第12話「忘れ物をした」

第十二話「忘れ物をした」


「忘れ物をした……か。何を忘れたんだろう?」

「うーん。俺たちも見ていなかったからな」


 レンダが頭をポリポリ掻きながら、ため息をもらした。


「あいつらしくないといえば、そうだな。ボス部屋へ行ってないのならば、死ぬことはないだろうけど……」

「あいつに限って上の層へすぐ行くなんてこと、あるわけないか」

「どうする?」


 そう聞かれても、困る……。


「私は心当たりがあります」


 美優が言った。

 何だって? 心当たり?


「心当たり……あるのか?」

「はい。いなくなって真っ先に思ったわけじゃないですけど、忘れ物をするなら――と考えたのです」

「どこだ? どこに行ったんだ?」

「実験場です」

「爆弾の――」


 あ。そうか。あそこは洞穴になっていて、そこを爆破しまくるという実験場。

 だが、不思議なところだった。

 このダンジョンは階層を連ねている。

 そして、上へ行けば、階層が変わる。下へ行けば、下の層へ行ける。


「確かに、あの洞穴はわけがわからない。遊郭の街にいた時も、そういった爆弾の音も、何も聞こえてこなかった。それらしい場所も――」

「だけど、どうなってるかを見に行くって……どうなんだ?」

「うーん。このダンジョンのことをまだ理解できていないのかもしれない」

「よし。とりあえず、そこへ行ってみよう。美優たちはここにいてくれ。アレックスが戻ってくるかもしれない」

「わかりました」


 そして、俺たちは実験場へ向かった。


「おう。あんたら、どうしたんだい」


 NPCが、声をかけてきた。


「アレックスっていう仲間を探しているんだが……」

「ああ、それなら、中に入っていったぜ」

「本当か!!」

「ああ。忘れ物をしたから入らせてくれって」

「そうか! みんな、行くぞ!」


 俺たちは自然と笑顔になる。

 中を覗き込むが……。


「ふ、深いな。改めて見ると」

「ここに忘れたって、何を忘れたんだ? 誰か、わからないか?」

「いや、まったくわからん」

「だよな」


 晴彦も、レンダもわからなかった。もちろん、俺も。


「とりあえず、中に入るぞ」


 一歩、踏み出す。

 じゃり……。


「あいつの持ち物わかってるやついないか?」

「いいや、俺はわからね。レンダは?」

「剣くらいじゃないか。あとは金」

「うーん」


 爆弾の音は聞こえてこない。まだ朝は早い。

 誰も実験はしてないからだ。


「おーい、アレックス! どこへ行ったんだ!」


 俺が、叫んでみる。

 しかし、応答はなかった。


「本当にいるのか?」


 そう、レンダが呟いた瞬間に、カラン、と目の前に何かが落ちてきた。


「これは……鉄剣?」

「アレックスのだ!」


 それを見上げた。


「ふはははは!!」


 誰かが笑った。


「何だ、あの悪魔みたいなやつ!」

「とりあえず、剣を抜け!!」


 レンダの声に我に返り、皆、剣を引き抜く――。


「アレックスをどうしたんだ!!」

「アレックス? 俺のことか?」


 は?


「アレックスじゃねえだろ!! どー見ても!」

「アレックスなんて呼ぶなよ。汚らわしい」

「食ったのか?」

「ははははは!!」


 何がおかしい。こいつがアレックスを食ったとしか思えない。

 だが、こんな人間に類似する形のモンスターなんているのか?

 その答えはすぐにわかった。


「アレックス。それは俺のことだ。俺は第三百層のボス――」

「は?」


 みんな、同じことを思っていた。

 第三百層のボス?

 それは、誰も見ていない。しかし、そんなことよりも――!


「アレックス。お前、なのか」

「そうだ。アレックスというのは、人間としての名前」

「じゃあ、お前は何なんだ!!」

「ロード・オブ・ダンジョン」

「ラスボスってわけか」

「そうだ。ここでお前たちを屠ってもいい。しかし、それは面白くない」

「忘れ物をした――という意味は?」

「そんなのこれに決まってるだろう?」


 コロン……。

 そこに投げ出されたのは、爆弾だった。


「ダンジョンを破壊する者――。それがロードの役目」

「本当にアレックスなんだな」

「早く逃げないと、死ぬぞ」

「どうして、このタイミングでこんなことを!」

「各層のボスは弱くなってはいかない。全部同じ難易度だ。そして、この層は特別な層。人間の姿でないと、ボスはボス部屋から出れない」

「なるほどな。それで、俺たちをずっと……」

「おい! 繭村! 出るぞ! 爆発する」

「最後に一個聞かせてくれ」

「何だ?」

「お前は俺たちを仲間だと思ってなかったということか」

「さあな」

「おい! もうやべえって!」


 そして、俺たちは洞穴から撤退した。


「はあ、はあ、はあ」


 ドカーン!! バン!!


 さっきの爆弾が爆発する音が聞こえた。

 何か、このダンジョンの秘密に迫っていた気がした。


「結局、アレックスが何を忘れたのかわからなかったな」

「忘れ物――。それは……一体……」


 あれが、本当にアレックスの別の姿なのかはわからなかった。

 でも、第三百層のボスがここに?

 何の用で?

 そういったことは、まったくこれっぽっちも、わからなかった。


「このダンジョンは一体――」


あとがき


どうも。お読みいただき、誠にありがとうございます!


今回はダンジョンの謎に迫る回でしたね!

アレックス=第三百層のボスということが明らかになりました。

でも、だったら今まで倒してきたボスは?


ちょっと背筋がぞわっとしますね。


また明日の更新をお楽しみに!

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