妖狐の籠
彼女が妖狐だと知ったのは、付き合い始めて半年が過ぎた頃だった。
耳と尻尾を隠し切れなくなったと、申し訳なさそうに打ち明けられた。
会社の近くの古い神社で初めて出会った彼女は、境内で迷子の子供の面倒を見ていた。
夕暮れ時、赤い鳥居に差し込む夕日に照らされた彼女の姿が、今でも鮮明に記憶に残っている。
「この子のお母さんを探すの、手伝ってくれませんか?」
そんな何気ない一言から、僕たちの関係は始まった。
迷子の母親が見つかった後も、彼女は僕の前によく姿を現すようになった。
神社の参道で、会社帰りの商店街で、週末の駅前で。
まるで運命のように。
「偶然ですね」と言いながら、彼女の目は意味ありげに微笑んでいた。
今となっては、あの頃から彼女は既に僕のことを見つめていたのだと分かる。
それからというもの、彼女は徐々に僕との距離を縮めてきた。
昼休みには手作り弁当を持って会社まで来るようになり、休日には必ず連絡をしてくれる。
「あなたのことが好きで仕方ないの」
そう言って抱きついてくる彼女を、僕はいつも優しく受け止めていた。
しかし最近、その執着が少し重くなってきている気がする。
今日も仕事帰りに待ち伏せされ、道端でいきなり腕に抱きついてきた。
「私から離れないで。離れたら、もう二度と逃がさないわ」
彼女の腕の中で、僕は困ったように空を見上げた。
夕暮れの空には、まるで彼女の毛並みのような、オレンジ色の雲が流れていた。
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