第4話 衝撃の事実!

兵士1「オラオラ!マリーウェザー嬢を出しな!」


「キャー!誰か助けてー!」


兵士2「ヒャッハー!誰も助けちゃくれね―んだよバァーカ」


母「マリーウェザー!やめてよこのロクデナシ!」


兵士1「メアリーもいたら出てきな!なぁに殺しゃしねーよ」


「イヤー!お父さんお母さん助けてっ」


父「娘を返せクソ野郎!」


兵士2「邪魔するんじゃねーよ!オラァ」


父「ぐぁっ!」


「やめてー!あなたぁ」「おとーさん!」


兵士3「あー、アッサムさん、母親も連行するそうですのでお母さんも来て下さい」


母「イヤー!あなた助けてぇ」


父「妻と娘をどうするつもりだ!」


兵士3「事情聴取っすよ、事件と関係なければお帰り頂けますんで?有力な証言があれば金一封?とか」


父「そんなの信じられるか!」


兵士3「別におっさんも付いて来て良いですけど、宿代や運賃は自腹でよろしくでぇーす」



街ではマリーウェザーとメアリーと名のつく少女の拉致事件が多発してる。

新しい領主は隣国から来た残虐な戦の鬼で、年若いマリーウェザーと名のつく少女を生贄にして聖女を目覚めさせようとしてる


まことしやかにそんな噂が流れていて、本当に館の裏に監禁していた


リタは(やべぇことになっただ!オラのせいけ?)ガクガク震えていた


「アブドゥル様…もしかして私が運命の相手を探せと言ったから探してるのですか?」


領内どころか他領にまで足を運んで拉致ってるなんて…頭イカれてる


「ええまあはい…そうです」


「世の無関係なマリーウェザー嬢ごめんなさい」


「仕方のないことです…」


「私も見に行ってよろしいかしら?せめてお詫びしたいの」


「必要ありません!貴女は外に出てはなりません」


「でも…私も見たいです」


「見つけたら会わせます」


「早く運命の相手が見つかるといいですね…」


「一刻も早く見つけ出します!」




現実逃避は図書室で…館の中とは言え1人で出歩くのを禁止されてるからリタとアニーと来ている


そしてリタが罪悪感から泣いて謝ってきた。今行われてる拉致事件の元凶は自分なのだと言う


リタ「奥様ごめんなさい!私がいけないのです!ふぇーん!どうしましょう!

まさかこんな事になるなんて!どうしたら良いのですか?旦那様は止まりません」


「どうもこうも…え?アブドゥル様に私が偽物だってバラしたの?」


リタ「うわぁーん!ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!」


「私達がまだ生きてるなんて…アブドゥル様は案外とても慈悲深いのね。聖女様を蘇らせるとかの噂はガセネタかしら?」


アニー「こうなったら私も白状します、今必死で探してるマリーウェザーお嬢様こそ偽物なのです」


「何の話し?」


リタ「だから、奥様はメアリーじゃないんですって!本当のマリーウェザーは奥様ですよぅ!」


「もうその設定はバレたのでしょ?」


アニー「奥様!私の話を聞いて下さい。たまたま偶然にも聖画に似た赤子が生まれたら、我が子も賢く育つようにとマリーウェザーって名前つけたくなりませんか?」


「なるかもね?赤ちゃんの時はみんな髪色が薄いから白っぽく見えたのかも?」


リタ「侍女長はエリザベス様の出産に立ち会ってます、もちろん乳母も!」


アニー「乳母は既に出産を終えていて生後8ヶ月になる赤子の髪は白とは程遠い、赤茶けていたそうです。瞳も曇り空のような薄いグレーです」


「誰の話し?乳母は2人いたって事??」


リタ「侍女長がエリザベス様の出産で見た赤子は白っぽい髪の青い瞳の子です!」


「つまり?何が言いたいの?」


アニー「幼い頃からの刷り込みってなかなか矯正されないのね…やはり本人に説明されないと分からないのかしら」


「それより聖女シリーズの本は他にないの?エジソン博士が書いた本にもちょっと載ってたけど、冷蔵庫作ったのって本当はマリーウェザー・コルチーノだって書いてあるわ。マリーウェザーはエジソン博士のパトロンだったのね凄いわ」


