第4話 はぁ...勇者?



 ローブの男の話を聞いたところで何一つとして実感は湧かなかった。


「自分が人より優れてるかどうかとか成長してるかどうかってわかる方法はあるんですか?」


「そんな事もわからんのか。自らの血を地面に垂らし『ステータス』と言えば自分の能力値が見える。常識だろう」


 最後の方に 本当にこんなのが勇者で大丈夫なのか?とかそんな感じの言葉が聞こえた様な気がしたが多分勘違いだろうし気にしない事にした。

 それより聞き捨てならない情報があった気がする。今奴は自らの血を垂らすとかなんとか言って無かったか?ステータス見る為だけに血がいるのか?血ってどうやって出すんだ?唇を噛む?指を切る?


 (普通に嫌なんですけど?)


「――そうですか。じゃあそのうちケガでもしたらついでに見てみますか」


 なんとかこの場での流血沙汰を回避する為、そう言うや否や一刻も早くこの場から離脱しようと振り返ろうとした瞬間


「何を言っている!召喚された勇者のお前がどのぐらいの強さなのかわからないと召喚した意味が無いであろうが!」


 再び飛んできたローブ男の怒号によって俺の身体はうんともすんとも言わなくなった。


 (――いや知るかよ……じゃあもっと痛みに強そうな江戸時代の人とかでも召喚し直してくれよ……)


 召喚した勇者がそんな現実逃避的な思考をしている事など露知らず、周りを取り囲む様に並んでいた騎士達の中から1人の騎士がこちらへ近付いてくる。そして


「人に切られるよりは自分で切る方がいいだろ?」


 そんな事を言って立派な銀色の剣を俺の足元に置いて戻って行った。


 (ねぇ、自分で自分の指切るの恐いよね?普通に。

 俺だけじゃないよね?現代人だったらみんなわかってくれるよね?

 いやまぁ絶対無理かって言われたら全然出来るよ?出来るけども!決してしたくはないよね!?)


 そんな誰に向かい語りかけているのかもよくわからない無駄な逃避をする事数秒。

 これ以上ごねた所で恐らくは無駄だろうしどうやら覚悟を決めるしか無さそうだった。

 なにより先程から全然進展しない状況に周りからの圧がやばい事になってきていた。


 そしてやがて諦めの境地へと達する事の出来た俺は、無心で剣の切っ先を自分の指へ押し当てる。


「――っつ…ステータスッ」


 半ば自棄にそう唱えた途端、足元に魔法陣?みたいなモノが現れ目の前に青っぽい文字の羅列が浮かび上がった。



 【名 前】 ナガヒサ・レイア


 【年 齢】 18


 【職 業】 勇者?


 【レベル】 1


【攻撃力】 40


 【魔 力】 15000


 【耐久力】 20


 【素早さ】 50


 【知 力】 100


 【幸 運】 10


 【スキル】 Realization (Exist Magic)



 目の前の幻想的な光景に対する感動の前に、俺の頭にまず浮かんだのは


 (――――んー……よくわからん)


 これを見てどういうリアクションをすればいいのか全くわからなかった。

 そもそも他の人の数値がわからないのだ、自分がこの世界において優れているのか、それとも劣っているのかどうかなどわかる筈が無いのだ。


 (ただ……運が悪いのだけはよーくわかった)


 平均値がわからない以上、目の前の数字の羅列などなんの意味も持たない。その為自然と興味は下の方へ向かう。

 【Realization】これは英語なのだろうか、試しに触れてみると下に説明文の様なモノが現れる。


 【Realization Exist Magic】


 「この世界に存在する魔法 自身が実際に見た事のある魔法を頭の中にイメージする事でそれを具現化する事が可能」


 (――――ふむ…...強すぎね?てかもはや神じゃね?)


 まぁそんな冗談はさておき、確かにぱっと見はぶっ壊れスキルではありそうだった。

 だが考え方によってはどうだろうか。まずこの世界に存在する魔法って事は俺のいたあちら側の世界で見てきたあの二次元の世界でのかっこいい魔法たちは使えないという事だろう。


 (どうしようこの世界にあるのが水をお湯にする魔法とか人のホクロの数が瞬時にわかる魔法とかだけだったら……)


 そして他の人のスキルはこれに含まれるのか、そもそも今の段階では魔法とスキルの明確な違いもわからないのだが。


 (あと消費魔力が書いてませんが?)


 もしこのスキルのコスパが悪かったとしたならばそれは微妙なんてものでは無い。

 どれだけスゴイ魔法を知っていたとしても魔力が足りなければ当然出せないだろう、それにくだらない魔法を何十種類も使えるってだけでは到底大した強さにはなり得ない。

 それに魔力15000というのもどうなのか、他の数値と比べれば図抜けて高いのは分かるがこれも平均値がわからないと何とも言い様がない。

 そしてこの魔力量はLVが上がれば増えていくものなのか。


 (なんか幼少期の間しか増えたりしないって設定も何回か見た事ある気がするんですけど……)


 もしそのルールがこの世界にも適用されていた場合、18歳になる俺の魔力は現時点のこの数値で頭打ちという事になるし軽く絶望を覚えざるを得ない。 

 流石に15000程度の魔力で使える魔法で魔王なんて倒せるわけが無いだろう。

 下手をしたら勇者をやめて魔法学校の先生への転向も視野に入れなくてはいけないかもしれない。


 そして遅くなったが一番肝心な事がある。


 (【勇者?】ってなんだ?違うの?もしかして間違って呼ばれちゃいました?わたし)


「どうした?はやくステータスを教えんか!」


 こちらがあれこれ色々考えてる事なぞ露知らずローブの男は急かしてくる。

 教えろと言ってくるという事はステータスは自分にしか見えないモノなのだろう。

 なにかしら特殊な方法があったりもするのかも知れないが今この場においてはその心配も無さそうだった。


 (どうするか……とりあえず当たり前だがありのままを言うのは無いな。流石に全員が全員こんな特殊なスキルを持っているわけが無いし、警戒なんてされてもいい事は1つたりとも無い。

 とりあえずステータスの方は魔力以外は見た感じ普通そうだし教えても大丈夫そうか……?)


