魔法少女の糧

 私は魔法少女になった。

 魂を変質させて寿命を縮め、現代に現れた魔物たちと戦う代わりに、それなりの金を地位を得る。

 そういう契約だ。


 魔物たちを倒すという英雄的な側面から、魔法少女の人気は高い。

 だけど、寿命を縮める上に魔物との戦いで命を落とす危険もあることから、実際に志願する少女は少ないのが現実だ。

 それでも、私は魔法少女になった。

 ……彼のために。

 

 彼は私の同級生で、人見知りだった私にも明るく話しかけてくれて、誰からも好かれるような人間だった。

 だから人気者で、彼女もいて、私は焦がれているだけで我慢しているつもりだったんだけど……ある日状況が変わった。

 彼が病で倒れたのだ。


 聞いたところによると難病らしく、治療には莫大な金が必要らしい。

 彼の家族も、彼女も、そんな金は持ち合わせていなかった。

 だから、私が魔法少女になって稼ぐことにした。


 魔法少女は想いが強ければ強いほど、戦闘力も強くなる。

 私の抱える仄暗い想いは魔法少女としての力を増大させ、その戦果を以てして莫大な金を得ることができた。

 世間的にも、私はクール系魔法少女としてそれなりの人気があるらしい。

 別に意図していたわけではないが、使えるものは全て使うだけだ。


 金と人気を得た私は、病気の治療に必要な金をアタッシュケースに詰め込んで、彼の病室に持ち込む。


「今日の私のSNSでの発表、見てましたか」

「……あぁ」

「発表通り、あなたの病気の治療に必要なお金を全額用意しました。それから、覚悟もしてきました。……私と付き合ってくれませんか。断られてもお金は渡しますから、本心を聞かせてください」


 私がそう言うと、ベッドに寝たきりの彼は表情を歪ませて苦悩する。

 少し気の毒だけど、これが私の覚悟なのだ。


「魔法少女で人気者のお前に"好きな人に告白しに行きます"なんて発表されて、こんな大金積まれて、断ったらどうなるか想像がつかないほど俺は馬鹿じゃない。だけど分かってるのか? 俺には彼女がいるんだぞ」

「もちろん知っています。あなたが病気になってから、病室に一度しか顔を出していない薄情者の存在は、よく理解しています。……あなたが選んでください。元の彼女か、こうして準備してきた私か、あなたにとって心地のいい方を」


 そう言って、私は素の姿のまま彼に迫った。

 都合が良すぎるとは分かっているけれど、魔法少女ではない私のことを、受け入れて欲しかった。

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