第17話 千夏と雀

 なんだ、これは。


 さっきまで優位に進めれていたはずだ。勝ったはずだ。何故、何故、何故こんなことになっている。


 目の前の人間が武器を振るう。仲間たちが上下に絶たれる。自身の体に傷が増える。


 危険視したのか主が増援をどんどんと送り込んでいるがそれら全てを一撃で葬り去ってくる。


 遊ばれている。誰から見てもそれは明らかだった。


「どうした畜生共。私はここから1歩も動いていないぞ?早くかかってこい…旦那様が受けた痛みや傷を何倍にもして返してやろう」


 いつの間にか左腕が生えていた人間がそう言った。





「……なんこれ」

「おや、起きたでござるか主殿」


 失った意識を取り戻してから1分後に俺はそう独りごちる。


 目覚めてからあまりにも状況が分からなくて困惑してたら1分経ってた。まず俺なんで生きてんの?五体満足で。


「ここは何処でお前は誰でこの状況は何?」

「まぁまぁ落ち着くでござるよ主殿よーしよーし」

「撫でんな頭を。まずなんで膝枕されてんの?俺」

「そりゃあ拙者がしたかったからに決まってるでござるよ」

「決まってはねぇだろ」


 細かいことはいいじゃないでござるかとか宣うこの女のことは無視して状況について考える。


 まず俺は星獣に生きたまま体を貪り喰らわれ意識を失った。ここまでは良い、いや良くはないけども。


 んで目覚めたら何かくノ一みてぇなやつに膝枕されて何故か自分が戦ってる映像を俯瞰視点で見せられている。


 うん。分からん。


「千夏殿頑張ってるでござるなぁ」

「誰なんだよそれ」

「そういえば主殿は記憶を失ってるんでござったな。今見てる映像で主殿の体で戦ってるのが千夏でござるよ」

「まぁこの際体を勝手に使われてることはいいとして…なんで腕生えてんの?食われてなかった?」


 ご丁寧に服まで生えちゃってんじゃん。なんでだよ。


「あーそれなら千夏殿がこの世界で得たスキルの効果でござるよ。何故か拙者も千夏殿もここには居ないもう1人もこの世界に来た時にスキルを得たんでござるよ」

「前世絡みかお前ら」

「そうでござるよ。まぁ今は思い出せないと思うでござるが」

「これっぽっちも思い出せん」


 名前聞いても心当たりがないんだよなぁ。


「お前はなんて名前なん?」

「拙者は雀と言うでござるよ主殿」

「雀ね。よろしく」

「よろしくでござるよ」

「んで俺どうしたらいいのこっから」

「千夏殿があの獣を殺したら自動的に戻れるでござるよ。傷が癒えきってないからまだ戦ってるでござるが」

「傷だらけだったもんなぁ俺」


 見た目だけならもう綺麗なもんなんだけどな。


「しっかし負けちまったなぁ…鍛錬が足らんかったか」

「正直奇襲された時に片腕さえ失わなかったら勝ってたと思うでござるよ?」

「あの場面ではああするしか無かったんだよ…片腕でも戦えるような鍛錬もすべきか」

「鍛錬しすぎじゃないでござるか?」

「そうか?普通じゃない?」

「普通ではないでござるよ…」


 朝と深夜にしかやってないじゃん鍛練。昼は遊びたいしその時間にせざるを得ないんだよ。


「てか戦闘始まってどんくらい経った?応援遅くない?」

「あぁそれなら妨害されてるでござるよ」

「妨害…?なんかあったの?」

「恐らくでござるがあの犬を生み出した人間が獣たちを絶え間なく送り込んでるんでござるよ」

「あの犬人造なん?」


 なんで分かんの?


「まぁ恐らく…でござるが。前の世界で作られた存在と同じ気配がするもので」

「前の世界の俺ら何やってたん?」


 世界守るためにでも戦ってたんかな。


「てかなんで状況分かんの?」

「拙者のスキル『千里眼』の効果でござるよ」

「俺の上位互換すぎん?」

「否定出来ないでござる」

「悲しみ」


 まじ恨むぞ神本当に。せめてDくれよ。




──side千夏


 あー忌々しい…忌々しい…。この体に刻まれた無数の傷が旦那様の苦しみを物語っている…。


 力さえ失っていなければこんなものたちに負けるはずがないのに…!


 あの女も女だ!旦那様に庇わせ腕を失わせたばかりか戦力としても役に立たない!

私が隣に居たならばあんな失態は見せないのに!


 忌々しい…忌々しい…忌々しい…!


「グギャァァァァァァ!」


 耳障りな叫び声が耳を打つ。


 まだまだ旦那様の苦しみは味合わせきれていないがこれ以上体を奪うのも気が引ける。


 自分の体を知らない人間に使われるのは気が悪くなっても仕方が無いだろう。


 しかし私が戦っている間旦那様は雀と喋っているのだろう。羨ましい。妬ましい。私も話がしたい。


 そのドロドロとした思いすらも刀に乗せ迫り来る畜生共を切り伏せていく。


「グッ、グギャ…」


 クソ畜生もついでに切り伏せた。早く旦那様に体を返そう。





「どうやら終わったようでござるな」

「そうっぽいな。なんか体透けてきたし」


 俺、消えるのか…?


「久しぶりに主殿と語らうことが出来て楽しかったでござるよ」

「ならまた喋ろうや。次は千夏さんも入れてさ。鍛錬してる時なら幾らでも話しかけてくれていいよ?話しかけれるのか知らないけど」

「いっ良いんでござるか!?」

「鍛錬してる間暇なのもあるし…俺もまた雀と話したいからさ」


 決して膝枕されたから絆された訳では無いよ?確かに心地よい感触と素晴らしい多幸感に襲われはしたけどさ。


「あっ主殿…!なっなら遠慮なく鍛錬中は話しかけるでござる!千夏殿も喜ぶでござるよ!」

「それなら良かった。んじゃ一旦待たな」

「また!でござる。主殿!」


 そう言葉を交わしたあと、そのまま俺は光となって消えた。





「ふぅ…戻ったぞ雀。旦那様と何を話していたんだ?」

「おかえりでござる千夏殿!ふっふっふ…何話したと思うでござるかぁ?」

「うっざい反応しないでくれ雀。親友を手にかけたくは無い」

「血の気多すぎるでござるよ千夏殿!」

「んで、何話したんだ?」

「かくかくしかじかみたいなこと話したでござるよ」

「ぬぐぅ羨ましい…!」


 千夏と呼ばれた和風の袴を着た女性が崩れ落ちる。


「でも主殿は千夏殿と喋りたいと言ってたでござるよ。鍛錬中は遠慮なく話しかけてくれていいらしいでござるよ」

「ありがとう雀。やはり君は私の親友だ」

「言葉が軽すぎるでござるよ千夏殿…」


────────────────────

千夏殿書いてて楽しいな。出番そんなある方では無いけど今の所の予定だと。


読みにくかったり分かりにくい箇所あれば教えてください。


死ぬ程モチベになるので感想や♡や星無限に下さい。星100目指してます。

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