リタ「今はそれよりも旦那様を止めないと」

アニー「いえ、このまま旦那様に探してもらいましょう」


その時、ガチャッと図書室の扉が開いて褐色肌の若者が入って来た


「ちわーっす!資料返しに来ましたー……あれれぇ?もしかして奥方様ですか?うわっ!スッゲー!本物じゃん」


アニー「近寄るな無礼者め!ここは立ち入り禁止区域だ!資料は手前のテーブルに置いて出ていけ」


リタ「奥様隠れて!」


「えっ待って、誰が来たの?知り合い?」


「あーはじめましてぇ、自分はアブドゥル様の部下のカヤックって言います。そんな警戒しないで下さいよ、俺平民の出なんで派閥とか貴族とか関係ないですから、ヘーキヘーキ!」


アニーがペーパーナイフを差し向ける「動くな!これ以上近寄ると叩き切る!」


「アニー落ち着いてよ、どうせ本物が見つかれば私は市井に降りるんだし。平民なら街に詳しいのでしょ?話を聞かせて下さる?」


アニー「奥様いけません!奥様は本物です!」

リタ「奥様駄目ですよ!バレたら私達が旦那様に叱られます」


「もう最大の秘密はバレてるんだし、気にしなくていいんじゃない?あなたカヤックさんとおっしゃるの?お茶はいかが?街の様子を聞かせて下さいな」


「あー、じゃあお言葉に甘えて。俺、カヤックです。さん付けもいらないですよ奥様」


「では私のことは…今はまだ奥様でいいわ。リタ、アニー、お茶の用意をして?何なら自分でするから止めないで?」


アニー「奥様…もう!」

リタ「あわわ……まあいっか?カヤックさんは旦那様が連れてきた部下ですしね?奥様、私がやります!」


「大丈夫よ私が自分でやるわ、リタより美味しく入れれるし」


「奥様!私より上手に入れないで下さい!」


「お友達にお茶を淹れるのが夢だったの、いいでしょ?」


「俺、平民っスよ?奥様がお友達になったら駄目ですよ」


「あら、構わないわよ。私だって似たようなものだから」


「絶対に違いますよねー?だって聖女様は輝いてますから」


「そのセリフよく聞くのよね、アルラシードでは定番の口説き文句かしら?」


「まあ定番ですけど、でもお世辞じゃないですよ?本当に薄ぼんやり光っててなんだかちょっと不気味です」


アニー「無礼者!」

リタ「なんてこと言うんですか!あなたは敵ですか!」


「アハハ!カヤックは面白い事を言うのね。私が光ってるって?本当に?どこが?ねぇ、私のどこが光ってるの?」


「全体的に…だって薄暗くなってきたこの図書室でもランプいらないじゃないですか。自覚なかったんですか」


「え?私って実はお化けだったの?ちょっと自分が薄気味悪く思えてきたわ」


リタ「そこは神々しいとか神秘的って言うんですよ!全然不気味じゃないですから」


「そういえば、アニーに最初に会ったときにも、白くてお化けみたいって言われたわ」


リタ「え?アニーさんもやらかした?」

アニー「そんな事は言ってません!音もなく部屋にいたので驚いただけです」


「アハハッ!私お化けみたいじゃない!」


「奥様の笑いのツボが意味わかんねッス。普通、不気味って言われたら怒らないんですか?」


「えー?カヤックは私を怒らせようとしたの?ざんねーん!こんなんで怒ったりしないよーだ」


「え、あれ?聖女様ってもっとこう、聖女様じゃないんですか?」


リタ「言いたいことは分かるわ…奥様は、カヤックさんが想像してる年齢よりも、少なくとも5歳は若いですよ?」


「え?12歳ですか?まさか?」


「おー!正解!君凄いねー、見る目あるねぇ」


「うわぁ…アブドゥル隊長ってロリコンだったんですか。なんかショックです」


「ロリコンの上に運命がどーのこーの言ってるよ?最近は年若い娘を生贄にしてるし。君の上司はヤバすぎるでしょ?頭イカれてるわ」


「生贄って…事情聴取ですよね?ちゃんと帰してますよ。それにあれは…」


その時だった、ドスドスと足音が近付いてきてバァンと図書室のドアが乱暴に開いた


「マリーウェザー様!乳母をついに見つけました!ご同行をお願いします!」


「ついに運命の相手を見つけたのね…カヤックも私の道連れになる?」


「え?何の道連れですか?」


「ぬ!何故カヤックがここにいるのだ!帰れ!」


「隊長が書類返してこいって」


「執務室は別方向だ間抜け!」


「あらら、俺やらかしました?」


「そんなことより、マリーウェザー様!さあ行きましょう!そなたらも付いて来て説明せよ」


リタとアニーは目配せして頷きあっている


私はカヤックに目配せしてついてきてほしいと訴えた、だけどアブドゥルにお姫様抱っこされて強制連行された


「マリーウェザー様、心の準備はよろしいですか?」


「ええ、まあ、いずれ来たるべき日が来ると分かっていたから」


「そうですか…私は、何があってもどんな真実でも貴女を愛しています」


「運命の相手が見つかったのに?」


「私の運命の相手はやはり、今この腕に抱いてる人で間違いないと思います。こんなにも心臓が脈打ち、今すぐめちゃくちゃに愛し合いたいと思っているのに。

手に触れるたびにキスしたくて、愛らしい声が聞こえるたびにその唇を塞ぎたくなる。ぽっと出てきた他の女を愛せるとも思えません!眠るあなたを何度……」(※たまにこっそり唇しゃぶってる)


