愛情醸造

 小学生の頃、隣の席だった彼女は、いつも明るく笑顔を振りまく女の子だった。

 休み時間には僕なんかと一緒に鬼ごっこをしたり、給食を交換したりしてくれたのを覚えている。


 そんな何気ない日常が、ある日突然終わりを告げた。

 彼女の家族が転勤で、遠くへ引っ越すことになったのだ。


「また会えるよね? 約束してくれる?」


 最後の日、彼女はそう言って小指を差し出した。

 当時の僕たちは、再会が十年以上も先になるとは想像していなかった。


 それから月日が経って、大学一年の春にキャンパスで偶然彼女を見かけたときには、その存在が一目で分かった。

 彼女はあの頃と変わらない笑顔で、まるで昨日別れたばかりのような様子で僕に駆け寄ってくる。


「待ってたよ。ずっとずっと」


 それは、単なる再会の挨拶としては少しばかり重い言葉だった。

 だが、彼女の表情に嘘はない。


 その日から、彼女は僕の生活の中心になっていった。

 突然教室に現れては弁当を差し出し、休日には「偶然」を装って待ち合わせ場所に現れる。

 周りから見れば、まるで恋人同士のように映るだろう。


「私ね、もう二度と離れたくないの」


 ある日の下校途中、彼女は突然僕の腕に抱きついてきた。

 その温もりと微かに香る甘い匂いに、僕の心は揺れた。

 幼なじみという言葉では片付けられない、複雑な感情が押し寄せてくる。


「だって、小学生の時からずっと好きだったんだもん」


 彼女の告白は、遠回りした分だけ重かった。

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