第2話__ルカちゃんと招待状
部屋のドアが開いた。
「あおちゃん、郵便届いてるよ。」
お兄ちゃんの暁月 魁斗(あかつき かいと)だった。
「ありがとー、そこ置いといて。」
学習机の方を指さしながら、視線はスマホに注いだままだった。
学校で人気らしいスマホゲームを友達に誘われてさっきから通話を繋いでやっている。
けれど、びっくりするほど刺さらない。
全くもって面白くない。
キャラクターデザインも好きな感じじゃない。
そもそも普段ソシャゲをする事はあまりない。
できるならすぐにでもやめてしまいたい。
だけど、今やめたら友達はきっと困るのだろう。
有名ブイチューバーとのコラボレート中のこのソシャゲ。その有名ブイチューバーが友達の推しでなければよかったものの、そうではないから言い出しづらい。
しかもある条件をクリアすると、限定缶バッジをもらえるのだという。サイン入りのレアバージョンもあるのだと言っていたので、それが友達にとって価値のあるものだということは解る。そこまでは理解できた。
問題はそこじゃない。
そのソシャゲをプレイしてすぐに気づいた。公式の提示する条件の難易度が初心者には高すぎるのだ。
「ねぇ、この条件難しすぎん?」
「ねーーそれ思った。」
友達も普段あまりソシャゲをする事タイプではない。週何回か音ゲーをしているくらいなので、今やっているようなタイプのソシャゲは得意でないのだろう。
「あとさー。このゲーム人気は嘘でしょw」
「んにゃ、バレた?あおちゃん鋭いーww」
「てかその缶バッジ絶対後で転売されてるよw転売ヤーのとこで買ったら?」
「いや、それだけはちょっと…。あるとしてもそれは最終手段ね、!!」
若干食い気味に返答が返ってきた。最終手段とか言われても、このゲーム完全初心者のあおにはこの条件をクリアするのは難しい。
「これ期限いつまでなん?」
「来週!」
「え、一旦練習しよ??」
急に返答が無くなった。向こうでガチャガチャと何かが崩れていく音がした。それとほぼ同時に悲鳴が聞こえてきた。
「何?どしたん、大丈夫ー?」
少し間があって。
「ごめんあおちゃん!推し棚が崩れたからまた今度お願い!!」
「え、まじ?、あんたんちだけ地震起こった?」
「えー、そうかも。まじそれどころじゃないわ、推しのアクスタにヒビいってないかなー。ひぇん。」
そこまで言って切られた。
「……ひぇん、。」
とりあえずゲームをログアウトしてベッドに放り投げる。
「いや、公式の条件キツすぎるて!」
あおもベッドにダイブしてみる。昨日洗濯したばかりだから柔軟剤のいい匂いがする。
ふと、お兄ちゃんが学習机に置いていった郵便が目に入った。手紙なんて珍しいと思いながら、体を起こして封筒をみる。宛名には『暁月 碧望』(あかつき あおも)の文字。その右下には月とユリがシンボルの家紋がスタンプされていた。この家紋を見るのはすごく久しぶりな感じがする。アストラクテム王国の王宮からだった。封を切ってみると、中身はアフタヌーンティーの招待状と使いきりの片道切符だった。
「あおが、行っても良いのかな、?」
おばあちゃんが王家の家系の人だったから、小学校低学年くらいの時はよくおばあちゃんについて王国に遊びに行っていた。おばあちゃんが亡くなってからは遊びに行くこともすっかり無くなっていたけれど。
そういえば。王宮に遊びに行くと、よくルカちゃんがお茶会ごっこをしたがったっけ。歳が近いからすぐに仲良くなれた。
ルカちゃんというのは、王家の跡継ぎ候補の女の子だ。ルカちゃんは社交界のための練習だと言っていたけれど、そればかりでは無いことくらいあおにもわかった。玩具とはいえ、子供にとってはそれなりに重みのある材質を使って作られていた苺柄のティーセット。
