第2話 天翔転生

ボックリの輪廻転生の周期は約450年。


ボックリは、「前世は何もなかったような人生、また現世に生まれても碌な人生じゃねぇな。」と思い、生まれ変わりを先送りする年数の分だけ、ただ生まれ変わるためのパワー(魂ポイント)を溜めていた。また転生して生まれ変わる理由も特にない。前世では何も未練はなかった・・・・


いや、一つだけ気がかりが残っていた。「ゆきは、どうなったのか?」ボックリも気づいた心残りに驚いた。何もなかった人生じゃなかったのかもしれない。ゆきがいた。決して長く共に過ごした訳ではないが、茅葺屋根の下で二人で過ごした半年間、あたりまえのようにゆきと過ごした日々、その当たり前が幸せだったのではないか、少なくとも魂の記憶にはゆきが刻まれていた。いま、ゆきに会いたい。


ゆきは、約200年後に生まれ変わり、吉原遊郭の禿として遊女の世話をしながら、もうすぐ15歳を迎え遊女となる前に、自害した。


自害をしたゆきの魂は、本来与えられた寿命を全うしなかった罪で、閻魔大王によって、地獄に送られた。転生するには天界に上らなければならないのだが、ゆきの魂は地獄にあり、鬼たちに弄ばれてゆきの魂は疲弊しきっており、転生は難しい状況にあった。


ボックリは、ゆきの魂の居所と経緯を閻魔大王から聞いて知った。地獄の底まで行けば、いままで溜め込んだ魂のライフポイントをかなり消費することはわかっていた。そこから這い上がって、天界へ上るにはもしかすると魂さえ消滅する可能性があることを理解していた。だが、ボックリには、そんなことはどうでもよかった。ゆきを救いたい。その熱い思いが、ボックリを突き動かした。


ボックリは、地獄へつながる井戸へ飛び込んだ。井戸と思っていた壁をよく見ると、

それはデーモン(鬼悪魔)たちが渦巻いて壁のようになっていた。魂の気を緩めると、デーモンたちに魂を削り取られる。ボックリは心の壁ATフィールドを全開にして、魂を擦り減らしながら最下層へと落ちていった。


地獄の底は邪気が濃い。濃い邪気にあてられて、ボックリの魂ライフポイントはどんどんと削られていく。早く見つけ出さないと、ここで野垂れ死にだ。ボックリは、ゆきの魂を全集中、魂の呼吸で探す。


ダーク系の地獄の底の中に白く光る何かを感じた。ゆきの魂だ。ボックリは、ゆきの魂の元へすぐさま駆け付けた。ゆきの魂は、疲弊してボロボロになっている。正常な魂は、真ん丸な球体なのだが、ところどころ痛んで欠けている。自分が自分であるのかどうかもわからない錯乱状態だ。


ボックリは、持っている魂ポイントの半分をゆきに分け与えた。

ゆきの魂は回復し、ボックリの存在に気付いた。


ゆき「ボックリ・・・どうしてここに?」


ボックリ「追いかけて来たのさ。ここまで。」


ゆき「・・・(涙)・・・地獄の最下層よここ。」


ボックリ「さぁ、行こう天界へ。転生してもう一度人生をやり直すんだ。」

     ゆきを見つめて、手を差し伸べる。


ゆき「私、怖いの。はじめはちょっとしたきっかけだったの。でもどんどん理想とは違う方向に引き寄せられて、自分を責めて、傷つけて.....だから自信がないの。」


ボックリ「僕は幸せだったよ。君と過ごした半年間。君が消えてしまった日は凄く驚いた。なんでなんだって自分も責めたよ。でも放っておくことはできなかったんだ。大丈夫、今度生まれ変わったら、一緒にいよう。」


ゆき「ボックリ:::::ありがとう」


ボックリはゆきをお姫様抱っこで抱きかかえ、魂ポイントを消費して、光を放ち、

天界へ昇天し始めた。ゆきとボックリは、デーモンの井戸をエンジェルフォームで

上っていく。


デーモンは、妬みや僻み、嫉妬心が強く、希望というものを壊すのが大好きだ。ゆきとボックリは、二人の希望砲をデーモンたちにぶつける。ボックリの魂は、かなり疲弊している。一瞬気が抜けたときデーモンは希望を切り裂いてくる。


もう限界に近いとき、ボックリの中から守護神スサノオが出てきてデーモンたちをぶった切った。荒神スサノオがデーモンたちを足止めしているうちに、デーモンの井戸を抜けると、そこからは風船のように自然と魂が天界へ上っていき、導かれるように天界の雲の上までたどり着くことができた。


ボックリ「ふぅふぅ、はぁはぁ、めっちゃ魂ポイント消費したわ。寝溜め200年分くらい。」心臓はないが、心拍がバクバクしている。


ゆき「危なかったね。もう少しでやられるところだった。でもボックリがいて安心できたよ。楽しかった。」


ゆきは、『(心の声)200年も寝溜めって無駄に何してたのよ。』と思いつつも、笑顔を見せる。


ボックリは、ゆきの見せる笑顔にほっとした。


ゆき「ちょっとここで休んでから生まれ変わろうか。私きっとお嫁さんになる。」


ボックリ「今度は、一緒になる人を間違えるなよ。」


ゆき「うん、わかってるって。きつく言わないで。」


ボックリ「なんだよ、その軽いノリ。危うく魂が消滅しそうだったんだから。」


天界の雲の上でゆきとボックリは一休みした。そこからおよそ200年もの間、ボックリとゆきは天界のふかふかの雲の上で眠りについた。


そして、生まれ変わる時がやってきた。


二人は、雲の上からどの土地に生まれ変わるのか、どの夫婦の家庭に行くのかを天界の雲の上から見定める。


日本列島が雲の下に見える。


ボックリ「あの島よさそうじゃん。大陸より小さいし、生れ落ちる地域が別でも、島国なら小さいからまた出会える確率が高いんじゃない。」


ゆき「わかった。すぐあなたの後を追うから、あなたから飛び込んで。少し怖いの。」


生まれ変わりは、天界の雲の上からスカイダイビングのように魂が飛び込んだ先の家庭の子供として生まれ変わるシステムだ。だから生まれ落ちるという。天界ではまだITマッチングシステムは採用されていない。スカイダイビング・バンジー方式だ。


ボックリ「じゃあ僕から飛び込むね。」


ゆき「うん。見守ってる。」


ボックリは、島国から海に落ちないように日本列島の真ん中付近に飛び込んだ。周りの魂たちも飛び込んでいる。時折、天の風が吹き、海に落ちた魂はクジラの子として生まれ変わったようだ。前世で暮らしていたあたりを目指して飛び込んだ。落ちる途中で天の風が北から南に吹き込み、三河に生まれ落ちた。


ゆきは、ボックリが無事に飛び込んだのを見届けてから遅れて飛び込んだ。遅れて飛び込んだ分、地球は回転している為、彼女は九州よりに逸れた。北から南へ天の風が吹き、もう少しで海に飛び込むところだったが、薩摩に生まれ落ちた。


天界の時間と現世での時間の流れは大きく違う。ゆきが天界で飛び込んだのは少し遅れただけなのに、現世ではボックリと1年半遅れて産まれることになった。






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