第13話「ボス」

第十三話「ボス」


 俺たちは、ボス部屋の前に来ていた。

 アレックスのことに関しては、誰も何も言わなかった。

 美優や、フーコにも伝えたが、どうやら信じてはいないらしい。

 俺も信じていない。

 あの時、アレックスであるという証拠は、アレックスの持っていた鉄剣だけだ。

 しかし、それはたまたまだったという可能性もある。

 あの悪魔みたいなモンスターが、実は食べてしまったとか、アレックスでないという可能性のほうが高いのだ。

 だから、俺もアレックス=第三百層のボスとは考えていない。


 いまのところは。


「このボスを倒せば、いよいよ第二百九十六層か」

「意外に順調だな」


 俺が晴彦の言葉に返す。


「ここのボスは強い。俺でもすり抜けができなかった」


 レンダが言った。


「そうか。そんなこと、言ってたな。どんなボスなんだ?」

「姿は見ていない。だけど、強かった」

「そうか……」


 ギギ……。

 扉をそっと、開けてみる。


「いいな? 死ぬことのないように、やっていくぞ!」


 ギギギギギ……。

 ガコン!


 そこに、何もなかった。


「本当に何もないぞ? ボスはどこだ?」


 晴彦が剣を引き抜きながら、言った。


「おい、あれを見ろ!」

「え?」

「ふはははは!! 来たな」


 喋っている!? どういうことだ!?


「我は、第二百九十六層のボス――ベルクーリ」

「ボスが喋っている? 何だ、お前、誰だ?」

「だから、ボスだって言ってんだろうが!!」

「は?」


 俺たちは、開いた口が塞がらなかった。


「そんなことある?」

「私も聞いたことがないです。ボスが人間で、喋っているなんて」


 その瞬間、俺の剣は真っ二つになった。


 パキィッ!


 カラン。


「お、折れた……!」

「もし、何もしないのなら、殺すけど、いいかな?」

「つ、強い……」


 そして俺は吹っ飛んだ。

 何も答えなかったからだ。


「くあっ!! う……」

「繭村さん!!」


 壁にめり込む。


「うう……。何だよ、クソ野郎がよ……」

「弱い。弱い、弱い!!」


 何だ、あのガキ……。


「うおおお!!」


 突進した。そいつにぶつかることに成功した。


「捕まえた!! みんな斬るんだ!!」

「でも、人じゃないですか! 斬るってどういうことですか?」

「そうだ。こいつはきっとボス部屋に入り込んだ子供だ」

「お前ら何言ってんだ! 見ただろ! 俺を吹っ飛ばした!」

「お前こそ、何言ってんだよ。こいつがボスを倒したってほうが筋は通るだろ」

「はあ!?」


 そして、その子供のことを見た。

 確かに、人間だ。ボスじゃない。モンスターでもない。


「まあ、そうか……」


 俺はそっと、手を離す。


「じゃあ、俺たちの前に、ボスを倒したのか?」

「あーのーなあ! 俺は、ここのボス!!」

「いや。まあ、そうしておこう。じゃあ、次の街へ行くぞ!! お前は、ボムトスにでも行ってろ」

「あ! 何だあれ!」

「え?」

「バーカ」


 ちくしょう……。何だ、この面倒くさいやつ。


「美優。ボムトスまで、この子を連れてってくれ。俺たちは次の街までのフロアマップを作る」

「わかりました。じゃあ、行きますよ」

「おい!! ちょっと!!」


 まったく。強い、強いって言われて、拍子抜けしたぜ……。あの子はきっと俺よりも強い。

 自称ボスのガキ。


「なあ、繭村。アレックスのことだけど……」


 レンダが言った。


「何だ?」


 誰も、あえて話題にはしなかったことだ。


「俺はまだあれがアレックスだとは思えない。だが、ひとつ思うことがある」

「たぶん。俺も同じことを思っている」

「モンスターは人間なんじゃないか――ってことだ」

「ああ。何となくわかる。だが、そんなこと、ありえるのだろうか」

「さっきのガキも本当にボスだったら?」

「俺たちは、ボスを含め、人間を殺してきたってことか?」

「そういう可能性もあるっていうだけの話だ」

「じゃあ、どうして、ダンジョンがあるんだ?」

「そんなこと、わかるわけないだろ」

「とりあえず、保留にしておこう。モンスターは人を殺す。だから、もし人間でも、殺すべきなんだ」

「……」


 本当にそうなのだろうか。

 自分でそう言ってて、不思議に思ってしまった。


 殺しているから、殺していいのか。

 そんなことを考えてしまっていた。

 ああ、もう。何で、今になってそんなことを!

 政府は何を隠している? このダンジョンって何なんだよ!!

 そんなことで、悩むなんて――。

 もし、モンスター=人間だったら?

 ボスはただ奇形の人間だった――としたら?


 考えていても、仕方はない。


「レンダ。俺たちはダンジョンを攻略しないといけない。それだけは、明らかなことだ」

「ああ。それから……」

「何だ?」

「第三百層のボスを、本当に、あれなのか――見てみないか?」

「だけど、触れなければ、俺たちには何もない」

「だけど」

「考えるな。俺たちはとにかく、追放から解放されることが生きる目的なんだ。そうだろ?」

「あ、ああ……」

「次の街まで、話はお預けだ」


 しかし、俺は考えていた。この世界は何なのだ? 何も、何も、これも、あれも、わからない。


あとがき


どうも。

今回は考えさせられる回でしたね。


このダンジョンは一体何なのか? そこに迫る回でした。

あのガキは、本当にボスなのでしょうか。


アレックスは一体、どこへ行ったのでしょうか。


次回も、乞うご期待!!


誤字がすごかったので、直しました。

そして、また誤字が……( ´∀` )

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