それも子供チックに可愛らしい苺柄じゃない、ちょっと背伸びしたデザインのもの。
そのティーセットを使っているときだけは、大人の仲間入りをしたみたいな気分がして、嬉しかったんだと思う。必ずと言っていいくらいお茶会ごっこをした。
きらきらのシールと羽根ペンででかでかと描かれた苺柄のティーセットの招待状を貰うところから始まるあのごっこ遊び。
届いた招待状には、きらきらシールもでかでかと描かれた苺柄のティーセットも無かったけれど。
その代わりなのだろうか。封筒の封をしたシーリングワックスはパールラメが入っているものを使ったらしく、控えめにきらきらしていた。
多分、招待状を出してくれたのはルカちゃんなんだろう。アフタヌーンティーは来週だ。久しぶりにあの子に会えるかもしれないと思うと急に楽しみで、待ち遠しくなった。
なんとなく時計を見ると18時を過ぎたところだ。
今日はお姉ちゃんの暁月 ふわり(あかつき ふわり)が帰って来ない。夕方高校から帰ってきた後、王宮から連絡があったらしい。すぐに家を飛び出して行った。
高校生ながら、アストラクテム王国の王宮で占星術師として雇われているお姉ちゃんは、月2くらいのペースですごく忙しそうにしている。
幼い頃からお姉ちゃんが占星術師として活動していることについて、何も聞いてはならないということは幼少の頃から言われていた。両親からと、特におばあちゃんからはキツく言われていた。
なぜ聞いてはならなかったか、なんて知らない。
なぜそんなにも、あおにだけ強く言うのかということも。
いくらお兄ちゃんが隣にいても、お兄ちゃんにはそんなに強く言わなかった。それが当時のあおには不思議だった。今思い返せば多分、あおだけが幼かったからなんだろうけど。
お兄ちゃんとは4歳差だから、同じこと言われても、1回言われたことに対しての理解度が違いすぎたせいだと勝手に思っている。ちなみに、その時の両親とおばあちゃんが怖すぎて未だにお姉ちゃんのことを聞けないままでいる。
両親たちの何がそんなに怖かったのかといえば、それは顔じゃない。目だ。あの時の目は、まだ幼かったあおにもわかるくらい、マジな目をしていた。まるで、なにかに騙されているかのような。そんな感覚だったのを覚えている。
そろそろお腹が空いてきた。お兄ちゃんは部屋で何をしているだろうか。ちらっとお兄ちゃんの部屋を覗きに行ってみる。
恐る恐るドアを開けると、お兄ちゃんはクッションを抱きしめながら、誰かと通話しているところだった。すごく楽しそうに、幸せそうに。
邪魔しては悪いと、一旦部屋に戻った。
お兄ちゃんは普段アストラクテム王国の王宮に住み込みで見習いパティシエとして働いている。だから、時々にしか家に帰って来ない。アストラクテム王国でも電話くらいできるだろうとお兄ちゃんに聞いたことがある。
そのくらいと思っていたのだが、どうも圏外になってしまうらしく、通話はできないようだった。
お兄ちゃんが王宮に住み込みで働き始めたとき。家にお兄ちゃんがいないのが寂しくて、せめて通話したいと思って聞いたのだけれど。
スマホすらまともに使えない環境下、日々頑張って働いていると思うと、電話中のお兄ちゃんに声をかける気にはなれなかった。
いつもはこの家にお姉ちゃんと2人暮らしだ。両親は長期出張と転勤が多い人で、一緒には暮らしていなかった。おばあちゃんが亡くなった最初こそ一緒に住んでいたが、すぐに別居状態になってしまった。今日は久々にお兄ちゃんが帰ってきたから、夕ご飯はちょっと豪華に作ろうかと思っている。
キッチンに行き、冷蔵庫を開けてみると見事に空っぽだった。昨日のご飯当番はお姉ちゃんだったはずだ。中身が無くなっていたなら言ってくれたら良かったのに。
「えぇー。どうしよ。」
これでは何も作れない。今からスーパーに行って買ってくることもできなくは無い。でも、今から買ってくるとなると、夕ご飯ができるのが20時を過ぎてしまう。明日も学校だし、お兄ちゃんは夜中の3時に帰る予定らしい。そんなに夕ご飯の時間を遅くするわけにもいかない。いっその事、今日は夕ご飯を作るのを諦めて、外食してしまおうか。
「あおちゃんー、夕ご飯どうするー?」
振り返るといつの間にかお兄ちゃんが立っていた。
「冷蔵庫に何も無いからさ、外食にしようかなって。」
「あぁ、たまにはいいかもね。じゃあもう行かないとね、混む時間だ。」
そう言ってお兄ちゃんは部屋にカバンを取りに行った。あおも急いで出かける準備をしに部屋に戻った。と言っても、リップを塗り直して財布を取りに行っただけなんだけど。
外に出ると、既にお兄ちゃんが待っていた。18時を過ぎていてもまだ辺りは明るく、向こうの空には白く頼りない月が寂しそうに浮かんでいた。さすがにもう6月だからか、お日様が傾いてもそう簡単には気温が下がらなくなったらしい。じっとりとして暑い。
「どこ行く?てか、あおちゃんなに食べたい?」
「うーん、と。ラーメンか、ピザ。」
「振り幅やば。じゃあ、いつものピザ屋さんでいっか。」
「ね、期間限定メニュー何か予想しながら行こ?」
一瞬なんの事かわからないという顔をされた。でもすぐに記憶が彼方から走ってきたようで、思い出してくれた。
「あー、あったねそんなやつ。えー、じゃあ俺は6月だからさくらんぼ。」
一概に否定はできない。あのピザ屋さんはたまに可笑しな期間限定メニューを作るから、ありそうと言えばありそうなのだ。
「うーわ。さくらんぼ出してくるのずるいでしょ。」
「そんなことない。」
「えー、なんだろ。やっぱ6月系だとは思うんだよね。えーとね、紫陽花!」
「まさかの?まさかの花?」
「紫陽花って食べれるらしいよー。」
お兄ちゃんの方は見ずに言った。もちろん紫陽花が食べられるなんて冗談だ。しかし、隣ではものすごいオーバーリアクションというか、真面目に驚いているお兄ちゃんがいる。
「…紫陽花は有毒植物なんだが、まさか食べてみたことあるとか言わないよな?」
「いや、冗談だよ!」
「うわ、よくなー。」
「でもさ、ピンク系の紫陽花ってなんか美味しそうに見えない?なんか、ちっちゃい花がまとまってて可愛いし。」
心底理解できないって感じらしい。怪訝な表情で見つめられた。
「んーと、じゃあねぇ。6月っぽいのでしょー?6月…。えっとぉ……6月ってなんかあったっけ?梅?」
「そうだね、梅の作業も今くらいからだし。あと、冷やし中華を始める店が多いかな。」
「あぁ、そっか。じゃあ期間限定メニュー予想は冷やし中華で。」
「え?それはピザの具材が冷やし中華ってこと?」
「そそ。」
「炭水化物オン炭水化物だ。えぐ。」
「ばくだんだねえ。」
歩行者用信号が青から赤にちょうど変わった。点滅信号で渡るか渡らないか。お兄ちゃんが絶対に渡らない派だからあおも何となくいつも渡らない。友達が渡る派だったら一緒に渡るけど。
「きのこの山食べたいなぁ。」
「急だね。」
「こうゆうのって急に食べたくなんない?」
「あんまりないな。てか、あおちゃんさ、たけのこ派って言ってなかった?」
「最近浮気してるんだよね。」
「悪いやつだ。」
「お兄ちゃん一途?」
「……。」
覗き込むようにお兄ちゃんの方を見ると、そっぽ向かれた。
「なんでそこ黙るん?」
「いや。なんか、なんとなく?」
お兄ちゃんは嘘をつくとき大抵首の後ろを触る。今もそう。一途じゃないらしい。
「あんたも悪いやつだ。」
肩をぽんぽんしてみる。実際にはあおの身長が全然足りなくて、二の腕だった。
