第23話 お茶会のマナー
お招きした方々が楽しんでくれていることにほっとしていると、今回のメインイベント、蜜の花が運ばれて来た。
(皆様に受け入れて貰えるといいのだが…………)
この蜜の花はすでに食用であると、しかるべき場所に申請も済ませて許可も得ている。
だが見慣れない物であるので、受け入れられない可能性を考え、後から入れられるようにした。通常の砂糖なども用意してある。
(あまり押し付けがましくならない程度に召し合って貰えるように働きかけよう)
俺は緊張した面持ちで皆様の様子を見ていた。
「これはなんだ?」
「見たことがないわ……」
皆様が怪訝そうな顔をしているので、俺は蜜の花を自分のお茶のカップに入れるとスプーンを持った。そしてみんなの顔を見ながら説明した。
「皆様、これは蜜の花です。こうしてお茶に入れて、ティースプーンで軽く触れて見てください。見慣れないとは思いますが、食用としての認可を得ておりますのでご安心してお召し上がりくださいませ」
俺は自分の前に置かれたお茶の中に浮かんでいる蜜の花の蕾をスプーンで軽く触れた。
「軽く?」
「触れる?」
キャリー様とノア様が不思議そうに言った。
皆様は不思議そうな顔をしていたが、それぞれ蜜の花にティースプーンで触れた。
するとゆっくりと蜜の花が開き、辺りの甘い香りが漂った。
そう、この蜜の花はティースプーンで軽く花に触れると、花の蕾の中から蜜が溢れると共に綺麗な花が咲きお茶の中に浮かぶのだ。
「わ~~!! 素敵~~~~!! 花が咲いたわ~~!!」
キャリー様が笑顔を見せてくれた。
「うわっ!! なんだこれは?? 花が咲いた思ったら中から何か……」
ノア様はとても驚いておられるようだった。
「ああ。いい香りね~~。甘いに匂いに癒されるわ……」
先程まで不機嫌だった様子なと微塵も見せずに、エリザベス様がうっとりとお茶を見ていた。
そして俺が一口飲んで見せた。
「蜂蜜よりも甘さは控えめですが、今日のお茶にはとてもよく合う甘さだと思います。どうぞ、お試しください」
飲んだ後にそう言うとリアム様が真っ先にカップを手に取った。そしてカップに口を付けた。
「へぇ~~面白いな……砂糖も入れていないのに甘いんだ…………。それにこの茶葉は苦味があるはずなのに……蜜の上品な甘さで、爽やかな後口になった。」
リアム様が一口飲むと、目を大きく開けながら言った。
(ああ、皆様喜んで下さっている。よかった!! あれ?)
皆様の楽しむ様子を見てほっとしていたのも束の間。
アレク殿下は眉間に皺を寄せて、お茶をじっと見つめていた。
(もしかして、アレク殿下は初めて口にする物などは毒見など何か注意するべきことがあるのだろうか??)
私がお茶を変えるために殿下に話しかけようかと迷っていた時、アレク殿下が、ゆっくりとカップを口に近づけお茶を口に含んだ。
そして次の瞬間、驚愕の視線をリアム様の方に向けて叫んだ。
「リアム……!!」
リアム様がゴクリとのどをならすと真剣な顔をした。
「はい、どうやら私たちは運がいいようですね」
「ふふふ……これは、勢力図が変わりますね……」
ノア様が呟いた。するとアレク殿下がニヤリと笑った。
「ああ。ガラリとな!! これで、ラキーテ公爵に一泡吹かせてやれるんじゃないか?」
「ふっ。泡を吹くのは彼だけではないでしょう……」
先程まで楽しいお茶会だったはずが、なんだか緊迫した空気に包まれていた。
(何だ!? 何があったのだ!?)
俺が皆様の様子に不安になっていると、リアム様が口を開いた。
「レオ。この蜜の花はどうしたんだ?」
リアム様の様子がいつもと違っていたので、私は背筋を伸ばしながら答えた。
「はい!! 我がノルン伯爵家に長く使えております庭師が作り出した花にございます」
私の言葉にノア様が呟くように言った。
「作った?? この花を!?」
「はい」
するとノア様がいつもの天使のような笑顔ではなく、悪魔のような笑顔を見せた。
「ふっ。ますますいいね、最高だねぇ~~。作ったのか……それは権利関係根こそぎイケるね」
(ひぃ~~~ノア様が怖い!! これはいいのか、悪いのか?)
