犬の戯れ
あの日、彼女と出会ったのは放課後の教室だった。
誰もいない教室で、窓際の席に座って宿題をしていた私の机の上に、突然影が差す。
振り向くと、尻尾を楽しそうに揺らしながら茶色の耳をピンと立てた、犬型獣人の彼女が立っていた。
「ねぇ、一緒に帰らない?」
そう言って、彼女は私の腕にしなだれかかってきた。
クラスが違っても、廊下ですれ違うたびに声をかけてくる彼女のことはよく知っている。
「あのね、私ずっとあなたのことが気になってたの!」
それから毎日、彼女は私の教室に顔を出すようになった。
昼休みには私の弁当箱を覗き込み、「それ美味しそう!」と言って箸を伸ばしてくる。
放課後は部活の時間まで、私の机の前に椅子を引っ張ってきては、今日あった出来事を楽しそうに話す。
「今度の休みは一緒に出かけようよ!」
「ねぇ、聞いてる?私の話!」
「もう、よそ見しないでよ!」
彼女の気持ちは素直に受け入れていたつもりだった。
だが最近、少し距離を置こうとする私に、彼女の行動は次第にエスカレートしていった。
今日も放課後、私の制服の袖に彼女の匂いを付けられた。
それだけでは終わらず、首筋まで顔を近づけてきて、ゆっくりと鼻を擦りつけてくる。
「ね、私のこと嫌いになったの? だったら私の匂いでマーキングしちゃおうかな……。そうすれば、私のものって証明できるでしょ?」
彼女の吐息が耳に触れる。
困惑する私の反応を楽しむように、彼女は尻尾を愉快そうに揺らしていた。
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