「真実を知っても同じ事が言えるかしら?何を知っても殺さないでくれるとありがたいです」


「ええはいもちろんです、例え王命に背いた重罪犯だとしても殺しはしないと誓いましょう」


「約束しましたよ(ホッ)」



連れて行かれた先は、地下牢だった


「お母さん!…重罪犯扱いしないって約束したのに」


「マリーウェザー様助けて下さい!」


「お母さん!ごめんなさい、もう全部バレてるの…私がちゃんとしなかったから…ごめんなさい」


「あぁ…申し訳ございませんマリーウェザー様」


侍女長と執事頭も来ていて、リタやアニー、ついでにカヤックも追いついてきた


アブドゥルが牢の鉄格子にしがみつくマリーウェザーを引き離して冷たい目で見下ろした


「そなたの罪を告白する時間だ…娘の命が欲しければ正直に全て話せ」


「正直に話しますからどうか命だけは助けて下さい!横領したものも手元に残ってる分はお返しします。ですがエリザベス様の形見の首飾りだけは見つからなくてっ」


執事頭がさっと桐箱を取り出して開いた

中には青い石のネックレスが入っていた


執事頭「そなたの娘のメアリーが隠し持っていた、最後まで自分の物だと言い張っていたが…そなたは自分の本当の娘にさえ嘘を突き通したのか?」


「何のこと?私はそんなネックレス知らないわ」


お母さんの顔が歪んで泣き崩れて、ポツポツと話し始めた


「あぁ、申し訳ございません……エリザベス様は産後の肥立ちが悪く、ほとんど寝たきりで3ヶ月もしないうちにお亡くなりになりました。

当時の旦那様は悲しみに暮れ、元凶の赤子を殺そうとしていて。私と侍女長が止めに入って助けたのです。そして侍女長の案で別邸に批難しました…」


そこまでは私も知ってる話だわ


「着の身着のままの長旅で、ろくに休まず赤子を2人も抱いて疲れ果てました。

私はお腹が空いたと泣く我が子より、マリーウェザー様を優先してお乳を与えたのです。

我が子をクーハンに入れて泣かせていたら、別邸を管理する庭師の老夫婦がやって来て…

生後3ヶ月の赤子には、お乳が必要だけど1歳近い赤子ならパン粥も食べれるだろうと、豪華なクーハンに入っていた赤子の世話を始めました――…」



――回想


「お嬢様のお名前はなんと言うの?」

「お嬢様の名前はマリーウェザー様です…エリザベス様はお亡くなりに。旦那様が元凶の赤子は見たくないと別邸へ追いやったのです」

「んまあ!なんと酷い事を…もう大丈夫ですよマリーウェザーお嬢様、ばあやが美味しい離乳食を作ってあげますよー」

「大丈夫じゃよ、婆さんちょっとボケが入っとるが、わしが責任を持って面倒みる。お前さんも自分の子の面倒を見とりゃええ。おやぁ、こっちの白い子もめんこいなぁ。こんな小さい赤子は怖くて世話が大変じゃ」


私は説明する体力もなく

力尽きて眠りについたのです―――



「すぐにバレると思ったのに、年に一度だけ一方的にまとまったお金が届くだけでした。

配達人も関係ない下請けの商人で、私達の様子を見もしなかった。

子を亡くしていた庭師の老夫婦が甘やかして、子どもはぽっちゃりの方が可愛い、とにかく可愛いと言い続けて育てました。

私はそれでもマリーウェザーお嬢様には最低限の読み書きを教えました…ですが蛙の子は蛙、貴族の子は貴族です。

マリーウェザー様は教えてもないのに、庭師の爺の隣でいつの間にかスラスラと別邸の本を読むようになって、料理も教えたことはすぐに真似できて創作までするようになりました。

