第16話 欠損はかっこいいけど普通に致命的なデバフ
ドォン!
現状を理解出来ず混乱している凛先輩を抱え迫り来る攻撃をかわし続ける。
なんで口からビーム飛んでくんだよ巫山戯んなマジで。犬じゃないの?何?俺が知らんだけで犬って口からビーム出せんの?
「グギャギャギャギャギャ!」
さっきからずっと大笑いしてるしよぉー…舐めプされてんなぁこれ。
…どうしようか本当に。
隙を突き、とりあえず全力で足に力を込めその場から離脱する。一旦凛先輩どうにかしないといけないからね。
「よっ!ほっ、と。一旦ここらで大丈夫…かな。凛先輩大丈夫?」
根気強く話しかけているとやっと頭が追いついてきたのか凛先輩が喋り始める。
「いっ伊吹…腕…私のせい、で、うっ腕…腕が」
凛先輩の声は震えておりよく見ると目から涙も零れ落ちている。
「これ?まぁ大丈夫よ。慈愛の聖女様とやらなら治せると思うし」
「でっでも、私のせい、で…痛く、ない…の?」
「いやもー全然?まーったく痛くねぇから安心してくれ」
実際がどうかは言うまでも無いがありのまま言ったら更に狂っちゃうのは目に見えてるので嘘をつく。
「でっ、でも、わたっ私…先輩なのに、私…何も、迷惑かけ、て私、頑張らなくちゃいけないのに、私、私、私」
いつものような一人称や口調はなりを潜め、幼子のような喋り方をしながら凛先輩は自分を責める。過去に何かあったっぽいなこれ。
「私頑張らなきゃ、私何も、価値なんて…ないのに、私はなん、で…何も出来ない、の?」
ドォンドォンドォン
自分の世界へと閉じこもってしまった凛先輩を抱え迫り来るビームを避け続ける。
一撃でも当たればタダではすまないのが丸分かりな威力に冷や汗が止まらない。
凛先輩を戦力に数えるのは状況的にとても難しいのがいやでもわかる。
14の子供が目の前で人の腕が食われるのを見て冷静でいられるはずもないか。いや、これ自体は見た事あるかもしれないけど自分のミスによる結果だから尚更なのかもな。
しかしどうするか。この状況の凛先輩を1人逃がしたところで道中また何かしらのイレギュラーが発生した場合凛先輩は戦えるだろうか。
そう何度も起こらないからこそイレギュラーと言われるのだが何だか胸騒ぎがする。
しかしここに残したらそれこそ共倒れしてしまう。
「私、何、も変わってない…ようやく、私…も誰かの、役に…立てるって……」
凛先輩の独り言を聞きながらビームを避け続ける。いった!やべ今ちょっとかすっただけで足少し溶けたんだけど!
こりゃ凛先輩1人逃がして応援呼んできてもらうしかないかなぁ…役割与えることで立ち直れるかもしれんし…………伝えてみるか。
「凛先輩!話があるんだけど聞いてくれるかな!」
「ひっ!ごっごごごめんなさい…わたっ私」
「怒りたい訳じゃなくてね!今から全力で俺が囮になるから凛先輩には学園まで戻って応援を呼んできて欲しいんだよ!」
「応援…?」
「そう応援!出来るなら強いらしい結衣といおりん!1人だとちょっと勝てそうになくて!」
「でっでもわた、し…」
でもいおりんトラウマあってAランクくらいの活躍しかしないんだっけ!?忘れた!ビーム避けながらでまともな思考なんて出来るわけねぇだろ!