俺の不安をあおるようにアレク殿下が嬉しそうに口を開いた。
「ああ。どこかに自生していたのを見つけたとなると、別の場所ですでに使われているかもしれないが…………作ったなら最強だな。ははは……」
リアム様が頷きながら言った。
「そうですね。レオ。この蜜の花の生産は現在どのように?」
「は、はい。庭の一角に温室を作り花を増やしております」
事態をはっきりと把握したわけではないが、正直に答えた。まぁ、王太子殿下と公爵令息と次期宰相相手に答えないなどという選択肢は初めからないのだが……。
「ある意味、今回の客人が我々でよかった」
アレク殿下がほっとしたように言った。
「…………と言いますと?」
俺は殿下の言葉の意味がよくわからなくて聞き返していた。すると答えてくれたのはリアム様だった。
「レオ。この花は実に素晴らしい物だ。この花の権利が他に奪われぬように、ノルン伯爵家との正式な話合いの後、我がネーベル公爵家が保護する」
「奪われる?? 保護!?」
予想を超える話の展開についていけない。
おかしい?
俺は本来なら26年の経験値があるはずだ。
だが……全くこの展開についていけない。
何がどうなってしまったのかわからずに混乱していると、ノア様が普段よりもずっと大人びた様子で言った。
「レオ。心配しなくていいよ。クラン侯爵家が、ネーベル公爵家との話合いの立ち合い人になるよ?」
「宰相様が立ち合い!?」
ネーベル公爵家との話合いというだけで、恐れ多いが、まさかその立ち合いを宰相様がさせる??
「王家も出資しよう」
アレク殿下真剣な瞳を向けてきた。
「…………王家が出資!?」
俺はあまりに話が大きすぎて話についていけていなかった。
そもそも今日は、お世話になった皆様に感謝を伝えるお茶会だったはずだ。
それがどうしてこんなことになったのだろう。
俺の頭は困惑で真っ白になってしまって何も答えることが出来ずに固まってしまったのだった。
――その時だ。
「そこの無粋な殿方!! 今はお茶会でしてよ? これほどの物を用意して下さった方々のおもてなしのお気持ちがわかりませんの?! アレクサンダー、あなた先ほど私に注意したばかりではなくて?」
ずっと黙ってお茶とお菓子を楽しんで下さっていたエリザベス様が声を上げた。
「そうですわ!! レオ様が、折角素敵なお菓子とお茶を用意して下さったのですから、そのような話はお茶会が終わった後にされてはどうですの!? お兄様こそ、先ほど私にお茶会を楽しむための心構えを説いたばかりですわ」
キャリー様も厳しい口調で言った。
(凄い、息がぴったりだ……やはり仲はよろしいのだろうか?)
エリザベス様とキャリー様が優雅に殿下やノア様に向かって言った。そしてリアム様が真っ先に口を開いた。
「あ、ああ。そうだな……レオ。すまなかった」
リアム様の言葉に俺は恐縮してしまった。
「そんな!! 私の方こそ、咄嗟に何もお答えできずに申し訳ございません」
謝罪をすると、アレク殿下が口を開いた。
「いや、今のはどう考えても私たちが無粋だった。今のは完全にマナー違反だ。すまない、だが……レオ、こんな素晴らしいもてなしは、初めてだ!! 感謝する」
アレク殿下に言葉に俺は急いで頭を下げた。
「光栄です!! ありがとうございます」
すると今度はノア様が申し訳なさそうに言った。
「ごめんね。レオ。折角のお茶会を、さぁ、別の種類のお茶も飲んでみたいな~~」
「ぜひ!!」
こうして、またお茶会が再会した。
――だが、この時の私は知らなかったのだ。
このお茶会が後のとんでもない事態を引き起こすことを…………。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます