第24話 忙しさは成長に昇華する
「レオ、今日はありがとう、楽しかったよ。また、詳しいことは話をするとして……今日は帰るね」
ノア様が馬車に乗る前に、俺にお礼を言ってくれた。
「こちらこそ、本日はありがとうございました」
俺はノア様に頭を下げた。
アレク殿下と、エリザベス様はみんなで見送りをしたのですでに帰られた。
ノア様の後に、キャリー様も「今日は本当に楽しかったですわ!!」と言って笑顔で伝えてくれた。俺が「こちらこそありがとうございました」と言うと馬車に乗り込んだ。
その後、リアム様が「今日は楽しかった。またな」と言って馬車に乗り込んだ。
俺は馬車に乗ったリアム様に「こちらこそありがとうございました」と伝えた。
そして三人の乗った馬車が動き出したので、俺とアルは手を振った。
俺はアルと共に、お招きしたお客様をエントランスでお見送り、とうとう馬車が見えなくなった。
(何の問題もなく無事に終わってよかった……)
途中、少し戸惑うことはあったが、終わってみれば特に問題もなかったことに安堵していた。
皆様の馬車が完全に見えなくなったので、そろそろ屋敷に戻ろうかと思っていたところで、アルが興奮したように言った。
「兄さん、凄いですね!!」
「どうした? 急に?」
俺にはアルがなぜ興奮しているのか、いまいちよくわからなかった。
「レオナルド様!! やりましたね!! これは忙しくなりますね!!」
先程までここにいなかったはずの父の秘書のオリヴァーも興奮気味に言った。
実はオリヴァーはお客様に何かあった時にすぐに対応できるように近くに控えて貰っていたのだ。
「忙しくって……たった今、お茶会が無事に終わったばかりなのだが……」
俺は今日までこのお茶会の準備でとても忙しかったので、やっとゆっくりとできると思っていた。
「今日中には侯爵家から使者が来るはずです。こうしてはいられません。急ぎ、伯爵に報告をしなくては!! それでは、レオナルド様。私は一度失礼致します」
オリヴァーは慌ただしく屋敷の中に戻って行った。
「…………?」
俺は首を傾けた後に、「ふぁ~~」と伸びをすると、執事のギョームの方を見た。
「皆に感謝を伝えてくれ。ご苦労だった。準備して食べなかった菓子は皆で分けてくれ」
今回のお茶会のお菓子は、一つ一つがとても小さかったので、すぐに追加できるようにお菓子を大量に用意しておいたが、それほど必要がなかったのだ。
「はい。ありがとうございます」
そして俺はアルの方を見た。
「さて、ムトに蜜の花の評判がよかったことを伝えに行くか」
「はい!! きっとムトも喜びますね」
「ああ」
俺たちは笑いあうと、ムトに蜜の花の評判を伝えるために温室に行き、ムトに『評判がよかったこと』を伝えたのだった。
ムトもとても喜んでくれて、俺とアルはそれぞれの部屋に戻った。
+++
部屋に戻ると俺は、すぐに楽な服装に着替えた。
「ふぅ~。慣れないことは疲れるな……」
以前の俺は、一度も家でお茶会など開いたこともなかった。
それどころか、執事や侍女とまともに話をしたこともなかった。
父もずっと領地にいて、母は一人で夜会に出席していたが、この家でお茶会を開くことは一度もなかった。
父はいない。
母も父の代わりに、お茶会や夜会、社交を一人で引き受けており多忙。
広い屋敷に一人だった。
母が死んだ後は、継母とアルフィーが一緒に住むことになったが、俺は二人を嫌っていたのでかかわることはなかった。
家ではほとんど自室に籠り、学園でも当たり障りのない無難な人間関係を築いていた。
ずっと孤独だった、と――……そう思っていた。
だがそれは俺が自ら作り上げた孤独だったのだと今になってようやく気づいた。
自分から、父を疎んじ、弟を拒絶した。
屋敷の者に頼ろうともせず、1人でなんとかしなければとあがいていた。
そう……。
あの頃の俺は、人を寛容し、人に頼るということが出来なかったのだ。
だからこそ俺の孤独に付け入って、すり寄ってきたローズ……本当の名前はわからない人物に振り回されることにもなってしまった。
俺は窓の外を見ながら小さく呟いた。
「ふぅ~~ここは以前と同じ世界なのだろうか?」
誰かが『つらいことがあっても時間が解決してくれる』と言っていたが、その言葉を思い出した。
「……そうか……」
その時、俺は以前のことがすっかり過去のことになっていことに気づいた。
今の私には父を疎む気持ちもなく、弟を憎んでもいない。
父が浮気をしていたことは許せない。
だが父の政治手腕は尊敬している。
結果、今は父というよりも、領主の先輩として接している。
今回、俺が『お茶会をしたい』と言うと、父は『費用はいくらかかってもかまわないから、お前の納得する会を作り上げろ。私は手出しはしない』と言ってくれた。
そして本当に手も口も出さずに見ていてくれた。
オリヴァーをサポートにはつけてくれたのだが……。
オリヴァーも私の聞いたお茶会のマナーのことに答えてくれたり、私の要求に答えてくれただけなので、何かを強制されたわけではなかった。
いくらご学友とのお茶会といえ、来賓は王族や公爵家や宰相家という高位貴族だ。
それなのに、まだ幼く未熟な俺の決断を黙って受け入れることのできる父に感謝した。
――……許せない。
――……感謝している。
相反する感情に戸惑いはするが、物事の別の側面を見つけたということは、それだけ私が世界を知ったということなのだろう。
「お時間よろしいですか?」
俺が考え事をしていると、ドアがノックされアルの声が聞こえた。
「かまわない」
俺が声をかけると扉が開いてアルが入って来た。
「兄さん、失礼します」
アルも着替えを済ませたようで、笑顔で話かけてきた。
「今日は、兄さん主催のお茶会の成功祝いで、御馳走らしいですよ」
「……へぇ~~料理長も今日のお茶会の準備で疲れているだろうに……有難いな……」
俺は胸が熱くなるのを感じた。
きっと厨房は、お茶会の準備でとても忙しかっただろう。
それなのに俺のために豪華な料理を用意してくれたのだ。
俺は嬉しくて泣きたくなるのをこらえて、あえて大きな声を上げた。
「そうか!! それは楽しみだな!!」
「はい!!」
俺は心の中でもう一度屋敷の者に感謝したのだった。
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