第5話「レンダの置手紙」

第五話「レンダの置手紙」


 俺たちは、ボス攻略をしていきつつ、レンダを探そうと相なった。

 いつまでも固執して考えていても、仕方がないからだ。


「じゃあ、繭村。もう一度、ボスの特徴を確認しておこう」

「ああ。まずボスは、相撲取りのような巨人のモンスターだ。棍棒を主な武器としている。それを叩きつけることで、こちらに攻撃をしてくる。さらに、間合いを一瞬で詰めてくる。そこが注意のポイントだ」


 俺が仲間たちに説明をした。簡単な図などが机の上に置かれている。


「今回は、HPが減った場合にどうなるかを見たいと思う。基本、ボスはしばらくすると、HPが回復していく。だから、無駄だと思うやつもいるだろうが、今回はそこを探ることとする」

「よし。美優ちゃんはどうする?」

「私も行きたいです」

「うーん。君は、ウォーレンの街で買い出しをしておいてほしい。帰ってきた時に、みんなで力をつけよう」

「わかりました。では、これを――」


 それは、魔法石だった。


「どこで、これを……?」

「トラップにかかった時に、持っていたんです」

「これは弱転移石だ。フロア間を行き来できる。地上には行けないけれど」


 もし、地上へ行く転移魔法や転移クリスタル系があれば、こんな攻略なんてしなくて済む。

 しかし、誰もそれは持ってなかった。


「なんか、これ以上の転移クリスタルは持ってたり、しないか? まあ、あっても、一人分しか移動できないだろうけど」

「いいえ。持ってません。残念ながら。これがあれば、次のボス部屋で大変なことが起きたら、範囲魔法として、これを起動させてください。きっと全員、このウォーレンの街に戻ってくることができます。たぶん」

「ありがとう。これがあれば、もし、ボスが怒り狂って大変なことになった時に、何とかなりそうだ」

「よし。じゃあ、行こうか」


 アレックスのその言葉で、みんなやる気を上げた。

 ボス部屋に着くと、特に怖い気持ちもせず、緊張もせず、扉を開けることができた。

 それはなぜなら、もう強いはずのボスを倒せたからである。


「ぐああ……」


 ボスの鳴き声が響き、一気に間合いを詰められた!


「前衛は走れ!! 俺たちは後ろから援護する!」

「おう!」


 俺はバレルの銃口をボスに向けながら、装填を開始――撃ち始めた。

 バババ!!


 銃口から銃弾がいくつも放たれる。

 それがボスに当たり、壁を走ることをやめさせることができた。


「ブバババババ!!」


 何の、鳴き声だ?

 それはまさしく、ボスの鳴き声だった。


「HPが減った!! 行動パターンが変わるぞ!!」

「おう!」


 アレックスが、返事をし、仲間と共に、一旦後ろへと、下がる。

 それから、ボスの行動を追った。

 ボスは、棍棒を投げ出し、範囲攻撃をしながら、近づいてきた。

 つまり、ボスを直接攻撃するタイプの攻撃は、通用しないというか――。

 近づけない。

 だから、やるとするなら、リーチの取れる武器が必要だ。

 俺みたいな、銃系統だ。

 だが、銃は援護にはなるものの、ボスを倒すことには至らない。

 じゃあ、どうしたら、倒せるんだ?