洗濯も掃除も庭の手入れも私達が教えるより効率的に動いて…お菓子作りも私より上手にやるように。

庭の木に作ったブランコで遊んでる姿を配達人に見られてから、白銀の妖精姫の噂が村に流れるようになって…慌てて庭師と口止めして回りました。

いつ見つかるのかヒヤヒヤしながら暮らしていましたが、ある日、手紙が届いて……全ての嘘が明るみになる前にお嬢様を置いて逃げました。

申し訳ございませんでした。マリーウェザー様、どうか娘の命だけは助けて下さい

本当の事をちゃんと言って聞かせますから!」


侍女長「乳母の本当の娘のメアリーは、金髪と呼ぶにはおこがましい赤茶けたチリ毛

腫れぼったい一重まぶたで、目の色は曇り空の様な薄暗いグレー。そばかすだらけの顔。甘やかされて育った我儘ボディはお世辞にも美人とは言えませんわ」


執事頭「教養の足りない頭で、自分こそがハインツ辺境伯の娘マリーウェザーだと周囲に吹聴していました。

真実を知った後も母親を乳母と呼び続け、それどころか乳母に誘拐されたと言って庇う事なく突き出し、衛兵に体まで売って領主館まで自ら乗り込んで来たのです」


「うわあぁぁー…どうしてこんな事に!

エリザベス様さえ死ななければ、旦那様が我が子を殺そうとしなければ、追い出した後も誰も見向きもしないなんて

侍女長の案に乗らなければ、老夫婦が間違えなければ、野蛮人どもが攻め入って来なければ、領主がお嬢様を嫁に差し出さなければ……うわぁぁぁー」


「お母さんごめんなさい」


「いくらでも真実を明かす機会はあったのだ、最後まで何も言わず黙って消えたのは、そなたの罪だ!本物のマリーウェザー様を騙した罪は重い!」


アブドゥルが冷たい目で見下ろしてくる


「さて、マリーウェザー様…貴女は全ての真実が明らかになっても、まだ自分は違うと言いますか?

別室のメアリーは真実が信じられなくて、都合の良いように解釈して悲劇のヒロインをしています……メアリーを連れて来い」


ギャーギャーわめき声をあげながら両脇を抱えられ奥から連れてこられた人は、最後に見たときよりも横に大きくなっていた


「メアリー!あなたどう言うつもりなの!

なぜあなたがドレスを着てそこに立ってるのよ!私の立場を盗んだわね!返せドロボー!本来は私がそこに立って敬われるべきなのよ!

あなたはね、そこの下賤な女の娘なのよ、私が着るはずだったドレスよ!返してよ!

あっそれはエリザベスお母様の形見の宝石よ!私の宝石よ!よくも奪ったわね!それは私の宝石よ!返しなさいよこのドロボー!あんたみたいなブサイクには似合わないものよ!そこの嘘つき乳母の娘のくせに!過ぎた身分なのよ!弁えなさい無礼者!」


「お嬢様…お望みならドレスも宝石も身分だって立場だって差し上げます、そんなもの私はいらないです。お母さんを悪く言わないで下さい」


「差し上げる?はぁ?生意気にも私に差し上げるですって!

泥棒したのはあなたの方よ!わかってないわね!この犯罪者!本来は私のものなのよ!返しなさいよ!謝ってよ!

ちょっと、いい加減にして!汚い手を離しなさいよ!私はマリーウェザー・ハインツよ!この無礼者!」


「メアリー!あなたは本当に私の子なのよ、ごめんなさい、こんな事になって…あぁ私のメアリー…」


「はあ?頭のおかしいババアの戯言なんか聞きたくないわ!私がマリーウェザー・ハインツよ!誰か助けてぇ」


「聞くに堪えん、お前のような汚物ごときがマリーウェザー様の名を騙るな虫唾が走る、口を塞げ!」


「無礼者!近寄るな!馬糞野郎、離せ!汚い手で触るなぁムググ…んー!」


侍女長は怒りに震えていた

「私はエリザベス様の出産に立ち会いました、もちろんあなたの母親も乳母として立ち会ってます。

エリザベス様の産んだ子は柔らかい白髪で星の輝く夜空のような瞳の女の子です。

生後3日目には瞼がくっきりした二重になって、その頃から長いまつ毛も生えていました。

"見て、もう二重だわ、美人になるわね。将来が楽しみよ"とエリザベス様が笑っていたのを今もハッキリと覚えています」


むぐくぅと口を布で縛られて悶えるメアリー

侍女長を睨見つける目には憎しみが籠もっていた


「お母さんは…私の本当のお母さんじゃなかったの?だから私を置いて行ったの?」


「申し訳ございませんマリーウェザー様…全て私の責任です、どうかメアリーだけは助けて下さい。慈悲深い聖女の生まれ変わりのマリーウェザー様!私達母子に御慈悲を下さい」