「あれ、慰められてる?」
「そんなことないよ。」
「ぽんぽんぺいん。」
「ふぁ?」
「ごめん、なんでもない。」
時々真顔で変な事言う。意味を考えたら負けくらいのレベルのこともある。ぽんぽんぺいんはその仲間だ。
目的のお店に近づいてきた。まだまだ活気ある風に見せたくてつけたらしいネオンライトが煌々とした商店街を抜けて、右に曲がるとアイビーのツタが自由気ままに伸び放題伸びたレンガ造りの建物が見えてきた。
「この前来た時よりアイビーに埋め尽くされた感じするね?」
「ね、もはや看板が見えないもん。」
「あ、期間限定メニュー。」
店の入口に置いてあったブラックボードの内容は期間限定メニュー。梅だった。しかも青梅とかじゃなくて、梅干し。
「梅かぁ。ちょっと惜しかったね。」
「まあまあ、予想はでてたからね。じゃあ俺の勝ちってことで。」
「いやいや、あおだよ梅って言ったの!」
「そうだっけ?」
「そうですー。」
ドアを開けると、取り付けられたベルがカランカランと軽やかに店内に鳴り響く。オレンジ色の光にに包まれたレンガ造りの店内。木目調の丸テーブルに、背もたれの付いたふかふかな椅子。店内はほぼほぼ満席で、奥のキッキンでは料理人さんがパフォーマンスを兼ねてピザ生地をくるくるさせていた。
「いらっしゃいませー!」
向こうで注文を取り終えた店員さんが、スマホをポケットにしまいながら近づいてきた。
「ご来店ありがとうございます。お客様、奥のテーブル席にご案内いたします。」
案内されたのは、窓際の紫陽花が良く見える席だった。今年は青色が咲いたらしい。少しばかり窓が空いていて、お世辞にも爽やかとは言えない外のぬるい空気が店内にも漂ってきていた。
「窓閉めたくない?」
「確かに。」
さっき案内してくれたお姉さんがキッチンからお水を持ってきてくれた。
「いらっしゃいませ。こちらレモン水でございます。ご注文お決まりになりましたら、そちらのベルでお知らせください。ごゆっくりどうぞ。」
一礼して去って行こうとする店員さんに、一瞬だけ焦った。
「あの、窓閉めてもいいですか?」
「えぇ、どうぞ。」
お姉さんがにこやかにキッチンへ戻っていく。その横でお兄ちゃんは頑張って窓を閉めていた。
「閉まんないの?」
「いや、立て付けが悪い。んむッ。」
結構頑張って窓を閉めているみたいだった。そんなに新しいお店でもないから、立て付け悪いだけが理由ではなさそうだ。聞くところによるとお父さんが子供の頃からあるらしいから、そろそろリフォームの時期なのかもしれない。
「さてと、何食べる?とりま期間限定メニューは頼むとして。あとは、ハーフサイズ3枚くらい?」
お兄ちゃんがメニューを広げながら聞いてきた。
「待って、これめっちゃ美味しそうなんだけどハーフサイズない。」
あおが指さしたのは、トマトソースのベースににアボカドとモッツァレラチーズ、生ハムがトッピングされたカプレーゼみたいなピザ。
「あー、じゃあそれとハーフサイズ1枚にしよっか?」
「うん!そうする!お兄ちゃん選んでいいよ。」
「そ?じゃあカプリチョーザにしよ。あおちゃんベル押して。」
来てくれた店員さんに注文する。その店員さんを、お兄ちゃんはどこかで見たことある気な雰囲気だった。見たところ彼女は学生バイトのようだったから、恐らくは中学の時の同級生か何かだろう。
「…あの子、どこで見たんだっけ?」
「知らないよ。同級生じゃないの?」
「どうだったかなぁ。ていうかさ、なんかお客さん増えた気がするの俺の気のせいか?」
そういえば、数年前にタウン情報誌で紹介されたと聞いたことがある。その紹介のされ方が『イケメンな料理人が作る☆本格イタリアンピザ』だった。顔が良いにフォーカスが当たってしまった料理人さん目当てに女性客が絶えない。
