第15話 貴族の恩返し
侯爵家のパーティーに呼ばれて数日後。
俺はいつものように学園で授業を終えた。
「レオ、今の内容はどう解釈した?」
隣のリアム様に尋ねられて、俺は「そうですね。ノブレス・オブリージュの一例だと解釈いたしました」と答えた。
物語の中で、貴族が貧しい人々のために炊き出しをする。そんな話を教師は紹介する。だが、何を言うわけでもなく、ただ紹介するだけだ。
以前の俺は、ただ教師が紹介する話を美談として聞き流しており、こんな幼い頃から貴族の在り方を遠回しに教えていたとこに気付けなかった。
「私もそう解釈した。だが、先ほどの例は一時的には良いかもしれないが、長期的に考えると現実的ではないと思えないか?」
俺は以前領主をしていた時のことを思い出した。
先ほどの例は一時的に財源に余裕がある時はいいが、長期的に行うと考えた時に財源の確保が苦しくなりそうだと思えた。
「そうですね……長期的に考えると財源の確保が問題になりますね」
するとリアム様が頷いた。
「ああ。私も同意見だ。教師があのような話をして何も意見を言わないのは我々に様々な事例を与えて、考えさせるためだ。レオ、今後も意見を聞かせてくれるか?」
リアム様たちはこんなも幼い頃から様々なことを主体的に学んでいたのだ。
俺は大人になればこのような人々と交渉をしていくのだ。
(以前の俺が全く歯が立たなかったはずだ……)
俺は頷きながら返事をした。
「ぜひ」
リアム様と授業の内容の話を終えると声をかけられた。
「レオ~。今日は診察予定日でしょ? 一緒に帰ろうよ、馬車はもう待たせてあるから」
すでに鞄を持って帰る支度の終わったノア様がとても楽しそうに声をかけてくれた。今日は侯爵家のお抱えの医師に診察を受けるためにノア様の屋敷に伺う予定の日だったのだ。
「はい。よろしくお願いいたします」
片手で本などを荷物を鞄につめると頭を下げた。
ノア様は相変わらず楽しそうに言った。
「気にしなくていいよ。それにね、なんと新作のケーキもあるんだよ」
「それは……楽しみですね!!」
ノア様に笑いかけるとリアム様が小さく呟いた。
「私も行こうかな……」
リアム様の呟きを聞いて、すでに帰り支度を終えていたアレク殿下が溜息をついた。
「私は無理だな……父上の代理で軍議に招集されている。リアムも無理ではないか? 今日軍議だということは公爵殿がいないということだろう?」
「ああ、そうか。今日か……残念だな」
どうやらアレク殿下とリアム様は忙しいらしい。するとノア様が俺の鞄を持ちながら言った。
「まぁ。元々2人は呼んでないですから、来られなくてもお気になさらず~~。じゃあ、レオ行こうか」
「ノア様、鞄、持てます!!」
(宰相家のノア様に荷物持ちをさせるなんて!!)
慌てて鞄を受け取ろうとしたが、ノア様はなんでもないというように言った。
「気にしないの。今日は弟はいないだろ? 代わりに持つよ」
いつもは授業が終わるとアルが走って来て俺の教室に現れて、鞄に荷物を入れたり、鞄を持ってくれたり手伝ってくれているのだ。
だが、今日は侯爵家に行くので『来なくていい』と言ってあった。
(こんなことなら、アルに馬車乗り場まで来てもらえばよかった……)
俺は、どう返事をするべきか悩みながら言った。
「しかし……」
「レオ。持って貰え、その方がノアも安心する」
「ああ。無理するな、こういう時は身分など気にせずに素直に甘えればいいのだ」
アレク殿下とリアム殿に言われてしまえば折れるしかない。
「では……お願い致します。ありがとうございます、ノア様」
「いえいえ~~、気にしないで♪」
恐れ多くも宰相家でもあるクラン侯爵のノア様に荷物を持ってもらうことになったのだった。
+++++
ノア様と二人並んで歩くとみんなに注目される。
「ノア様の隣の方はどなた?」
「ケガをしている生徒にノア様が手を貸しているのではないか?」
「まぁ、さすがノア様。お優しいわ」
ノア様に鞄を持たせるなんて……と攻撃的な視線を向けられるかと思ったが、ケガをしていることもあり、そんな視線は向けられなかった。
(よかった……)
少しだけほっとしながら、学園の生徒専用の馬車乗り場に向かうと侯爵家の馬車が停まっていた。
俺たちが馬車に近づくと、弾んだような明るい声と共に誰かが馬車から飛び出して来た。
「おかえりなさい!! レオ様!! お待ちしておりましたわ!!」
馬車の中から飛び出してきたのは、溢れんばかりの笑顔キャリー様だった。
「え!? キャリー様!? どうしてこちらに??」
キャリー様がいたことに驚いていると隣にいたノア様が深く溜息をついた。
「あ~、やっぱり来ちゃったんだ……」
キャリー様が嬉しそうに俺の顔を見た。
「当然ですわ!! 本当は学院の中もレオ様のお手伝いがしたいのです。それなのに、部外者は入れないなんて!! あんまりです。ですからせめて今日くらいは私にお世話をさせて下さい」
8歳の女の子にうるうるとした瞳に見つめられて俺は思わず、キャリー様の頭を撫でた。
「お気遣いありがとうございます。それと、またキャリー様にお会い出来て光栄です」
そう言って笑うとキャリー様はとても嬉しそうに笑った。
「はい!! レオ様、どうぞこちらへ」
俺はノア様の方を見た。
「あの、ノア様がお先に」
するとノア様が困ったように小声で言った。
「(レオが先に乗って。キャリー目立ち過ぎるし……早く馬車の中に入れよう。レオが入ればキャリーも入るよ)」
「なんですの?」
俺たちの話が聞こえなかったキャリー様が不機嫌になったので、「お邪魔します」と急いで馬車に乗った。
「ああ、レオ様お待ち下さい!!」
本当に俺が馬車に乗り込むとキャリー様も馬車に乗り、俺の隣に座った。
ノア様も乗り込むと程なくして馬車が動き始めた。
「あの……レオ様。手を繋ぎましょうか? 揺れるでしょ? 平気ですか?」
キャリー様がまるで姫をエスコートするナイトのように俺に手を差し出してきた。
「いえいえ、普段から馬車には乗っておりますので……」
やんわりと断るとキャリー様はしゅんとした後、何かを思いついたように顔を上げた。
「ですが、慣れない馬車は不安でしょ?」
(ん~~手伝いたいのかな? これは手借りた方がいいのだろうか……?)
どうするべきか悩んでいると、ノア様が困ったように言った。
「ごめん、レオ……手を繋いであげてくれない? このままだと何か手伝うために君の家に泊まり込むと言い出しかねない」
(……それは困る!!)
キャリー様はきっと罪悪感から手を貸してくれようとしているのだろうから、それを拒絶したら、気に病んでしまうのも無理はない。
俺は緊張しながらもキャリー様に手を差し出した。
「キャリー様、ではお言葉に甘えてもいいですか?」
おずおずと手を差し出すと、キャリー様がとても嬉しそうに瞳を輝かせながら俺の手を握ってくれた。
「もちろんです!! 絶対にレオ様を危険な目になど合わせません!! どんな激しい揺れが来ようとも、決してこの手を離さないと約束いたします」
(どんな危険な場所に行くの!?)
冷や汗が出たが、キャリー様の真剣な顔を見ると『妹がいたらこんな感じなのだろうか』と少しくすぐったい気持ちになったのだった。
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