「凛先輩にしか出来ないことなんだよ!」
「私に、しか…出来ない」
「そう!頼んだよ凛先輩!」
「まっまか、任せて…!」
そう言い少しバランスを崩しながらもバイクに跨り全力で学園まで駆けていく。
俺はその背中を守るだけだ。
「グギャッ、グギャッ!」
「くっそ足も早いのかよ化け物が…きっしょくわりい笑い声だなぁ全く」
「グギャギャギャギャ」
結構距離は空いていた筈だが既に目の前にいる化け物に向けそう言葉を零す。
直後に放たれたビームの雨を交わしながら、俺は化け物へと接近していく。
「グギャギャギャギャギャギャギャ!」
「ははははははは!」
左腕の痛みを忘れられるように恐怖心を紛らわせるように大きく笑い声を上げながら化け物へと攻撃を叩き込み続ける。
何度目かの攻撃の応酬のあと、ビームが頬を掠り頬の肉が焼け爛れる。それでも、俺の瞳から光が消えることはない。
眼前のこいつは生きている限り必ず紗奈や結衣、皆を不幸にするだろう。そんな事をさせる訳にはいかない。
眼前の敵を確実に殺す。それだけを考え拳や足を全力で振るい続ける。
人間には脳のリミッターと言うものがあり、本来真に全力は出せないようになっている。そのリミッターを外す術を会得している俺はさっきから常に真の全力を出し続けている。体がめちゃくちゃ痛い。クソが。
タイムリミットは持って10分。その間に殺せなければ俺の負け、つまり死である。
ビームを避け、拳を振るい口を破壊していく。ビームさえ無ければ片腕状態でも本気の俺とこいつの身体能力は互角…それどころか恐らく俺の方が強い。
相手もそれを理解しているのか口を全力で守りつつビームを絶え間なく照射し続ける。
「ひゃはははははは!」
アドレナリンも全開に、死ぬこと以外はかすり傷と捉えながら化け物を攻撃し続ける。
自分の肝の座り方に無くなった前世の記憶の中にもしかしたら日常的に殺し合いをしていた過去があったのではないかと一瞬考えつつ、そんなものを考えている暇は存在しないのでその辺に考えを捨てる。
決定打を与えられぬまま俺たちは戦い続けていると急に空間が揺らいだような感覚を覚える。
「なん…」
「グギャギャギャギャギャ!」
眼前の化け物が何かを喜ぶようにそう鳴き声をあげる。
気付けば俺は犬型の星獣の群れに囲まれていた。
目の色からしてランクはBからA、一体だけだがSランクの姿まで見える。
「グギャッ」
呆然とする俺に星獣の群れが殺到する。
「くっ、そがァァァァァァ!」
血管がはち切れそうな程の大声を上げながら殺到する星獣共を薙ぎ払う。
どれも一撃では倒すことが出来ず、更には後続も次々と湧いて出てくるために休む暇もない。更に極めつけは
ドォン!ドォン!ドォォォォン!!!
後方へと下がった赤目の星獣のビーム攻撃である。仲間のはずの奴らも巻き込みながら放たれるこの攻撃は厄介極まりない。
「アァァァァァァ!」
冷静さを何とか保とうとしながら眼前に迫り続ける星獣たちを殺していく。刻一刻と近付くタイムリミットに少なくない焦りが湧き出てくる。
その焦りが致命傷となり
「しまっ!ガッ!」
無いはずの左腕で庇おうとした攻撃が直撃し、俺の体が宙を舞った。
その隙を見逃さず放たれたビームでお腹に大きな風穴が開き、地面に落ちた俺の元へ星獣共がヨダレを垂らしながら向かってくる。
そのまま落下し動けない状態のまま星獣の群れに全身が沈み、星獣たちに生きたまま体を食われ始める。
ぐちゃぐちゃと咀嚼する音が今は不快で不快で仕方がない。
全身を踊り食いされながらもとうに痛覚も失っていた俺は、意識を失うその時まで元凶の星獣を睨み続けた。
──星獣視点
ようやく、ようやく忌々しい人間を撃ち抜くことが出来た。
全身を生きたまま食いちぎられているのでもうこちらに危害を加えることは出来ないだろう。
「グギャッグギャッグギャッ」
無意識のうちに笑みが零れる。
主に命じられたここで沢山の人間を捕食することは叶わなかったが通常時ならば自身よりも強そうな人間を殺すことが出来たとあらば喜んでくれるだろう。
それもこれも主が召喚してくれた自身の配下のおかげである。配下を後で労うと共に主に最大限の感謝と忠誠を誓おう。
そう考えながら念の為にと人間が沈んだ群れの方を見やる。
「……グギャ?」
視線を向けたその時、群れの星獣たち全員の体に線が入る。
キィン…
気が付けば群れの星獣は一匹残らず体が上下に別れており、自身の左腕が宙を待っていた。
「グギャァァァァァァ!」
群れがあった場所へと目を向ければ、服装が変わり雰囲気のようなものもガラリと変わった先程の人間が、満身創痍の状態ながら剣に似た何か武器のようなものをこちらに向けている。
「よくも……よくも旦那様をここまでボロボロにしてくれたな不細工な犬共が!己が死を持って償うがいい!」
満身創痍のはずの人間の言葉に、何故か体がブルりと震えた。
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読みにくかったり分かりにくい箇所あれば教えてください。
死ぬ程モチベになるので感想や♡や星無限に下さい。星100目指してます。
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