 どうしたら……。

 そんなことを考えていたら、ボスが目の前に来て、全員を吹っ飛ばした。

 けがをした者もいる。

 一体、どうすれば……。


「一度引くぞ!! みんな、俺のもとへ集まれ!!」

「おう!!」

「わかった!!」


 そして、美優からもらった転移クリスタルを使用した。

 煙が辺りを包み込み、俺たちはウォーレンの街の広場へ戻った。


「おお。こりゃ、便利だな……。もっと欲しいぜ」

「だが、今回で使い切っちまった」

「確かに……」


 俺たちは、傷を癒して、作戦会議を開いた。


「では、これから、作戦会議をしたいと思う」

「ああ。繭村の見解をまず聞きたい」

「うん。ボスは、HPが減ると、範囲攻撃をしながら、突進してくる。いいところは、棍棒を使わなくなるということ。悪いことは、直接攻撃ができないところだ」

「だとすると……。全員銃を持っていったほうがいいのだろうか」

「いや。その必要はないし、それにしたら、まずHPが減らない」


 そう。相手のHPを減らすには、剣のほうがいい。

 だから、剣を持っていかなければ、相手のHPを減らすことができない。

 しかし、銃がなければ、倒すことはできない。


 何とも矛盾した攻略である。


「うーん。半分は剣で、半分は銃にしちゃうってことか」

「そうだな。そうなるだろうな。ひとつ可能性として、考えていることがある」

「何だ?」


 より強い武器で一気に畳みかければ――と、思っている。


「上へ行けば行くだけ、武器のドロップは弱くなる。だが、ひとつだけ、可能性があるとしたら、あるモンスターのドロップアイテムだ」

「わかった。何を、繭村が言いたいのか」

「ああ。ひとつだけ、ドロップアイテムで、いいのがある」

「第三百層――ルロイドのボス……か」

「そうだ。そいつのドロップアイテムなら、最強クラスのものが出るだろう」

「だが、ただのクリスタルとかだったらどうする?」

「それはそうだが……。でも、やってみる価値はあるだろ」

「まあ、そうだな。本当に倒せるのか?」

「うーん」


 そこで、作戦会議は、詰まってしまった。

 みんな、何も考えが浮かばないでいる……。

 やはり、ボスを倒すということは、あまり、現実的なことじゃないのかもしれない。


「範囲攻撃を防げるものがあれば、いいんじゃないか?」

「え? つまりどういう――」


 そうか。範囲攻撃が効かなければ、何でもできる。

 そうだ。盾みたいなものがあれば……。


「盾を買おう。武器屋にあるよな? あと、攻撃減退の薬も買っておこう。それで、一回、試すんだ」

「ああ。盾でヘイトを集めて、剣で対抗する。それを後ろから援護して、ひるんだところを、一気に叩く!!」


 そして、一度解散となった。

 宿屋の部屋でコーヒーを飲みながら、美優と話していた。


「よかったです。これで、ボスが倒せますね」

「ああ。レンダにとっても、ボスが倒されていけば、上へと行って、最終的に助かることになる」

「はい。私も行っていいですか?」

「ああ。援護側に回ってくれ」

「はい。範囲の回復魔法をかけます」

「おう。次のボス、倒そうな」

「はい!!」


 それから、ゆっくりと寝て、ボス部屋の前まで、明朝やってきた。


「よし。やることは単純。まず、HPを減らす。そして、攻撃が変わったところで、盾で前衛がヘイトを集める。そこに銃でじりじりと減らしていって、ひるんだところを、叩く!」

「おう!!」


 扉をそっと開ける。ボスモンスターは、部屋の中央に鎮座していた。


「来い!!」


 ボスが間合いを詰めてきた。

 ズン!


「ぐちぎちちち……」

「一回、避けろ! そこを叩け!」


 広範囲に散ってから、ボスを取り囲んだ。

 ボスは棍棒を振り回しながら、近づいてきた。

 アレックスが後ろから攻撃をする。

 少しずつ――HPを削っていく。

 そこを、美優が回復魔法で仲間を回復していく。


「ぐああ!!」

「よし! 範囲攻撃が始まった。盾を準備!!」


 盾を用意し、前衛が取り囲む。

 俺や、他の銃撃部隊で、ボスを撃った。


「よし。削れ、削れ!!」

「ぐあっ。ぐぎぎぎ……」


 よし、ひるんだ!! ここで俺が斬る!!


 ボスの脳天から、下まで、剣で斬った――。


「うああああああ!!!! ああああ!!」


 ズチチチ……ブチチチチ!!

 バスン!!!


 そして、ボスは四散した。

 辺りに、体液が飛び散り、ドロップアイテムが落ちた。


「やった――!! 倒せた!」

「やったな。これでまた一歩前進だ」


そこで、ドロップアイテムを確認した。


「え……? 何だ、これ……?」

「手紙……? ですかね」


「レンダと、書いてある」


「え? レンダさんの手紙が何で、ドロップアイテムに?」


 考えられることは、レンダがここでやられたということだが、痕跡はなかったはずだ。

 どうして? どうして、レンダの手紙がここにあるんだ?


「とりあえず、読んでみろよ」


 アレックスが言った。

 俺は震える手で、手紙の封を切った。


 ここからは、レンダの手紙の内容である。


みんなは、無事か? 俺は無事だ。手紙をボスの口に突っ込んでおく。

だから、安心して、ボス攻略をしてくれ。

俺は、どこにいて、何をしているか?

