顔が見たかったのよ……)」
何かを小声で言われたが聞き取れなかった。
「申し訳ございません、聞こえませんでした」
「なんでもないわ!!」
そして俺はエリザベス様と共に会場の隅に向かったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます