第4話 霊能力者SIDE 力が及ばない場所。
私、細川道千神(ほそかわ みちか)は霊能者だ。
母親は昭和の頃、テレビにも出ていた有名霊能者 細川逢子。
父親は霊感住職で有名な徳田無策。
その二人の間に娘として生まれた私は当然霊能者として一流。
母や父に鍛えられて20年、45歳の霊能者。
母や父が他界した今、私を超える霊能者は日本には居ない
そう言える程に……私は成長した。
そんな母や父が恐れた怪異は幾つかある。
犬亡村。
此処は、我が母逢子が恐れた場所。
テレビの特番で同行を頼まれた母が、そのあまりの悍ましさから『入ったら最後、二度と戻って来れない』そう言い同行を断った村。
呪いの神木。
幹線道路を引く際に木を切り倒そうとしたが、その業者が次々と不幸に見舞われ工事が中止になった。
その為、大きな道路の真ん中に何故か邪魔な大きな木が立っている。
此処は父無策がお祓いを頼まれたが、やろうとした瞬間から、3週間原因不明の熱で寝込んだ。
世の中には霊能者でも手を出してはいけない。
そんな場所が幾つもある。
そんな中でも尤も恐ろしいと言われる場所が煉獄寺だ。
あの場所は母も父も尤も恐れた場所だ。
「あそこは無理よ……1体でも恐ろしい霊が何十と居るわ……あそここそがこの世の地獄だわ、良い道千神、貴方には才能がある。私以上の霊能者に必ずなれるわ……だけど、絶対にあそこにには近づいちゃ駄目だからね」
あの、自信家の母がそう言う。
いつも冷静で仏道の修行を積んだ父が……
「あそこは絶対に祓えない……もしあそこの霊に祟られたらもう終わりだ。いかな高僧でも霊能者でも祓えない」
そう言っていた。
だが、今の私は母や父を超えた。
だからこそ感じてみたい。
誰もが祓えない。
そう言われた煉獄寺を……
◆◆◆
橋立駅から歩いていく。
商店街がありなかなか開けた場所。
こんな場所に呪われた墓所があると言うの……
此処は、霊能力の弱い者にはあまり影響がない。
強い者程牙を剥いてくる……そう聞いた。
煉獄寺に近づくにつれ体が重くなる。
このプレッシャーは何……
まるで石でも背負わされたように体が重い。
『行くな』
そう、私に誰かが言ってくる。
だが、煉獄寺は墓所。
中に入らなければ大丈夫の筈。
それに都心部にある墓所だから、逃げ出すのは簡単だわ。
小さい頃から鍛え上げた私の霊能力が耐えられない筈はない。
本当に危なくなったら逃げれば良いのよ。
そう言い聞かせ……お寺の前まできた。
お寺は古びたお寺じゃない。
駅の近くという事もあり鉄筋コンクリートで作られた3階建てのお寺。
見方によってはホテルみたいに見える近代的な建物。
入り口に……観音様がある。
あれが半分結界になっているのね。
名所にもなっているから、お寺に断らなくても入れるのはいいわ。
確かに気が重く感じる。
それなりのプレッシャーはあるし、不味い物を感じるけど……私なら大丈夫……その確信があった。
だから、そのまま片手に数珠をかけ中に入っていった。
「ハァハァ、確かに凄い……これは今の私じゃ祓えない」
どれ程の霊がいるのか解らない。
だが、祓えないだけでこの程度なら私をどうこう出来ない。
大丈夫……
祀られている偉人や武士のお墓がある。
これが、体のみが祀られているという噂のお墓ね。
あらかじめ用意してきたお線香をあげ花を捧げた。
霊に敬意を表する。
これも母や父から学んだ方法。
祓うにしても必ず霊を敬う。
だからこうする。
後ろに誰かの気配を感じた気がする。
『私の首はどこぉ~ どこなの~』
『我が処刑されるなんて……恨んでやる……恨んでやるぞぉ~』
まずい……霊に囲まれている。
この場に居る霊は……100を超えるかも知れない。
金縛りにあい体が動かない。
まずいわ……
私は観音経を頭の中で唱えた。
だけど、一向に体が動かない。
なぜ、何故……お経が効かない......
お線香もあげた、花も手向けた。
この状況で何故……此処まで酷い事になるの......
1人、2人と更に沢山の霊が見え始めた。
昼間だと言うのに辺りが暗くなったような錯覚を覚える。
私の目に見える霊は、どの霊も悍ましく強い霊だ。
ハァハァハァ体が動かないわ。
頭の中で幾らお経を唱えても現況は何も変わらない。
霊が増えていくなか……解ってしまった。
ここに居る霊には首が無い。
首が無いから、鼻も耳も無い。
耳が無いからお経が聞こえない。
これじゃどんなお経も効かない筈だ。
鼻が無いし、目も無いからお線香や花の供養は通じない。
『駄目だ……ここの霊には何も出来ない』
夜でも無く只の昼間なのに……私は恐怖で蹲り動く事が出来なかった。
◆◆◆
「あはははははっ、首が首が無い、あははははっ……ああっ、ああっ?」
此処は何処?
此処は……病院?
「目を覚まされて良かった」
「此処はいったい」
「貴方、橋立駅近くで倒れていたんですよ! 此処は橋立病院です。私は医師の緑川です。通りかかりの人が見つけて救急車で運ばれてきたんです」
「そうですか……」
どうにか逃げ出す事は出来たんだ……
いや、見逃されたのか……
だけど、あの霊、お経も何も通じない。
きっとあの霊たちは、誰も祓う事は出来ない。
幾ら私が修行しても無駄だ……
霊能者でも近づいてはいけない場所がある。
それが良く解ったわ。
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