そのころ登山口では

〜中居視点〜


今日は待ちに待った登山日だぜ☆


大学入ってから初登山だから、気合い入るわ〜


この山、小学校の遠足でも登った山だからなんだか懐かしいな。


グループチャットではみんなだんだんと登山口に着いてるって書いてあるし俺も急がないとな!


おっ!前歩いてるの山田じゃん!!

驚かしてやろ!

携帯ガン見してるし、気づかね〜だろ!


「わっ!」


俺が山田の肩を叩こうとしたのと同時に山田が目の前から消えたのである。


当然俺の前のめりな体勢は崩れ、床に転びおちることになった。


「山田〜!避けるのうますぎじゃんか」


目の前から消えた山田を俺の脳が処理しきれることもなく、きっと俺の視界から見えなくなっただけだと俺は思った。しかし立ち上がった俺の視界に山田はいない……


店内のどこを探しても山田は見つからなかった。


「店員さん!!俺の前に入ってきた山田……平凡な顔の男子知りませんか!?」


「いらっしゃいま…きゃっ!!」

俺の勢いにびっくりした店員は俺の質問を理解しかねるという顔をしていたが、すぐに気持ちを切りかえたようだ。

「申し訳ありません。一日に何人も接客するので、山田さまという方はわたしの方では存じあげません…。」


俺がレジで頭を抱えていると、後ろからチョップがとんできた。そう我らが副部長月見里先輩だ。


「ちょっと中居くん!店員さん困ってるでしょ。ほら!質問終わったらさっさとレジどく!!」


月見里先輩はどうやらグループチャットで困ってた子の買い足しで来ているようだった。


「わたし店の奥で商品見てたけど、山田くんは来なかったかな?中居くんの見間違いとかじゃなくて??」


やっぱりこっちも見てないか…目の前で人が消えるはずないもんな…。


「そんなしょげた顔しない!!山田くん案外先に登山口に向かってるのかもよ?一緒に登山口まで行く?」落ちこんだ俺に月見里先輩は優しく声をかけてくれた。


「そうですね、じゃあご一緒させていただきます。そっちの荷物よかったら俺が持ちますよ!」

「ありがとう中居くん」


先輩と和気あいあいと登山口に向けて歩き始めると、後ろから俺と同じ一年のサークル女子達が追いついてきた。先輩に挨拶をするのかと思ったが、追いつく事も追い越すこともせず、後ろで恋話でもりあがっている。なんだなんだ恋話か?恋愛マスターとしてつい耳が声をひろってしまう。


「え〜あの二人つきあってるのかな??」

「違うでしょ。これ他の先輩から聞いたけど話なんだけど、去年月見里先輩と結構いい感じになった先輩がいたんだって」

「えっ!初耳〜新歓のときそんな先輩いなかったよね??」

「それがさ、サークル登山中に落ちて病院でまだ目が覚め…」「ストップ」

いつもならこんな事しないのだが、隣の泣きそうな月見里先輩を見たら恋愛マスターとして止めなければと俺の身体が動いていた。

女子達は分が悪くなったのか、自分達は先輩のことが心配になっただけだとあたふたと言い訳をして走り去っていった。


「中居くんに気を使わせちゃってなんかごめんね」

「いえ、恋愛マスターとして見過ごせなかっただけですから!」

「ふふふ、ありがとう。中居君面白いね。でもあの子達が言ったことは全部本当。去年、里中くん…わたしが好きだった人がサークル中に…落ちそうになった子供をかばって滑落したの。茂みにおちて身体はほとんど無傷だったんだけど頭の打ちどころが悪かったのか目が覚めなくてね…。」

「つらいですね…」

「うん…毎日お見舞いに行ってたんだけど、里中くんのお母さんから息子の事はもう忘れた方がいいって言われちゃって……未練がましいんだけど登山口から街の病院を眺めてるの…笑っちゃうよねトラウマでもう登山できないのに登山口まで毎回行く女なんて…」


こんな時どう返せばいいか分からなくなった俺は咄嗟に話題を変えた。

「そういえば、新歓後に教えてもらった神社に俺達行ってきたんですよ」

「あーあそこ!!あの時間から行ったの!?暗いのによく行ったね〜」

「そうなんすよ〜、めっちゃひびりました」

「それで中居くんのお願いは叶った??」

「俺のは長期的なお願いだから叶ったかどうかは分からないんですよ〜」

「なるほど!すぐ分かるやつじゃないのか〜」

「先輩のは叶いましたか?」

「うん、これから叶ってくれると信じてる!感じかな?」



私は心の中でもう一度願う。

里中くんが無事に戻ってきますように。












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