猫の繕い

 彼女は猫型獣人だ。

 ふわふわとした尻尾と三角の耳を持っていて、人間としての姿を保ちながらも明らかに猫だと分かる。


 そんな彼女と初めて出会ったのは、会社の同じ部署に配属された時だった。

 最初は戸惑いもあったが、彼女の仕事ぶりは真面目そのものだった。

 それこそ、その夜目で深夜残業をするほどだ。


「別に、あなたの仕事なんてどうでもいいわよ。でも……まだ残ってる書類、手伝ってあげても良いわ。一緒に残業しましょう?」


 そんな彼女との関係も1年が経ち、今では普通の同僚として接している。

 だが最近、少し様子が変わってきた。

 まるで獲物を狙う猫のように、じっと僕を見つめることが増えたのだ。


 私物に彼女の毛が付いているのを見つけることも増えた。

 机の上に置いていた弁当に、コーヒーカップに、パソコンのキーボード。

 更には社用車のハンドルにまで。


 そして今朝、彼女は私の制服の襟元に顔をすり寄せ、自分の匂いを付けようとしていた。


「これであなたは私のものよ。他の女に近づかないでね。私の匂いがついてるから、みんなわかるわ」


 やんわりと制して帰そうとする私に、今度は尻尾で腕を絡めてきた。

 その目は真剣そのもので、笑みを浮かべる口元からは獣人特有の牙が覗いている。


 毎日のようにマーキングされる生活は、まだまだ続きそうだ。

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