涙が溢れて止まらなかった

そんな謝罪の言葉が聞きたかったんじゃない


「お母さんは…私を愛してなかったの?全部嘘だったの?」


「申し訳ございませんマリーウェザー様!私はただの乳母です。エリザベス様のご実家は公爵家です、それも王女様が降嫁して来られた大貴族です。

私自身は男爵の妾が産んだ娘なのです。身分をわきまえず不相応な事を、重罪を犯しました申し訳ございません」


冷たい床に頭を垂れたまま謝罪の言葉を述べ続けるお母さん…今どんな顔で謝ってるの?私を見てよ


「お母さんもうやめて!許すも何も私はお母さんといられて幸せだったよ?

置いてかれたんだって分かった時は、悲しくて寂しくて何も考えられなかった…

お願いだからもう謝らないでよ!信じてた私が惨めじゃない!やめてよ、お母さんのそんな姿見たくないわ!許すから!何でも許すからやめてよー…」


私は走ってその場から逃げ出した、みんなの同情の目が嫌だった


後ろから付いてくる音がする


「マリーウェザー様、待ってください!」


「カヤック!なぜお前まで付いてくる?邪魔だ!」


「いや、だってあんまりじゃ無いっスか!残酷な真実なら優しいウソで守ってあげればいいのに。マリーウェザー様ってまだ12歳ですよね?隊長やり過ぎですよ!母子の再会を牢屋でやる事なくない?演出えげつねぇッスよ!」


「あそこまでしないと、あの乳母は真実を頑なに語ろうとしなかったのだ」


「そりゃ嘘ついて傷つけたって、自覚あったんじゃないですか?悪いことしたって分かってたから何も言えずに別れたんですよ」


「カヤックは何も知らないくせに出しゃばるな!」


「あの場の人間はみんな真実を知ってたんですよね?

いきなりあんなの見せられる側の気持ちも考えてあげて下さいよ。

大好きだったお母さんが牢屋に入れられてるってだけで普通の子はパニックですよ?それとも貴族は鉄の心を持って生まれて来るんですか?」


「…私は間違ったのか?しかし分からせる必要があってだな、マリーウェザー様も頑固に自分は乳母の子だと思い込んでいたのだ

どうしても真実を分からせたかったのだ」


後ろのそんな会話に私はプツンとブチギレた


「うるさい!この馬鹿ヤロー!お母さんを犯罪者扱いしないって約束したのに嘘つき!

アブドゥルなんて大っきらい!私が死ねって言ったら死ぬんでしょ?今すぐ死んで蛙にでも生まれ変わればいいのよ!

ついてこないでよこのヒトデナシ!みんな嫌い!ついてこないでよ馬鹿ぁ」


「マリーウェザー様めっちゃ足速い、俺、足に自信あったのに追いつけねっす!」


「あっ、そっちの森は危険ですから戻って下さい!」


「じゃあ追いかけてこないでよ馬鹿!アブドゥル大っきらい!がさつで怖いのよ!近寄らないで変態!」


「うわぁ、隊長めっちゃ嫌われてますね」


「私は嫌われてない!」


「たった今も大っきらいよ!追いかけて来ないで馬鹿っきゃぁー!」


「マリーウェザー様!」


崖から落ちた


下は川だけど流れが速いから助からないだろうなぁ

お母さんやっぱり言わされてたのかな?

本当の所は大事に育ててたんだよね?本当の娘のように接してくれたんだよね…?


水に落ちる瞬間、背中を掴む感覚があった

バシャーンと落ちて流れが早くてガボガボ水が口の中に入る


日が暮れて暗い水の中を漂ってるみたいだった


おかしな夢を…見た

たまに見てた聖女の夢なのに、ちょっと変な夢だ


「パンパカパーン!

ようこそ起こし下さいました、お客様は挑戦者です」


仕立ての良い珍しい服を着た数年の男が胡散臭い顔でにこやかに立っていた

今この人は私に話しかけたのかな??


「は??ここは?森の立ち入り禁止区域?あの世ですか?」


「ダンジョンの立ち入り禁止区域でございます

本来はお会いすることもなかったのですが、このダンジョンはR−15指定です。

残念ながらお客様は12歳ですから、2年と1ヶ月程お待ちいただくことになります

が、しかし、なんと前世のデータが当方にも残っております!じゃじゃ~ん」


「えっと…?」


「前世でお使い頂いてたアバター衣装とダンジョンボードをお貸し致します!

