四、輪唱
小学5年生の頃ですかね。学校の怪談を友達から聞いたんですよ。
ほら、小学生なんて怖いものが大好きでしょう。
そんな感じで、自分の学校の七不思議がある日急に噂されたんです。
たとえば「校長室の椅子が夜な夜な勝手にくるくる回っている」とか、「午前4時44分の音楽室で男子児童がしくしく泣きながらリコーダーの練習をしている」とか。
今思うとすごくありきたりなものばかりなんですけどね。当時は新鮮でした。
その中でも異質だったのは「体育館の倉庫には夜になるとホイッスルを吹く生首が現れる」というやつでした。
こういうのって、最初の数個だけが作りこみがしっかりしているんですよね。
だから後半はかなり適当になってきていたりしますよね。これがまさしくそんな感じでした。
だって、「体育館の倉庫」と「生首」はあまり関係ないような……
当時の僕は斜に構えたような子供でしたので、そんなことがあるわけないといつも否定していました。
ただ、それを言うと、みんなからは「じゃあ確かめてみてよ!」なんてよく反発されてました。
僕も次第に引くに引けなくなったんですよね。
あるとき、「分かったよ」と言って、本当に確かめることにしたんですよ。
ちょうど家も学校から近かったので、夜にこっそり抜け出して学校に行く、ということが可能でした。
ただ、僕一人で行って、万が一何かあってもなくても、誰も証人がいなくなってしまうじゃないですか。
だから、仲の良い同級生Bとその弟(小4)、そして自分の弟(小1)と4人で、夜の学校に忍び込んで、作戦決行することにしました。
ある晩、しっかりと入念な打ち合わせして4人で校門の前に集まりました。割とすんなり校舎内に入れたのを覚えています。
入ってみると校舎の中はただただ暗いだけで、噂は噂のままであるということが分かりました。
お化けの姿はもちろん、声や物音すら特段怖いものは無く、聞こえるのは周りの田んぼからの蛙の鳴き声程度なものでした。
結局、個人的に好きだった「体育館倉庫の生首」というところも何もなくて、諦めて帰ることにしました。
ただ、まだ小学1年生だった私の弟には、真っ暗の校舎自体が怖かったようで、帰るということが分かると、気を紛らわすように「かえるの歌」を歌いだしたんですよね。
今思うと「カエル」と「帰る」をかけてたのかな?
優しい同級生Bの弟は、それを聞くとすぐに後に続いて輪唱を始めたんです。
続いて同級生B、そして私、と何度かループするように繰り返しながら、昇降口の方まで歩きました。
外の景色がぼんやりと見えると安心したように、みんなの声が大きくなりましたね。
私の弟は安心しきったようで「げろげろげろげろ ぐわっぐわっぐわっ」を歌うと、もう歌うのを止めていました。
それに倣ってBの弟、Bと最後のフレーズを歌い終えたときに、Bが怪訝な顔をしていることに気付いたんですよ。
輪唱の順番、私が最後だったじゃないですか。
私が最後のフレーズを歌い終わるときに、その表情の意味が分かったんですよ。
私が「げろげろげろげろぐわっぐわっぐわ」と言っている間に、
「ぐわっ、ぐわっ、ぐわっ、ぐわっ」
と聞こえてきました。そして、我々の口は誰一人として動いていないんですけどね。
「げろげろげろげろ ぐわっぐわっぐわっ」
私の後に「誰か」の歌声が聞こえてきたんですよ。校舎中に反響するように。
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