「ステータスは


 【攻撃力】 40


 【魔 力】 1500


 【耐久力】 20


 【素早さ】 50


 【知 力】 100


 【幸 運】 10


 って書いてありますね」



 「魔力1500!?流石は勇者召喚……」「流石はエド様。素晴らしい召喚術です。」「だが他の数値は……」「肝心なのはスキルの方だがな」「エド様がいればこの国も安泰ですね」


 途端に周りが騒がしくなった。その中には賞賛する声が多い様に思えたが、よくよく聞いてみると俺自身の事よりもその俺を召喚した目の前のローブの男を褒めている声が大半を占めていた。

 中々もどかしい気分だったがその事に文句をつけたところで何も好転はしないであろう事はわかっていた為、特に口を出す事はしなかった。 


「ほう、さすがは勇者召喚で呼ばれただけはあるな。ちなみに普通のレベル1だと大体がその10分の1から5分の1程度の数値だ」


 とりあえず勇者としての及第点はクリア出来たみたいで安堵する。もしこいつらに使えないと思われたら最後。すぐにでも雑用係の方に回されてもおかしくはないからだ。


「して、スキルの方はなにがあった」


 (流石に聞いてくるよな。どうするか……とりあえずはスキルの実験も兼ねてうまく切り抜けられるかどうか試してみるか)


「魔法関係のスキルだとは思うのですがいかんせん魔法と言うものが無い世界から来たもので…。少し不安なのでどなたか一度魔法というモノを直接見せては頂けないでしょうか?」


 咄嗟に考えたその場しのぎだったがそこまで違和感はなかったんじゃないだろうか。


「まあ確かに暴発でもされたらたまらんか。おい、やれ」


「っは! أنا أسافر وحدي أنا لا أسافر وحدي ファイヤーボール!」


 ローブの男に声をかけられた見るからに魔法使いの様な服装をしていた男が、列から一歩前へと出て呪文の様なモノを唱えだす。

 最後の魔法名は英語だったが、詠唱している段階での言語は理解の出来ないモノだった。

 そもそも魔法を放つのに詠唱が必須なのかどうかはわからないが、もし必須だった場合当面のスケジュールが言語学習になる事は間違い無かった。


 詠唱と魔法名を唱え終わった瞬間、男の手の平の上に小さな火の玉が現れた。

 やはり目の前にいるローブを羽織った爺は魔法使い達のリーダー的な何かの様だ。

 今までの話の流れからわかった事だが多分俺を召喚したのもこの爺で間違いないだろう。


 (――――偉そうだし)


 それにしても……改めて本当に来てしまったのだと実感させられた。ファンタジーの世界に。

 先程のステータスも中々に神秘的な光景ではあったが、流石に魔法まで見てしまうと込み上げてくる感動を抑えるのは難しい。


 今見たものを想像しながら魔法名を言えば俺の手の平にも火の玉が現れてくれるのだろうか、スキルの説明にあった様に実際にこの目で見たし発動条件の方に問題はない筈だが……如何せん詠唱文を聞き取れないとは思っていなかった。


 (もしこれで何も出なかったら中々エグい空気になるのは目に見えている……頼むぞ、まじで)


「ありがとうございます。それでは――」


 この場にいる数十人の視線が全て俺に集まっている。こんなに大勢に注目される事なんてしばらくは無かった経験だ。

 手の平に尋常じゃない量の汗が滲んでいくのを感じる。


「――ファイヤーボール!」


 先程の魔法を頭の中に強くイメージし、そう口にした瞬間――――俺の手の平の上に二つの火の玉が現れた。


 その光景は……信じられない程幻想的に見えた。



 ――――これが……魔法



 「えっ!今のは……」

 「おぉ!火属性魔法か!」

 「あれは詠唱破棄!?」


 初めての魔法に感動し1人余韻に浸っていたところだったのだが、急に周りがざわつきだした事で一瞬で現実へと引き戻された。


 (――え、なに?あのフードが出したのと同じだったよな…?無意識になんか変な事しちゃったのか…?

 あ、そういえば玉の数1個多かったかも……いや、でもそれならむしろプラス評価だよな…?)


「詠唱破棄か。さすがは勇者という事か。火属性魔法と詠唱破棄が貴様のスキルという事か」


 (なんだ、ミスしたわけじゃなかったのか……でもよかった。なんか勝手に解釈して納得してくれてるみたいだ)


 周りの驚き様は中々に凄まじいモノだった。それが火属性魔法なのか詠唱破棄に対してのモノなのかはわからないが、スキル2つでこんなに驚いてくれるのか。

 なんだか俺が見ていたネット小説の世界とかよりも全体的にレベルが低いのかもしれないなこの世界は。



 まぁ本当は俺、スキル1つなんですけどね?



 あと 勇者? なんですけどね?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る