単純な目標
彼はこの感覚から決して逃れることができない。それが何なのか、これまでに何度も名前をつけようとしてきたが、いまだに明確なタイトルや理由を与えることができない。唯一それが途切れたと感じたのは、あの日、海辺でのことだった。
特別なことがあったわけではない。錆びた手すり、風化した砂、背景で時折聞こえる発電所の低い音。何度も訪れた場所だったが、その時は何かが違った。空気は重たく、日差しはより厳しかった。
そこで彼はあの少女を見た。その光景を思い出しながら歩く彼の頭には、いまだにその場面が再生されている。なぜ彼女だけが単調さを打ち破る存在になったのだろうか。彼女は派手でもなく、注目を引くような特徴があったわけでもない。ただ、ほんのわずかな時間しか彼女を見ることもできなかったし、話すことさえできなかった。それでも…
…それでも、彼にはわからない。ただそれだけで十分だった。長い間抱えていた漠然とした感情に、初めて明確で単純な目標が生まれた。ただ彼女に話しかける勇気を振り絞る機会を得ること――彼女の名前を聞くこと。
たぶんそれが理由なのだろう。今日、待ち望んでいたはずの新学期初日が、これほどまでに物足りなく感じるのは。ひょっとすると、彼女も同じ学校に通っているのではないかという思いが、彼の良心よりも優先されているのかもしれない。
もし彼女についてもっと知っていたら、彼女を見つけることができるのに…
しかし、それを考える時間もないまま彼は教室に到着する。予想通り、教室はほとんど空いている。窓から差し込む太陽の光が木製の机に映り、クラスのあちこちに数人の生徒が座っているだけだ。おそらく彼と同じように、授業が始まるのをただ待ちながら、一日が過ぎるのを待っているのだろう。
教室の前には、先生が生徒たちが到着し自己紹介をするのを待っている。そして...当然のごとく、彼が予想した通り、今年も同じ先生だった。
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