第3話 陥落

 デレク隊は魔王の間と思われる巨大なホールに攻め入った。

 中には魔王正規軍の精鋭が盾を揃えて待ち構えていた、全員が装飾を施したアーマーに身を包んでいる。

 「無駄なことを」

 デレクはニヤリと笑うと機銃隊を前進させる。

 「掃射しろ!!」

 ブオォォォオオッ MG81機関銃は毎秒25発の7.92mmモーゼル弾を初速750m/秒で打ち出す、その威力は短機関銃の比ではない。

 構えた盾とアーマーを軽く撃ち抜く、一掃射で盾隊は壊滅した。

 「無駄には撃つな、歩兵隊進め!」

 パパパパッ 短機関銃の軽い掃射音だけが場内に響く。

 「あっ!?」

 「なっ!?」

 突撃の怒号も悲鳴も許さない、無機質な破裂音と硝煙の煙がステンドグラスから差し込む光に棚引いた。

 中央奥の高台の玉座に魔王と呼ぶに相応しい風貌の角を持った男が座したまま銃弾に撃ち抜かれて頭を垂れている。

 最初のMG81の掃射が当たったのだろう、アーマーに複数の穴が開いている。

 即死だ。

 「撃ち方止めー!!」

 「あれが魔王か!?あっけないものだ」

 ゾロゾロと国軍が入ってくる。

 「なんと凄まじい、一瞬で全滅させるとは!」

 「これでは我らの仕事はありませんな」

 僅かに生きのある者も剣で止めを刺される。

 「この戦争は終わりだな、明日から俺たちは失業だ」

 「なにを申されますかデレク様、少しごゆっくりなさってください、酒でも女でも我々がご用意させていただきますので」

 「ヴォルフ大佐は、この城を我らの本部としたいようだ、掃除と改装を頼むことになるだろう」

 「それは良き考えだと思います、我々人族の領地も少々手狭になってきましたゆえ、魔族どもを根こそぎ叩き出して、街ごと頂くとしましょう」

 「もちろん税は英雄軍で徴収して結構です」

 「フッ、非民の能無しなど要らんぞ」

 「滅相もない、優秀な人材を選りすぐってございます」

 「移住者の選別と面通しはこちらも関わらせてもらう」

 「はい、承知いたしました」

 「必要なのは技術者と職人、それに若くて美しい女だ」

 「隊長―!すいません」

 玉座を調べていた兵士が叫んでいる。

 「何事だ、まだ生きているのか」

 「いえ、こいつ魔王ではないそうです」

 「なんだと本当か!?」

 国軍兵士たちも集まってくる。

 「本当です、魔王は女です、こいつは魔族将軍の一人です」

 「白い子供はどうした、魔王の子がいたはずだ」

 ホールの兵士に向かい問いかけるが、全員が首を横に振った。

 「逃げたか」

 デレクは短機関銃を前に吊りなおし、仲間に手を上げる。

 「もう一仕事残っていたようだ、魔王を追撃するぞ!」


 魔王イーヴァンたちは地下道を伝い脱出しようとしていた。

 階上から銃撃音が聞こえてくる。

 「くっ!」

 あの音と共に何人の命が散ったのか、身を切られるよりも辛い。

 (ごめんなさい、サラトス叔父さん)

 魔王イーヴァンは心の中で手を合わせた。

 自分の胸の中に抱いている娘は何も知らず穏やかに寝ている。

 イーヴァンと人族男子の間に生まれた子供、魔族であっても白い肌の娘。

 魔族の色を持たないが、頭には角が伸び始めている、禁忌の娘だと罵られた。

 そんな時にいつも庇ってくれたサラトス叔父さん、若くして継ぎたくもない玉座に据えられて一度は逃げ出した。

 彷徨う中で冒険者と恋に落ちて子を授かった。

 (この子だけは……)

 暗い通路に緊迫した靴音が遠ざかっていった。


 うんざりだった、前世界、そしてこの世界の戦争にも正義など在りはしない。

 無意味な殺戮があるだけだ。

 アラタは隊を離れて一人宛てもなく歩いていた、魔城の周囲は庭園化され、良く管理が行き届いている。

 「綺麗なところだ」

 花と緑と水、明るい光が射し清浄な空気に満たされている。

 魔族を象徴する暗さや陰湿は微塵もない。

 (こんな世界を創造できる者が邪悪であるはずがない)

 (転移した直後に人族から聞いた魔族による侵略話は嘘だな、彼等は善良だ)

 

 「俺はいったい何をしていたのだ……」


 疑いながらも魔族の何人かを撃ち殺したのは事実だ。

 「悪魔は俺たちだった……」


 石積みの向こうに見える魔城から銃声が聞こえている、虐殺は続いている。


 (上の連中は知っていたに違いない、知っていて侵略したのだ、何か狙いがあったのか)

 (皆殺しの報償はなんだ)

 (まあ、どうでもいいか、戦場で他人にケリをつけてもらうのは無理なようだ、後は自分でやるしかない)


 「自分でやったら、あいつには会えないな」

 暗い笑顔で笑った。


 暫く歩くと墓地に出た、王家の墓地だろう、墓標が大きい。

 「ここで死ぬのは場違いか、いやどうでもいいな」

 ポケットから煙草を取り出す、最後の一本を取っておいた。

 誰かの墓標に腰を降ろして火を付ける、深く吸い込んだ煙が血中にニコチンを溶かす。

 見上げた空は故郷と同じように青い。

 「アンナ、お前はそこにいるのか……」

 ホルスターからワルサーPPKを抜く。

 「今いくよ」

 冷たい銃口を額に当て、後は引き金を引けば、このクソな世界ともおさらばだ。


 ガタッ ガタタッ 墓石が動いた。

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