大いなる実験

 彼女は、とある大学の研究室で働く新進気鋭の科学者だ。

 私が科学雑誌の取材で初めて研究室を訪れた時、興奮気味に研究内容を説明してくれたのが、彼女だった。


 あの日彼女は「この研究、すごく面白いんですよ!」と目を輝かせながら、複雑な実験データを見せてくれた。

 その真摯な姿勢に押されて、つい取材予定時間を超過してしまったのを覚えている。


 その後も彼女は、さまざまな口実を作っては私に接触してきた。

 メールで研究についての質問、電話での確認、そして突然の研究室への招待。


「あの、休憩時間に一緒にお茶しませんか?」

「この実験結果、あなたにぜひ見てほしくて……」

「週末、研究室で面白い実験があるんですけど……」


 彼女の研究への情熱と私への関心は、どこか似ていた。

 観察、接近、そして仮説の検証。

 まるで、私が彼女の研究対象であるかのように。


 それでも私は、彼女の熱心な態度を受け入れていた。

 しかし今日、研究室で二人きりになった時、彼女は急に距離を縮めてきた。


「ねぇ、実験って、時には大胆な試みも必要なんですよ?」


 私の腕を掴み、顔を近づける彼女。

 その瞳には、いつもの研究への熱意とは異なる光が宿っていた。

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