第3話 夢からの目覚めと決意の約束

ボックリは、バゥアッーと布団を蹴飛ばし水中で息が苦しくなり水面へ踠き出るように夢から目覚めた。「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。」息は荒く、おねしょでもしたかのような汗の掻きようだ。頬は赤く、体は火照っている。頭をかかえるとシャワーでも浴びたばかりかのような異常な量の汗をかいていた。


ボックリは、人って一晩でこんなに汗かくんだという驚きと、飛んでもない夢を観てしまった、これが本当ならば行動を起こさねばという衝動に駆り立たたされるも、幼稚園に通う5歳のボックリにとっては、どうしたらよいのかわからない。


下の階で朝から朝食を作り終え、片づけをして掃除をしていた母が階段を上がって、ボックリの寝室へ来た。


母「もうすぐお昼よ。いつまで寝てるの。あらっ、シーツがビシャビシャじゃないの。もーっ、洗わなきゃ。今日は天気がいいしまだ間に合うわね。さぁ、起きて。」その日は休日で、白い雲が青い空を漂ってた。


5歳のボックリにできることは少ない。このことを母に伝えなければと思い、話そうと思ったが、この頃、母から物語の読み聞かせで雪女のエピソードを聞いており、“雪女と暮らしていたことを話してはいけない。”という禁断の掟があったことを思い出した。ボックリは、万が一話して、愛する母を危ない目に合わせてはいけないと思い、自分の胸の内にしまいこんだ。


その日は、休日で天気が良かったので、午後から家族で海水浴に行くことになった。ボックリは、ファミリーカーを運転する父が用意した大きめのクッションを助手席に敷かれ、その上に座ることになった。


ボックリは、地図を出して、鹿児島を指さした。「ここの海に行きたい。」


父「何を言うんだ。今日はもう午後で、ここからだととても1日じゃつかないし、

  くたびれてしまうよ。何でここに行きたいんだい。」


ボックリは、父を気づかって、禁断の掟を話さないことにした。だが、いますぐにでも会いに行きたいのに、それができない自分にもどかしさを感じて、口を瞑って頬をぷぅーと膨らました。「もういいもん。」


父「海行きたくないのか?」


ボックリ「そうじゃないけど、近くの海で我慢する。」


父「ったく、わがままな子だな。ママに似たのかな?」


母「私は昔からお行儀がいい子だわよ。あなたに似たんじゃないの?」


ボックリ「早く車出せ。」クッションで座高を上げたボックリは上から目線で言った。


夏の海水浴場では、スイカの浮き輪をもった子やら、シャチの形をしたフロートやら、海に浮かぶ滑り台が浮かんでいた。


ボックリは、波打ち際で押し寄せる波を見てしゃがんでいた。ザーッ、ザーッ、ゆきは今どうしているのかな?そんなことを考えてふけっていた。しかし海の波の高さは常に一定ではない。時折、ひときわ高い波が押し寄せてくる。


次の瞬間、引き波が大きくなり、渦となって巻き込むんだ。押し寄せてくる大きな波が、波打ち際で座りこんでいた5歳のボックリの顔面にザッバーンとかかった。


痛い!辛い!ボックリの顔面は、ハリ手のような波の圧力に打ちひしがれて、顔はアッパーをくらったかのように上を向き、鼻から入った海水が鼻孔を貫きヒリヒリとした。


ボックリ「なにすんだ!」、ボックリは海と波に怒る。


やられた分はやり返そうと、押し寄せる海の波に向かってパンチやキックを繰り出したり、海に向かってマウントをとるようにダイブをしたりするが、海と波はダメージを効いている気がしない。


海はでかい、急所がどこにあるのかもわからない。それどころか、海水はスルリと手のひらを逃げ落ち、また海に戻っていく。何もつかめないもどかしさに、顔面に残る痛さとヒリヒリする鼻奥から塩分濃度の高い鼻水をたらし、ただ理不尽さを感じていた。


その夜、テレビを見た。“天才てれびくん”という同世代の子供たちが映る番組をやっていた。


!ボックリは、これだ!と思った。

この番組に出て、「おーい。僕はここだぞー。ゆきー。」と全国にエールを送れば会えるに違いない。ボックリはそう思った。


ちょうど夕飯時だったので、家族にこれに出たいとボックリは言った。


祖母「かわいい孫が、遠くに行っちゃいやーよ。」


祖父「地道にいきなさい。」


父「芸能界ってのはな、甘くないんだぞ。」


母「今朝もおねしょして、母さん心配だわ。」


ボックリ「あれは、おねしょじゃない!汗だ!」


そんな家庭の事情もあり、早くもその道は断念された。


その晩、ボックリは夢で白髭の神様を呼び出した。


白髭の神様「なんのようじゃ。」


ボックリ「ゆきと夢の世界で会話できるよう、つなげてほしい。」


白髭の神様「全く、神使いが荒いのぅ。魂ポイントを消費するぞ。

      おそらく今回が最初で最後の通信になる。しっかり話すんじゃぞ。」


ボックリは、コクリと頷き、白い光に包まれる。


公園でゆきが立っている姿を見つけた。


ボックリ「よぅ。」


ゆき「久しぶり、探してたのよ。でも来てくれてありがとう。」


ボックリ「元気してるか?」


ゆき「うん。でもどうしたら会えるかわらかない。」


ボックリ「テレビを見たんだ。お互い有名になれば、会えるんじゃないかな?」


ゆき「えっテレビ.....できるのかな。私、いたって普通の女の子だし。」


ボックリ「まずは探し出すのが大変だろ。でもテレビにどちらかが映れば、

     見つけるのが簡単だし、お互い会えるんじゃないかな。」


ゆき「できるかわからないけど、やってみる。」


ボックリ「また会えるのを楽しみにしている。大人になったら東京で落ち合おう。」


ゆきは、ニコニコしてコクリと頷いた。


ボックリとゆきは、再会の決意を夢にして、それぞれの意識に帰った。


その朝、ボックリは、久しぶりにゆきに会えた幸福感にいっぱいで目が覚めると、シーツはおねしょでビッチャリだった。


母に返す言葉もない事に、しまったと思った。













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