【カクヨム10短編参加作品】見えない子 ~霊能力零の女子高生~

石のやっさん

第1話 墓石屋の娘 今泉陽子

本当に面倒くさいわぁ~


折角の土日休みだと言うのに何で私は墓地にいるのよぉ~


うん、理由は解っているわよぉ~


それは私が江戸今泉8代目の娘だから。


江戸今泉8代目とはね、江戸時代から続く老舗の墓石店、今泉石材の8代目の店主の事を現すのよ。


私のお父さんがその江戸今泉の8代目。


今泉石材の社長ってわけね。


私は今泉陽子、今泉石材の社長 今泉保の一人娘。


黒髪の目は凄くきつそうだけど、スレンダーなそこそこの美少女の女子高生。


で一応通っている。


あくまで、そこそこって言われるんだけどねぇ。


私は折角のお休みなのに稼業のお手伝いで作業着を着て墓地に居る訳ね。


この墓地は東京都 橋立区の橋立駅から歩いて5分の立地が良い場所にある煉獄寺の墓苑、いわゆるお寺さんの墓地なの。


それで、いつもの様に新聞に広告チラシを入れて墓地墓石の販売会をお父さんの会社が行っているんだけど、ある理由で……その案内人として娘の私が駆り出されているわけね。


『こんな仕事女子高生にやらせるんじゃないわよね。』


と言いたいけど、親には逆らえずに此処に居るのよ。


私は折角の休みなのにずうっとお寺の墓地にいる訳なのよぉ~


アルバイト代は貰えるから良いんだけどさぁ~


お寺の境内に張ったテントに長机と長椅子を設置。


朝、墓所の掃除が終われば、やる事と言えば持ってきた麦茶を飲む位。


マンガもスマホも一切禁止。


お寺の境内だから、だらけている姿をご住職やその家族、お参りに来る檀家さんには見せられないからね。


しっかり、椅子に座って真面目に見せないといけないのよ。


案外、何もしないで姿勢正して座っているのも辛いのよ......本当に。




本当に暇だしつまらないわね。


買わなくて良いわ。


冷やかしで良いからお客さん来ないかしらね。


「ふわぁ~あ」


思わずあくびが出ちゃうわね。


油断しちゃってたわね。


「あっ、いらっしゃいませ!」


優しそうな感じの老夫婦が入って来たわ。


「チラシを見て来たんですが、本当にこんなに安いんですか?」


「はい、0.36㎡(60cm×60cm)と小さい墓地、墓石のセットですがコミコミ68万円はこの地域じゃお安い方だと思います! ただ、これは標準的な石を使った価格で黒御影など使うと割り増しになりますわ」


「それにしても安いよ! どんな場所か見せて貰えますか?」


「そうね……」


旦那さんと違って奥さんは余り気乗りしないみたいね。


だけど、そこは仕事。


「勿論です! 今泉石材の今泉陽子と申します! それでは案内しますので宜しくお願い致します」


私は元気よく笑顔で名刺を渡しお客様を墓所へお連れした。


◆◆◆


墓所の奥、新しく分譲している20区画程の場所に案内した。


「へぇ~凄く日当たりも良いね! こんな良い場所でこの金額なんだ!」


「……そうね」


「先日作った区画なので今なら好きな場所が選び放題です! もし良かったら仮予約していきませんか? 別にお金とか要りませんし、一生の買い物ですから、じっくり家族で検討されてみては如何でしょうか?」


墓石の購入は家族で相談する必要があるの。


だから、無理して購入させないで、お寺の墓地や霊園の販売は、土地を押さえる仮予約をするわけね。


期日までに購入するかどうか判断して貰い、購入希望の場合はお寺のご住職に面談して貰って合意してから初めて墓石の契約の話になるのよ。


「そうだな、それじゃその角から2番目の区画を予約して行こうかな?母さんはどうだい?」


「そうね……あくまで仮予約よね……それなら」


「ありがとうございます! それなら此方の用紙に記入お願いします」


老夫婦二人は記入してくれたけど……あの奥さんの様子、うん、間違い無く買わないわね。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る