お客様は特別、前世のお得意様ですから」


「??」


「太客は大事に致しますがモットーでございます」


「あの?」


「はいご質問でしょうか?」


「さっきから何の話です?人違いしてませんか?」


「おや?反応が薄いと思ったら…

前世を覚えてないパターンですか、思い出します?

ダンジョン内の記録なら復元可能ですが、いかがなさいますか?」


「え……前世があると仮定して、思い出す事に何が制約とかデメリットありますか?」


「お客様が思い出したくないような経験をしていたら、前世を思い出すとお辛いかもしれませんが……少なくとも今よりは楽しそうに人生を過ごしてましたね」しれっ


「前世を思い出したら、今より人生楽しいの?」


「イージーモードで慈悲深くて優しいと自己分析しておられました」


「さっぱり意味がわかりません…そのアバター?って何ですか?」


「聖女アバターです」


「あ、なんか分かった。聖女の生まれ変わりとか最近そんな輩が多いけど、あなたも同じ部類なのね。

じゃあ記憶いらないです。アバター?も遠慮します。ってかもう帰ります!2年後に覚えてたらまた来るかもしれないですね。じゃっ」


「お待ちを!…貴女を助けるために川に飛び込んだカヤック殿は右腕を失いました」


「え?」

血の気が引く…私は川に落ちて、助かったの?


「聖女アバターとダンジョンボードを入手すればエクストラスキルが使えますよ」


「エク?…それを使うとどうなるの?」


「前世の記憶を復元すれば諸々の説明の手間が省けますが…良いのですか?こうしてる間にも出血が酷くてカヤック殿は…(チラッ)」


「やる!全部任せるから早くして!カヤックが死んじゃう!早くして下さい!」


「かしこまりました。インストール開始します……しばらく間が空いたのでダンジョンの攻略特典が変わっております。ではゲームスタート」


足元に光る模様が走る、上からも下からも魔法陣が出て来てエネルギーの渦ができる


「一応説明しますと、アバターとダンジョンボードとスキルはお貸しするだけです、ダンジョンの外では使えません。切られれば痛いですし血も出ますのであしからず」


「えっ、ちょっと切られるってどういう事なの!」


「記憶が復元されると思い出しますからご心配なく。では行ってらっしゃーい」


そんな声が聞こえたのを最後に目の前がグニャリと歪んで光の渦に巻き込まれた。

頭の中に流れ込んでくるイメージ?記憶?パンクしそう



【職業:聖女 レベル1】

マリーウェザー・アルラフマーン 12歳 ヒト族

ターンアンデッド:アンデッドに効果抜群、弱い個体なら消滅させることができる

キュア:毒消レベル1

ディスペル:解呪レベル1

聖女の歌:荒れた心が落ち着く/死んだ心は揺さぶられる

ヒール:軽い擦り傷・肌荒れ・口内炎等なら治る

ミドルヒール:ヒールの中級版・骨折までなら治る

ハイヒール:ヒールの上級版・複雑骨折も治し、傷跡も残らない※失った部位は戻らない

エクストラヒール:しつこい水虫・難病・貧血・欠損も全回復※リハビリは必要

空白:

空白:


錬金術:OFF/ON

死霊術:OFF/ON

聖域結界:MP不足



一度真っ白になってから真っ暗闇に落ちて洞窟の中に出た


聖女アバター装着

年齢15歳(2年1ヶ月後の予想姿)

身長165センチ(現在より5センチ高い)

体重はナイショ

胸囲Fカップ(現在Dカップ)

聖女服は白地にシルバーステッチのエロ漫画風衣装(※歩くと両サイドのスリットからムッチリ太ももがチラチラ見える、ノーブラだからよく揺れる)

白のTフロントの下着と白いガーターベルト&太ももまでの白いストッキング

(※前世のマリーウェザーが調子に乗って自作したアバター衣装、ダンジョン・コアと取引に使った)


