第2話 見えない子
「ただいまぁ~」
夕方6時、家に帰ってきたわ。
「どうだい陽子お客様の方は?」
私のお父さん、今泉保が話しかけてきた。
丸眼鏡の冴えない感じの中年、うん社長の威厳は余り無いわね。
「3客案内して1組は予約したけど……多分買わないよ」
「そうか……やっぱりあそこじゃ無理か?」
「それは私には解らないわよぉ~ お父さんが判断して。 だけど、立地は良いから『そういう人』になら絶対に売れるんじゃないの? ほら、私には凄く良い墓所に思えるわ」
「そうか…まぁ小清水住職にも頼むと泣きつかれているから、もう暫く頑張るかな」
「そうね」
良いお客さんが来てくれると良いなぁ。
◆◆◆
あのお寺、煉獄寺の墓所が売れない原因は大きく分けて3つあるの。
煉獄寺には沢山の有名な武将や偉人が眠っていて有名なの。
それは良い事なのだけど……実は眠っているのは体だけなのよ。
驚くかも知れないけど、本当の事なのよ。
別名が、処刑寺。
簡単に言うと、昔の処刑方法で『打ち首』って言うのがあるよね。
跳ねられた首は丁重に地元の菩提寺に持ち帰り葬られるじゃない。
それじゃ……体はどうなるのかしら?
地元のお寺に葬られるわけね。
処刑場の近くだったこの煉獄寺には沢山の偉人の体のみが祀られているのよ。
その為、歴史好きな人は京都や偉人のお墓は遠いからとここ煉獄寺に手を合わせにくるの。
だけど、その一方で『処刑寺』としても地元で知られているから、知っている人は墓所を購入しないわけね。
2つ目は、昭和の頃凄惨な事件があったのよ。
『処刑寺』として有名だからか知らないけど、幼女が殺されていて、この墓所に胴体が転がっていたのよ。
犯人は捕まり逮捕されたのだけど、ホラー系のオタクで、このお寺の由来にちなんで殺したらしいわ。
もう昔の事だから薄れてきてはいるんだけど、お年寄りでこの事を知っている人はこの場所は絶対に購入しないわね。
そして3つ目。
これが私に関わってくる事なんだけど……出るのよ。
なにが出るのかって?
幽霊がでるのよぉ~
首無しの武者とか、首無しの偉人とか……首無し幼女の幽霊とかね。
だから、霊感のある人は絶対にあそこの墓地は購入出来ないわけね。
煉獄寺は本当にヤバいらしくて、霊感が弱くても寒気を感じたりする位なのよね。
実際に小清水住職は問題無く温和なんだけど、奥さんはいつもカリカリしてよく檀家さんや石屋さん、まぁ私達にもあたり散らすのよね。
それにペットで飼っているチワワは良く唸るし何度も人に噛みついたと聞いたわぁ。
だけど、そんな奥さんも結婚する前、小清水ご住職と結婚してお寺に住む前は温和で優しい人だったみたい。
そんなお寺なのよ。
だから、都心部で駅から近いのになかなか墓地が売れないのよねぇ。
あんな安い金額で売り出したら、真面な墓所なら1か月掛からず完売するわよぉ。
周りのお寺の大体半額なんだからぁ。
だけど、実際は、有名な石材店 メモリアルアーチストの大村屋や 仏壇、墓石の長谷山ですら真面に売れなくて撤退した位なの。
そこで、うちの会社に相談が来て販売する事になったのよ。
都会の駅から歩いて5分のお寺の墓地が格安で販売されている。
霊感が無い人には最高の墓地だから時間を掛けて売って行けば売れる……そう思うわ。
ただ、一つ大きな問題があるのよぉ。
煉獄寺はかなり霊的にヤバい場所なので墓地で待機営業が出来ないのよ。
うちの社員は全員嫌がって駄目。
尤も3人しか居ないけど……
それで、待機営業してくれるパートを募集したんだけど……
『すいません、こんな所に居たくありません……か帰らせて下さい』
『すみません、急に吐き気とめまいが……』
こんな感じで全滅しちゃったの。
お父さんも長く居るのが辛いみたいで……私に白羽の矢がたったのね。
私は『見えない子』だから。
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