スワロウテイル バタフライ

菜の花のおしたし

第1話 鳳蝶

寒いけど、換気もしなきゃって

覚悟してベランダを全開にする。


うわー、やっぱり寒い。

ひーーっ。


ふわりふらふら

アゲハチョウが力無く飛んで

家に入ってきた。


ポトスの葉っぱに

身を委ねるように

休んでたから

命を終えるのに

ここに来たのかと思った。


しばらくしたら、ふわりよろめくように

上へ下へと羽ばたいて

外へと出て行った。


なんだったの?

ポトスを見ると、小さなたまごがひとつ。


どうして?

こんな時期はずれに産んだの?

たまごから孵化できるの?


困りながら見守ることにした。

やがて、小さな、小さな青虫が産まれた。

貧相な弱々しい青虫だった。


虫籠を買って、木屑を敷いて止まり木と柔らかい青菜を入れてやった。

暖かい場所に置いた。

小さいけれど、食欲旺盛。

もりもり食べた。

だけど、あんまり大きくならなかった。


他の青虫はとっくに蛹になって越冬の

準備してるはず。

君は蛹になれるの?


仕事から帰ってきたら、止まり木に

ピンと背筋を伸ばして固まっていた。

蛹になるんだってわかった。

小さな蛹だった。


蚕も蛾もそうだけど、蛹や繭の中では

一度は溶けて新しい自分に生まれ変わる訳じゃない。

それって覚悟がいるわよね。

どんな姿になれるかなんてわかんないもの。

この蛹はどうなりたいんだろう。


やがて蛹は茶色になった。

季節も変わって春が来た。


毎日、期待と不安に仕事なんかやってられないわよ。

友達との約束もブッチして直帰する。


あ、何だか、背中んとこ切れ目が入ってない?

明日の朝なのかな??

起きて見てたい。

でも、そんなの嫌かな。

静かに普通にしとこ。


ふぁーーーっ、何だかぐっすり眠れなかった。

何度も目が覚めて、蛹をこっそりと見に行っちゃった。

さあ、どうなったんだろ、、。


あ、背中から出てきてるわ。

透明な羽が朝の光で輝いてる。

命の誕生ってこんなに美しいものなのね。

やがて、羽は色好き大きく広がる。

ちゃんとアゲハの羽色。

何度か羽ばたく。


やっぱり、小さいね。

だけど、頑張ったよね。


私は虫籠に手を入れた。

アゲハ蝶はわかっていると言うように

私の手にのった。


君のお母さんはね、本当なら命を終えなきゃなんなかったんだと思うんだ。

その時に君がからだに宿ってる事に気がついたんだ。

産むのはね、ものすごーい力がいるのさ。

お母さんはこのまま、君と一緒に命を終えようかとも考えたんだと思うんだ。

けれどね、きっと君がこの世界に産まれたがってるのがわかったんだよ。

最期の力を振り絞って、君が安全に育つところを探してね、うちに来たのよ、きっと。


アゲハ蝶は私の説教を健気に聞いていた。


ベランダを開けて、朝日の方へ手を差し出した。

生きなさい、この世界の中で。


アゲハ蝶はふわりと浮き上がる。

私の周りをふわふわしたあと

大空へ飛んでいった。














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