記憶が戻って最初に思ったことは……

またこのエロイン衣装を着ることになるとは思わなかった


ここはハインツの国境付近で

私たちはアルラシード側の山の洞窟に流れ着いたらしい。


アルラシードの洞窟ダンジョンの迷宮ステージ

ゾンビが徘徊する中、カヤックが腕から血を流して、褐色肌なのに顔色が真っ青になって壁にもたれかかっていた

アブドゥルが敵の落としたボロ剣を拾ってゾンビと戦っている


私は走り出した


「カヤック助けに来たよ!ターンアンデッド!」


眩いほどの聖なる光が辺りを照らし不浄なる者どもを浄化していく、光の届く範囲のゾンビは消滅した


「エクストラヒール!」


上からも下からもド派手なエフェクトの魔法陣が浮かび上がる

カヤックと魔法陣の中にいたアブドゥルもついでに癒されていく


複雑骨折してパンパンのグチャグチャに腫れ上がったカヤックの腕に、癒しの光が吸い込まれていく

血が流れすぎてぐったりしていたけど顔に赤みが戻ってきた


「聖女様?あぁ、天使のお迎えが来たのか…俺、死んだんですか…?うぅ、母さんごめん」


「カヤック死んでないよ、危なかったね!」


「聖女様ァー?!」

アブドゥルが叫びながらガバっと覆いかぶさる


スルリと避けて「ターンアンデッド!」※牽制のために体を光らせただけ


「落ち着いて下さい、もう一回ステータス確認したいから!ゾンビが来たら教えて?アブドゥル様しっかりして下さい、警戒を怠るな!」


「はいっ!」


「(ぼーー…)聖女様?あれっ?腕が痛くない!足の古傷も変な頭痛も治ってる!

あー、アブドゥル隊長の顔の傷と目も治ってる!スゲー何だったんだ今の?」


「体の不調が消えた…うぉぉぉぉ!潰された玉が復活したぁぁ!」

カヤックとアブドゥルがキャッキャと騒いでる中、冷静にダンジョンボードを確認する。

戦闘前にスキルチェック必須!これゲーマーの性質さが


「うわぁろやっぱスキルの習熟度もレベル1からか。先に記憶戻せば良かったな、今度こそ魔法剣士になりたかったのに。

せめて聖騎士パラディンが良かったなぁ。

錬金術はONにするとして…死霊術はOFFのままでいっか?錬金術のレベルあげて今度こそ賢者スキル目指そうかな?

いやでも、また聖女かぁ…今生は処女縛り無理っぽい、既に結婚してるしぃ。

SSランクスキルの大天使の息吹使えるほどMPないしな…早めに転職しよーっと!

アババッ亜空間収納アイテムボックスが使えない!詰みだ……あっ宝箱に収納袋あるかな?」


気がついたら2人が真横にいて、ダンジョンボードを覗いていた


「先ほどからブツブツ何言ってるんです?」


「聖女様、この光る板は?」


「アブドゥル様にはこのダンジョンボードが見えるのですか?

ステータスと呟くと同じものが出るかもしれませんよ?脳内で唱えても出ますけど」


「ステータス?…ほわぁ!」


【職業:聖剣士 レベル546】

アブドゥル・アルラフマーン 20歳 人族?

称号:運命力「運命を掴む者」SSSランク

前世のステータスの引き継ぎが可能

どんな困難もなんか生き残る謎のアレ(※ダンジョン・コアでも鑑定不可能だから適当につけた称号)

運命の再会、運命の赤い糸、運命の導き、その他


称号:ドラゴンソードマスター SSランク

王宮の宝物殿の奥にある「討伐した邪龍の牙より打ち出した古の宝剣」を使える選ばれし者

(※制作にマリーウェザーが関わっているが覚えていない。剣の繋ぎに使われたのは聖女(マリーウェザー)の乳歯)


称号:ソードマスター「剣を極めし者」Sランク

自らが戦うだけではなく、後進の剣士たちの剣術の指導者として王家より期待される者


身体強化:常に鋼鉄レベル

波動弾:MP消費で闘気を放出する

自己再生:常に傷の治りが異様に早くなる、あんまり疲れない※傷跡は残る

ヒール:軽い擦り傷・肌荒れ・口内炎等なら治る

ミドルヒール:ヒールの中級版・骨折までなら治る※傷跡は残る

ホーリーシールド:聖なる盾 アンデッドや闇系モンスターに効果抜群 縦横2メートルほど大きくできる


錬金術:ON/OFF


古の聖画の加護

祈ると極稀に加護がもらえる厳かな聖画

・荒れてる心を癒す

・悪夢払い

・呪よけにもなる

聖画の最終取引価格は金貨一万枚

(※当時のマリーウェザーが自分をモデルに天才画伯と2人で描いた大作。アブドゥルが貰い受け家に飾って熱心に毎日拝んで付喪神化させたもの。後に盗まれ巡り巡って現在は城の大ホールで信仰の対象になり神格化が進む。現在のマリーウェザーとは縁が切れている)


聖女の加護

マリーウェザーと契約関係がある事が加護の条件

・聖女からの魔力供給

・聖女からの魔力供給によって有資格者(チャレンジャー)になり、ダンジョンボードの取得

・何となく運が良くなる

・聖女のヒールで体力が全回復

・たまに出先でばったり聖女に遭遇する

・たまに夢で聖女をリアルタイム視聴できる

・たまに聖女に想いが届く

・聖女のいやよいやよは好きのうち

・聖女相手ならいつでも相棒が元気になる

・聖女の口付けでパワーアップ



「ちょっと待てーぃ!前世より加護が凶悪になってるぅ!最後のヤツ何よ?聖女の加護じゃなくて、変態ストーカースキルじゃん!