今も店内にいるのは女性客が目立つ。
「よりパフォーマンスに磨きがかかったような気もしないでもないような…。」
「そりゃ毎日あれじゃあね。」
あおが控えめに指を指した先。そこでは、料理人さんがいちばんよく見えるカウンターに常連さんらしき女性客達がそれぞれ熱い眼差しを送っている。
「あれ、魁斗?」
別のテーブルの食器を下げ、あおたちの横を通り過ぎた店員さんに突然お兄ちゃんが声を掛けられた。
びっくりして2人で顔を見合わせていたら、声を掛けてきた店員さんが中学の時のと言った。
「ん?…あ、市河(いちかわ)?」
「そう!!久しぶりだな!」
「うーわ、お前変わりすぎだろ!気づかないよ、金髪だし。」
「いやいや、そんなことないだろ。えーやば、逆に変わらな過ぎじゃね?」
「まぁ、市河と比べたら見た目の変化はそんなじゃない。」
「え、とりま髪染めてみたりしない?」
「職場そんな金髪とかダメだから。」
「え!?お前働いてるの?」
だんだん市河さんの方がヒートアップしてきたみたいだ。キッチンの方からさっき注文を取りに来てくれたお姉さんが市河さんをちらちら睨んでいる。
「てかさ、久しぶりに遊び行かん?俺明日ヒマだし。」
「大学生は気楽でいいな、俺は明日仕事なんだよ。」
「良いじゃん、サボっちゃえ!」
「怒られるわ馬鹿野郎。」
痺れを切らしたのかお姉さんがずんずんとこちらに向かってきた。腰に手を当てて、ぷくっと頬をふくらませて言った。
「真央(まお)くん!お皿洗い手伝ってよ!」
「わ、ごめんね綺名(きな)ちゃん!今行くよ。じゃあな、魁斗。」
駆け足気味にキッチンに戻っていく市河さん。お兄ちゃんは何だか複雑そうな表情をしていた。やっぱりお兄ちゃんも高校に、大学に行きたかったのだろう。おばあちゃん達によって、半ば強引に就職させられたようなものだから。
「あおちゃんは、高校行くつもりなんだよね?」
「うん。」
「そっかぁー。俺も行きたかったな、高校。」
多分、あおのこと陥れたいとか、妬んでいるとかで言っているわけではないようだった。本当にただ単純に、友達と一緒に高校に行きたかっただけなんだと思う。
レモン水をひとくち含んで、窓の外を見た。部活終わりで下校時間なのか、友達と並んで歩く高校生が多かった。
「お待たせいたしました、こちらご注文の商品でございます。」
運ばれてきたピザはどれも美味しそうだった。窯で焼きたてだから香りもいい。
「わ!美味しそう!♡」
「切るよ、4等分でいい?」
「うん!」
早速切り分けてもらって、まずは期間限定の梅ピザから手に取った。刻まれた梅肉がピザ全体にトッピングされていて、若干見える大葉はほとんどチーズの海にのまれている。熱々ほかほかすぎて手で持てなかった。フォークでピザを持ち上げる。とろけたチーズはどこまでも伸びていきそうなほどよく伸びた。あつあつのピザをはふっと頬張るのが好きだ。猫舌だけど、その一口だけは躊躇いなくいきたい。
「んー!美味しい!」
「良かったね。」
「梅、レギュラーいける。」
「あ、本当だ、めっちゃ美味しい。」
お兄ちゃんと一緒に食事するのは、なんだかとても久しぶりだった。誰かとの食事は幸せなもの。ひとりぼっちの日だってあるけど、同じものを食べても誰かと一緒に食べた方が美味しく感じる。そういうものだと信じていたい。
食べ終えて店を出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。星々が夜空を彩り、寂しそうに浮かんでいた月はそうではなくなったが、変わらず頼りないままだった。
***
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