行く理由

 3人は学校の校舎に向かって歩きながら、いつもの調子で会話を楽しんでいた。涼真はお気に入りのアニメについて熱弁をふるい、聡介はどこかで息切れし、薫はただ巻き込まれないように気をつけている。


 校舎の入り口に近づくと、話題を探し続ける涼真が立て看板を指差して言った。

「おい、これ見てみろよ。町の人が主催する放課後の焚火祭りだってさ。」


 薫はその看板に目を向け、大きく書かれた『新年を祝おう!今夜は焚火祭り』という文字を読む。「当たり前だろ。毎年やってるだろ。町の伝統か何かだよ。お前、知らなかったのか?」


 涼真はわざとらしく怒った顔をして聡介に助けを求めるが、何の反応も得られない。「俺のせいじゃないぞ!もっと大事なことを考えてたんだよ。」


「次にどのアニメの嫁に小遣いをつぎ込むかってことは、大事なことに入らねえよ。」


「黙れ、薫!あれはフィギュアって言うんだよ!それに投資なんだぞ!」


 少し後ろを歩いていた聡介がポスターを読み、食べ物のことに目を留める。「おお…たこ焼き…これ、行くよな?」


「さすが聡介、食い物のことしか考えねえのか。でも今年はパスするよ。勉強とかいろいろあるし、な。」薫はもう一度看板に目をやる。その中でも、クラブ活動に参加する良い機会だという部分が目に留まる。暇つぶしにはちょうどいいかもしれない…。


「勉強って何のだよ、オタクが。新学期が始まったばっかりだぞ!それに、これなら宿題をサボるいい言い訳になるじゃん~」


 実際のところ、勉強なんてしたいわけじゃない。でも、祭りに行くのは面倒なんだ。人混み、うるさいおしゃべり、知らない顔ばかりがたくさん…。楽しめるかもしれないけど、たまには家にいたいって思うこともある。


 涼真はすぐに泣き真似をしてみせる。「薫くん、頼むから一緒に来てくれよ!お前がいないと、また聡介と二人っきりになっちまう!薫…薫ぅぅぅ!」


「うるさいぃ、このペスタサウルスレックス!」また涼真の頭を軽く叩いた薫は、仕方なさそうにため息をつき、髪をかきむしった。「はあ…わかったよ、授業中に考えてみる。でも行くとしても、お前のためじゃなくて聡介のためだからな!かわいそうな聡介、こんなアホと二人きりだなんて耐えられねえよ…」


「お前って本当に冷たいよな、薫…?」

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