二、細道について
調査中。
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深夜、仕事が終わり、私と同僚は会社の近くの細道を一緒に歩いていました。
その道は、ビルとビルの狭間にあり、暗くて狭いんですが、私が利用する駅までの近道でもありましたので、よく利用していたんです。
街中なんですけどね、その道に入ると一瞬で暗くなって、静かで二人の足音だけが聞こえるみたいな。不気味っちゃ不気味な道でした。
「お前、ここ通るの怖くないか?」と同僚が突然言い出したんですよ。
「は?何が?」なんて笑いながら振り返ったら「いや、この道さ、昔から変な噂があるんだよ。なんか、夜遅くにここを通った奴が消えたって話を聞いたことがある。気づいたら後ろに誰かがいて、振り返ると、そいつがいなくなるんだとか…」って、怖い話をするトーンでしゃべってましたね。
「くだらないなぁ」と鼻で笑ったんですよ。「都市伝説だろ?そんなのあるわけない」って。
ですが、同僚ははいつもとは違う真剣な顔で「いや、本当にさ、俺の知り合いも、一度ここで…」と続けて言っていました。
その時、突如として空気が重くなるような感覚が襲ってきたんです。何かが違う。何かが、この路地に潜んでいるような不気味な感覚がしました。
「おい、そんな話やめろよ」って、冗談めかすために大きい声で「さっきの資料なんだけど、明日の会議でどうするか—」って話を切り替えようとしたんですけど、返事が無いんです。
おかしい。振り返ると、同僚の姿がない。
飼い猫を捜すみたいに名前を呼ぶんですけど、無反応でした。
ほんの数秒前まで、確かにすぐ後ろを歩いていたはずなのに。心臓が一気に跳ね上がり、足がすくんでしまいました。静寂もどんどん不気味になってきて。
慌てて辺りを見回すけど、どこにもいないんです。混乱と恐怖を抱えたまま、結局その夜、同僚を見つけることがはできませんでした。
仕方なく、一人で家に帰りました。
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以下、相違点。
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(●●さん事例)
翌朝、会社に出勤しても、同僚は現れませんでした。不審に思って、他の社員にも尋ねました。
「そんな奴、会社にいたか?」そう言って笑う顔が、急に恐ろしく見えました。
彼が最初から存在していなかったのかもしれない、ということが余計現実味を帯びたように感じました。
私は震えながら、その前の晩のことを思いだしましたよ。
確かに自分が一緒に歩いたはずだと。何度も何度も思い返しました。
でも、その答えを探す勇気を最後まで持つことはできませんでした。その後はその細道を見て見ぬふりをしていました。一度も通ってません。結局会社も辞めて、転職して現在に至ります。
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(▲▲さん事例)
次の日の朝、同僚は会社に現れませんでした。終業時間が差し迫った頃に、他の同僚たちに彼のことを聞いてみました。
ですが、みんな怪訝な顔をしていました。中には「具合悪いんじゃない?大丈夫?」と心配もされましたよ。
困惑しました。確かに、昨日の夜は一緒に細道を通ったはずだ。
彼の言動、話した内容、そして消えた瞬間まではっきりと覚えている。なんならそれ以前の彼との記憶もすべて。
「じゃあ、ここまでの記憶自体なんだったんだ?」と、自分の記憶そのものが信じられなくなりつつも、彼が話していたあの細道の噂を思い出したんです。
そしてその夜もう一度あの細道に戻ることを決意しました。自分が感じた不気味な感覚、そして彼の消失の謎を解くために、何か手がかりを探そうと思いました。
その細道に足を踏み入れると、昨日と同じ静寂と暗闇が包み込んできました。
その時、背後から声が聞こえてきたんです。
「お前、ここ通るの怖くないか?いや、この道さ、昔から変な噂があるんだよ。」
おそらく同僚の声だったと思います。前日の夜、彼が語った言葉そのままでした。おそるおそる振り返ったんですが、当然誰もいなくて。その道を抜けるまでの間ずっと「お前、ここ通るの怖くないか?」って声が聞こえていました。
私の感情の問題なんでしょうか。
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(◆◆さん事例)
私は確かに、彼と一緒に歩いていた。あの暗い細道で突然消えたのだ。と思って、家に着いたあと、思い切って彼に電話をかけました。
少しすると、電話に出てくれました。いつも通りの無邪気そうな声の調子でした。
「お前、どうしたんだよ?」と当の本人はなにも知らない様子でした。
「さっき、あの細道でお前がいなくなったから心配してたんだよ……。何かあったのか?」と思わず声を荒げてしまいました。
彼はそれでもいまいちピンと来ていないというかとぼけた様子で、「いや、そもそも一緒に帰ってないだろ。俺、あの道の手前でお前と別れたじゃん。あっちの道行くって言うから、俺とは別のルートで帰ったんだ。何言ってんだよ?」
そう言われて、頭が真っ白でした。確かに一緒に細道を歩いていたはずなのに、彼の記憶では途中で別れたという。記憶がねじれているかのような。
「そんなわけないだろ…」と思ったのですが、明日もう一度あの細道へ行って確認することを一人で決意しました。
次の日の夜、意を決して再びビルとビルの狭間のあの細道に向かいました。心臓の鼓動が速くなるのを感じながら、昨日の出来事を思い返して歩きました。
道の途中で、何かが背後で動いたような気がしました。ですが振り返っても、誰もいない。その瞬間、暗闇から聞き覚えのある声が聞こえたんですよ。
「お前、ここ通るの怖くないか?いや、この道さ、昔から変な噂があるんだよ…」
昨日、同僚が語っていたのと同じ言葉だとすぐに分かりました。ですがそこに何も姿はなくて、暗闇の奥から声だけが響いていました。
一瞬で毛穴が開いて滝のように汗が流れました。自分は一体、何の声を聞いているのか?
昨日の彼の言葉が、まるで私の中の現実を食い荒らすかのように、繰り返しこだましていました。しばらくは立ち尽くしていたと思います。
もしかして、あの日、自分が一緒に歩いていた彼は、最初の時点で既に「同僚」ではなかったのではないか、なんてことを考えてしまいました。
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大まかな部分が重複した事例が現在計6件確認されている。
しかし、細道の地点や体験者の名前、体験談の細部、「同僚」の所在などは異なっている。
現在、これらの事例の共通点は「夜間(時間指定無)」「ビル間の細道」「体験者との人間関係:同僚」「同僚の姓:■■」である。
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