魔族の求愛

 人間とは違う尖った耳と、背中から生える蝙蝠のような翼を持つ彼女は、人類の敵である魔族だ。


 あの日、血に染まった戦場で出会った時、大魔法を乱発する彼女が魔族であることは一目で分かった。

 それから、敵として出会ったにも関わらず、彼女は不思議な笑顔を浮かべながら近づいてきたのだ。


「あなたって面白い人ね。他の冒険者とは違うわ」


 そう言って、彼女は俺の剣を軽々と受け流した。

 これが全ての始まりだった。


「私、あなたのこと気に入ったわ」


 戦いの後、彼女はそう言って俺に纏わりついてくるようになった。

 何故だかは知らないが、俺の傍にいることを決めたらしい。


 以来、どこに行っても彼女がいる。

 依頼を受けて街を出れば、必ず後をついてくる。

 宿に戻れば、どこからともなく現れる始末だ。


「あなたが私を嫌いになっても、私はあなたから離れないわ」


 そんな言葉を投げかけながら、今日も彼女は私の腕に抱きついてきた。

 柔らかな髪が頬をくすぐり、魔族特有の甘い香りが鼻をつく。

 少し体を離そうとすると、さらに強く抱きついてきた。


「ダメよ。あなたは私のもの。永遠に、ずっと」


 困ったように首を振る俺に、彼女はさらに身を寄せてきた。

 吐息が耳に触れる。

 これが魔族の、彼女なりの愛情表現なのだろう。

 それを分かっているから、強くは拒めない。


「素直になりなさい。私から逃げられないことくらい、もう分かってるでしょう?」


 そうして彼女は、またいつものように俺の世界を染めていく。

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