第3話 はぁ...異世界?
「ほ、本当に現れたぞ…!」
「なんだあの服…。見た事も無い…」
「流石はエド様だ…!」
(――――なんだ…?)
突然足元が光って視界がホワイトアウトしたと思えば、次は周りから絶え間ない人々の喧噪が聞こえてきた。
「成功したか、よくやったエド」
「もったいなきお言葉、ありがとうございます陛下!」
やがて光も収まりだんだんと視界が回復してきた俺の目に飛び込んできたのは――――なんとも立派な王宮?だった。
「よく来たな勇者よ。してその方、名はなんと申す」
兎にも角にも状況の把握をする為に辺りを見渡してみる。周りには様々な衣装を身に纏った人間が沢山いた。
そしてその中でも一際偉そうな雰囲気を醸し出している前方の二人組がこちらの事をジッと見ていた。
…………。
(え、あぁ俺に聞いてるのか。どうしよう、とりあえず本名でいいのか?)
――――いや待て!早まるな俺!
こんなわけのわからない状況で素直に本名を口にしてしまっていいのだろうか。
保険の意味も兼ねてここは、俺が中学生の頃に考えに考え抜いた末にようやく決まったあの伝説のハンドルネームを使う機会なのでは無いか。
かつて一世を風靡していたあのオンラインゲームの中級界隈辺りで名を轟かせていたあの名前を。
俺の名字は永久、読み方はナガヒサだがこの漢字はエイキュウとも読める。
永久とか永遠とかの細かい違いはよくわからなかったが、これらを英語で言うとフォーエバーとかエターナルだった筈。
だが流石に「フォーエバーレイア」や「エターナルレイア」は安直過ぎるしダサすぎる。
(……いや半端なくダサいマジで)
だから若干安易ではあったがエターナルの方の最初と最後の文字を抜粋してみる。
すると――――エル・レイア
(あらかっこいい……)
いやこれをかっこいいと思うかダサいと思うかは個人差があるだろうが少なくとも当時の俺はかっこいいと思ったのだ。
それに誰に聞いたとしても間違いなく最初の二つよりかはかっこいいと言ってくれる筈。
(だからここはその伝説の名前の方で名乗るべきなんじゃないのか?)
慎重な日本人の性ゆえか、それとも単純に本名を教えるのがちょっと恐かっただけなのか、それはレイアのみぞ知る事だった。
(――――でもまぁそんな事よりも……)
くだらない事を考えている間に少しずつ冷静になってきた頭で状況整理をしていった結果。
とりあえず―――この場所は異世界である可能性が高かった。
何故そういった結論に至ったか、まず当たり前だが勇者なんて職業は日本には無い。
言葉が通じているという事から、ここは日本の筈なのだが周りにいる者達の顔は明らかに日本人のソレでは無かった。
それにそもそも日本にこんな王宮の様な建物は無かった筈だ。
なにかしらのドッキリの可能性も少し考えてみたが―――先程の光みたいに一瞬で人を移動させる様な技術が元の世界にあった記憶もない。
そして更に言うなら―――いや、これこそが一番の理由と言っても過言では無いのだが。
これまでのニート期間、有り余る時間を有意義に使う為にずっと読み耽っていたネット小説やライトノベル、その中で今の自分と似たような状況をいくつも見た事があったからだ。
「おいっ!聞いてるのかお前だぞ!」
「な、永久玲亜です」
長い間沈黙を貫き中々問いに答えないこちらの様子に業を煮やしたのか、二人組のローブの方から怒号が飛んできた。
そして突然飛んできた怒号に思わず本名の方を口走ってしまう。まさか学生生活を終えてまで人に怒鳴られるなんて思ってもみなかった為か思わず本当の名前の方を口走ってしまった。
別に恐かったわけじゃない。驚いただけだ。
――――今更だが俺の名前は永久玲亜。さっきの色々と酷かった妄想の中で、「いってきまーす」の他に歳と名前だけは本当だったのだ。
名前を名乗る度に「へー、凄い!かっこいい名前だね!」なんて言われていた個人的にはとても気に入っている名前だ。ありがとう母さん。
「ナガヒサレイア?――変な名だな。突然の事で何が何だかわからん、といった顔をしているが安心しろ一通りの事は説明してやる。
だがいちいち口を挟まれるのも煩わしい。よってわからぬ事があった場合は最後にまとめて聞く様に」
……こちらの世界ではあまりいい名では無いみたいです母さん。
(ていうかそもそもの話なんだが、なんでこいつはこんなに高圧的なんだ?馬鹿らしいがこいつらの話を鵜呑みにするなら俺って勇者なんじゃないのか?
もしかしてこの世界って勇者偉くないの?普通、勇者様とか呼ばれたりするもんなんじゃないのか?)
周りを見渡すが誰も奴を止めたりこちらを庇ったりする様子は無い。
その様子からも今のこの扱いは目の前の男の蛮行によるモノでは無いのだろう。
混乱する感情を強制的に押さえつけ、今自分が置かれている状況を整理した所1つのワードが浮き上がってくる。
――――これってまさか……
いわゆる「外れ転移」というヤツでは?
目の前の勇者が己の境遇に軽く絶望している事などまるで気付いていないのか、それともそもそもこちらの心情など興味も無いのか、ローブ姿の男は語り出す。
「この世界には魔族や魔物というのがいる、そしてそれらを纏めている魔王という魔の王がいるのだ。奴等は度々我がレスティア王国に攻め入り――」
要約するとこのままじゃこの国が滅んじゃうよ。
でも魔王に勝てるやつなんてこの国にいないよ。
名誉ある勇者にしてやったんだからお前が倒せ。
という事みたいだ。
「ちなみに断るとどうなるんですか?」
「別に断るのは自由だが魔王を倒すまで一生元の世界には戻れぬぞ?それに勇者を呼ぶのもタダではない、死ぬまでこの城の中で雑用でもするか?」
(いや酷過ぎる……。勝手に呼んだ癖に自分たちの意にそぐわなかったら死ぬまで雑用って……)
これは18歳になったにも関わらずニートして親や周りに迷惑をかけていた業の深さ故の試練ですか神様。
控えめに言ってベリーハード転移だった。
俺はかつて元の世界で読み耽っていたファンタジー小説達の内容を記憶の中から必死にかき集めてみる。
たしか魔王を倒すと帰る方法がわかるとかなんとか、異世界に召喚された他のみんなもそんな感じの事を言われていた気がする。
(ネット小説とか大体途中で切るか終わってなかったやつが大半だから最後どうなったのかとか全然わかんないんだよな。1個ぐらいちゃんと最後まで見とけばよかった……)
「じゃあとりあえず魔王とやらを倒せば元の世界に帰れるんですね?ちなみに……自慢じゃないけど俺とか全然強くないと思うんですけど――――そんな俺に魔王とか倒せるもんなんですか?」
「そういう事だ。―――そしてその点は大丈夫な筈だ。勇者は召喚された時点でも既に他の有象無象よりも様々な部分が強化されている筈だし、更に成長速度やステータスの上昇の幅も周りの比では無い筈だ」
ローブの男の話は筈ばっかだった。
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