うぇっ!?消せないの外せないの?

契約関係って結婚の事?イヤー!今すぐ離縁してよー!

ってかステータス引き継ぎズルくない?500超とかもうレイドバトル用のドラゴンとかのステータスじゃん!人間辞めてんの?

魔力(MP)だって多いから供給しなくていいじゃん!

はぁ?称号いっぱい持ってて凄すぎなんだけど!

ハッ!もしかして私が聖女になったのってアブドゥルの運命力とかの称号のせい?ぐぅ」


マリーウェザーは膝から崩れ落ちた


「聖女様が急に元気なくなった、あんなに楽しそうにはしゃいでたのにどうしたんです??

たっ隊長!なんで下半身がギンギンなんですか!?

え?あの衣装のせいですか?確かになんかエロいですけど時と場所を考えて下さい!えぇー?あなた達何なんですか!」


「カヤック、私は今猛烈に感動してるのだ!聖女様が聖女様だからだ」

アブドゥルは滂沱の涙を流してる


「ひぃっ!なんて凶悪なサイズなの!あんなの絶対に無理よ!死ぬ死ぬ!女の子の前でやめてよ犯罪者!変態!イヤー犯されるぅ!キッモ!

カヤック帰るよ!アブドゥル様は放置してダンジョンから出ましょう。ステータスが間違ってなければ奴は多分、簡単に死なないから。レベル1の私は簡単に死ぬからね!装備整えて出直したいわアイテムボックス使えないなんて終わったわ!」


カヤックの手を引いて歩いてると後ろから何かがヒュンと飛んできて、前方の壁がドゴォンと破壊された


「わっ!隊長?」


「毒虫だカヤック!害虫がいたら駆逐するだろ?(※ここ数年で一番の冷たい視線)

聖女様!なぜカヤックの手を握ってるんですか?」


目つきがイッてるアブドゥルが、落ちてたボロ剣を投げつけて前方の壁にいた毒虫を始末したらしい


マリーウェザーはカヤックの手を離して両手を軽くあげて降参のポーズをとった


「他意はないです落ち着きましょうアブドゥル様。安全に洞窟から出ましょうね?

帰ったらやる事いっぱいあるのに、拉致被害者に慰謝料出して、荒れた領地整えましょう

ハインツって昔は収穫量が良かったはずです。

同じ種類ばっかり育てるから土壌が悪くなったのかな?大豆とか紅芋とか育てたいなぁ…リヒテンシュタインから取り寄せましょうよ?時代はソイビーンズです無限の可能性を秘めてます!加工食品作りましょう!」


「え?…あ、はい!マリーウェザー様のしたいようになさって下さい!私はそれに従います!」


「あっ隊長が年下の嫁に丸投げした!領地経営とかやっぱ無理がありますよねー」


「大丈夫だよアブドゥルはやれば出来るって!そう言うスキルは引き継がれなかったの?」


「あの、その引き継って何すか?」


「先祖代々の血脈に受け継がれてる、なんかホラ、領地経営スキルだよ!アブドゥルだって領主の息子だしね?さすがに無学じゃないでしょ?」


「全てマリーウェザー様のしたいようになさって下さい!」


「あっこりゃ駄目だ…カヤックどうしよう、旦那様が脳筋だわ」


「脳ミソまで筋肉って事っすね?」


「カヤック!私の妻だ!聖女様と仲良くするな!」


グイッとアブドゥルがカヤックとの間にはいる


「えー、嫉妬が見苦しいッスよ!俺ら友達になりましたから!」


「何だとっ!」


「そうですカヤックと友達になりましたから!ねー?」


「ねー、マリーウェザー様は貴族なのに気さくで話しやすいですね」


「カヤックも平民なのに物怖じせず話してくれるからありがたいよ、仲良くしよーね」




「……夫の目の前で堂々と浮気ですか?」



ボォッと嫉妬の炎が見えた(※闘気)

アブドゥルはその炎をまとったまま横の壁を殴った


ドゴォーーン!



「きゃぁー!」

「わぁっ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る