王女の魔力

 この国の第一王女との出会いは、一年前の春だった。

 魔法学院の上級生として過ごしていた私の元に、突然彼女が現れたのだ。

 王族の血を引く彼女は、魔力と知性を兼ね備えた優秀な魔法使いの卵だった。


「先輩、私の魔法の指導をお願いできませんか?」


 そう言って彼女は頭を下げた。

 王女である彼女が、一介の平民に頭を下げる必要などないのに。


 それから、彼女は毎日のように私の元を訪れるようになった。

 魔法の練習が終わっても、彼女は中々去ろうとしない。


「先輩は私のこと、嫌いですか?」

「もっと私のことを見てください」

「先輩のことを想うと、胸が苦しくなるんです」


 彼女の言葉は次第に重みを増していった。

 その度に私は曖昧な返事で誤魔化してきた。


 今日も彼女は私の部屋に居座っている。

 机に向かう私の背後から、突然彼女が抱きついてきた。


「先輩の匂い、好きです」


 彼女が耳元で囁く。

 逃げ出したい衝動に駆られながらも、彼女の言葉の魔力に捕らわれ、その場から動けない自分がいた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る