天使の抱擁

 純白の羽を持つ天使の彼女は、まるで絵画から抜け出してきたかのように美しかった。

 金色の髪は柔らかな光を放ち、青い瞳は深い慈愛に満ちている。

 そんな彼女と出会ったのは、去年の春だった。


「人間って、本当に素敵な生き物ね」


 公園のベンチで、彼女はそう言って微笑んだ。

 周りの人々を見つめる彼女の眼差しは、まるで母親が我が子を見守るような温かさに満ちている。


 それからというもの、彼女は街で出会う人々に優しく語りかけ、時には路上で歌を歌い、困っている人がいれば手を差し伸べていた。

 そんな彼女の傍らには、いつも私がいた。


「あなたは特別よ。だって、私の愛を一番近くで感じてくれる人だもの」


 突然抱きついてきたかと思えば、頬にキスをして、まるで蝶のように軽やかに離れていく。

 天使である彼女にとって、そんな行為は何でもないのかもしれない。


 今日も、会社帰りの私の腕に彼女が絡みついてきた。


「ねぇ、もっと近くに来て。私の羽で包み込んであげる」


 やんわりと断ろうとする私の首に腕を回し、唇を近づけてくる。

 周りの視線が気になって仕方がない。

 でも、彼女の瞳を覗き込むと、そこには人間への無垢な愛情と、私への特別な執着が混ざり合っているのが見えた。


 これが天使との恋というものなのだろうか。

 戸惑いながらも、私は彼女の腕の中で微かに頷いていた。

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