三、引っ越し祝い
よく「霊感がある」っていう人、ってたまにいませんか?私の友達にもいるんですよ。
これは、私がその友人の「霊感」を信じることになった話です。
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会社の転勤が決まったので、その時に住んでいたアパートを引き払い、引っ越しの準備をすることにしました。
次のアパートは会社が契約しているもので、家賃がほとんど会社によって負担されていました。家具や家電の調達に関しては自己負担でしたが、引っ越し代金も会社が負担してくれるので、有難かったですね。
大抵は資料みたいなもので部屋の様子とかを知ることができるんですけど、一応内見も出来るというので、友人Aを連れてその社宅に行ってみました。
木造のアパート、廊下に併設されたキッチン、一口だけのコンロ、リビングが8畳、寝るためだけのサイズ感の部屋と申し訳程度の小さなクローゼットがありました。ユニットバス、洗濯機はベランダに設置するタイプ。
大学で上京してすぐの時の一人暮らしの家を思い出しました。
私が懐かしさを感じながら「なるほど、こういう感じね~」と思っていると、Aも図ったように「あー、こういうタイプの部屋ね」とだけ言って、そそくさと部屋を出ていきました。
私は一人で部屋の中をすみずみまで見て、引っ越し後の生活をぼんやりと想像しました。結構、引っ越しが好きなんですよ。リセットできるような気持ちになれて。
それから二週間後、私は無事に新居に引っ越しました。
今回の転勤は二年の期限付きで、また本社に戻ることが確定していました。
上司からは「ここより少し田舎だけれど、息抜き程度に楽しんできな」と言われてましたので、結構気持ちも軽く、新天地を楽しみにしていました。
引っ越し当日の朝、Aからも連絡がきました。
「手伝うもんはある?」「なにか買ってきてほしいものは?」と聞かれたんですけど、かなり準備はしていたので、「特にないよー」と、新居の住所をつけて返信しました。
昼過ぎになってAがやってきました。荷解きだけとはいえ、というくらい手ぶらかつ軽装で現れました。
Aは私の新居に入るやいなや、ズボンのポケットから小さな封筒を取り出しました。「これ、引っ越し祝いね」
二年が経ち、私は予定通り本社勤務に戻りました。ですが、新居の契約日の手違いから、私は一日だけ、空っぽの部屋で一夜を過ごすこととなりました。
その晩、確かに見ました。
ベランダにぶらさがるコウモリのような逆さまの黒い人影を。
あのおどろおどろしい怨念のような影を見たとき、私はいつも必ず携帯していたお守りを、段ボールと一緒にまとめてしまったことを思い出しました。
Aにはいまでも感謝しています。
付き添いで新居にやってきたとき、玄関から正面に見えるベランダに、既にあの影がいたこと。
転勤という会社都合の状態での引っ越しを、融通を利かせて恐怖心を煽ることなく、私を導いてくれたこと。
あの日、「引っ越し祝い」としてもらった御守りが二年間、私を守り抜いてくれていたことを。
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