俺は、転移クリスタルの可能性を考えている。

転移クリスタルがドロップするのは、攻略で息詰まると出る。

これには、深く考察が必要なのだが、ダンジョンでのドロップは状況に起因する。

だから、わざと単独行動を取り、範囲魔法の長距離転移クリスタルをドロップするよう実験をしている。気にせず、攻略を進めてくれ。俺はたぶん、もう二百三十層くらいまで行くだろう。

NPCがそこらへんで、転移クリスタルがあると言っていたんだ。

頑張れ。俺は俺で頑張る――

じゃあ、これで。また会おうな、みんな


レンダ


「あいつ、普通に生きてやがったんだ!! ははは!!」


 みんなで、笑いあった。


「じゃあ、クリスタルのドロップ確率を上げるために、わざと、独りで行動していたってことか」

「そういうことになるな。それが手に入れば、地上へ戻ることができる」

「というか、ボスを倒さないで、通り抜けたってことかよ。すげえな、あいつ」


 そりゃあ、そうだ。

 しかも、丁寧に口にこれを突っ込んで、通り抜けたってわけだ。

 強すぎる。レンダ。お前も、頑張れ。絶対に、一緒に生きて出よう。


「じゃあ、今日はお祝いパーティーをしますか!!」


 美優がそう言った。みんな、頷いて、武器や防具を外し始めた。


「つっかれたー! マジで、大変だった。ボスが復活しないところがダンジョンのいいところだぜ」

「確かにな」

「レンダが生きててよかったぜ。またいつか会えるように、俺たちも頑張ろう」


 それで、みんなでバーベキューをした。


「美味しい!! 肉が食べれるんですねえ。このダンジョンでも」

「まあ、世界の一部だからな」


「はい。で、これからどうするんです?」


 美優が聞いてきた。


「そりゃあ、もちろん、攻略を続ける。第百二十層まで――」


 もしかしたら、百二十一層まで攻略は進んでいるかもしれない。

 しかし、そこまで、攻略できれば、出れる!!


 でも、少し思ったのが、レンダのように、ボスを倒さないで逃げることが可能ならば、それで脱出を図ってもいい。

 しかし、全員が全員できるか、と言われると、それは不可能だから、結局、ボスを倒さないといけない。


「まあ、今日は肉を食って寝よう!!」


 俺は夜中に次の層の名前を確認しておいた。

 安全圏で、明かりを照らす。


「第二百九十八層 ヨシワラ……」


 どこかで聞いたことのある名前だった。

 それは、まさしく、地上の日本にある、吉原のことだった。


 え? つまり、遊郭ってことか?


「繭村さん」

「うわあっ!!」


 美優が来ていた。気づかなかった。


「何してるんですか?」

「あ、いや、えっと、その……」

「ヨシワラ……それが、次の層なんですね」

「あ、ああ。そう、みたいだ、な……! ははは!!」

「何か、どこかで聞いたことのあるような……」

「いや!! 俺も聞いたことがないな!」


 まさか、次の層が遊郭だとは……。

 こりゃあ、美優には、二百九十九層にいてもらって、攻略したほうがいいな。

 遊郭は女人禁制だろうし。


「じゃあ、戻るか。名前も知れたし」

「はい。みんなもう寝てますよ」

「あ、ああ」


 どう言えば、変な風に伝わらないで済むだろうか……。

 吉原は遊郭なんだよ! 男しか入れなくてさ!

 えっちなことをしちゃうっていうか、ねえ!?


 だめだ。どう考えても、いい感じには説明できない。

 くそ……。ここで、吉原が来るとは――。

 まあ、まだ決まったわけじゃない。

 これから、まだまだ違う街である可能性もある。


「なあ、美優。君は次のボス部屋までは、ここのウォーレンの街にいてほしいんだ」

「え? そうなんですか?」

「ああ。次の街がどんな感じかを明日、偵察する。それで、拠点自体は、ここに置くことにする。ここは便利だ」

「じゃあ、そうですね。私はこの街で待ってます」

「うん。そうしてくれ」


 よし。これで、まあ、大丈夫だ。もし、遊郭だったとしても、美優には……。

 本当にそうだったら、だいぶ困るなあ。

 そんなことを考えた俺だった。


「さあ、次のボスは何だ」


 攻略して、追放したやつらをぶっ飛ばす!!

 そう、心に誓って、その日はぐっすりと寝てしまった。


あとがき


どうも。

お読みくださり、まことにありがとうございます!


前回、倒せなかったボスがようやく倒せましたね!


緊迫感が伝わっていただけたら、すごく嬉しいです。

特に、どんどん楽になるかと思われたボス攻略は意外にも大変であることがわかりました。


これはどうして、二百九十九層の蛇型のボスを繭村が倒せた理由になっています。


つまり、ボスに優劣はなく、第一層から、第三百層まで、同じ強さなのです。


だから、攻略も進まず、繭村の実力でも、倒せたのです。


そういうカラクリがあります。


そして、次回は、いよいよ遊郭の話。

ちょっとお色気があるのか……?


でも、安心して読めるので、ご期待をお願いします。


また明日の更新をお待ちください。


では!!

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