大学

第2話

「咲笑ー。おまたせ」

 友達の前原桜が可愛らしいピンクベージュのウェーブの髪を揺らしながら走ってきた。今から大学内の食堂に食べに行くのだ。

「全然待ってないよ。大丈夫。じゃ、お腹すいたから早く行こっか」

「うん!」

 私たちは空腹な胃を持ちながら食堂に急いだ。食堂にはたくさんの種類があって、ほんとに美味しい。だから毎日食堂に行くのが私の日課になっている。

「咲笑何食べるー?」

「うーん」

 私はメニュー表に目を通した。

「あ....」

 サイドメニューのアイスクリームという文字が目に入った。昨日まで、というか去年までなかったのに。

「あ?」

 桜が不思議そうな表情をしながら私の顔を覗いてきた。

「..ううん、なんでもない。オムライスにしようかな」

「おっけい!じゃ私も!」

 アイスクリーム。私はそれに思入れがある。大学二年生の今でもずっとこの文字を思い出すと同時に、私はある人のことを思い浮かべている。


「よいっしょー」

 私たちは中庭が見える大きな窓の近くの席に座った。今日はとてもいい天気で、窓から差し込む木漏れ日が暑いほど、心地よい。

「いただきまーす!」

 桜が大きな口を開けながらオムライスを口に放り込んだ。相当お腹すいてたのだろう。満面の笑みを見せながら幸せそうに食べている。

「咲笑、食べないの?」

 彼女がオムライスを口に運びながら言ってきた。私はアイスクリームのことが頭にあって、すっかり自分のオムライスの存在を忘れていた。

「あぁ、ごめん、食べる食べる」

 私は急いでスプーンを持ち、オムライスを口に入れた。少し半熟のふわふわの卵に、トマトの味がちょうどよく合わさったライスがとても美味しい。心が満たされる。その味を噛み締めていると、桜の息の吸う音が聞こえた。

「ねえ咲笑聞いてくんない?私実はさ.... 彼氏出来たの!!!!」

「...え?」

「昨日告白されて付き合ったの!」

 彼女はこの前も彼氏ができて、別れて、とか言ってた。しかもそれは1週間前のことだ。さすがに早すぎる。美人だから納得はできる。

「おめでとう。お幸せにね」

 私は最大限の笑顔を浮かべて彼女にそう伝えた。

「ありがと〜。幸せになる」

 そう言ってまた別れないといいけど、と心で思いながら、うんと頷いた。でも、別れは必ずくる。心の中でも上辺の言葉を発するけど、これは誰よりも私は分かっていること。

「てか咲笑は好きな人とか彼氏いないの?」

 考えを巡らせていると彼女がニタニタしながら聞いてきた。

 彼氏。その単語に懐かしさを覚える。今の私に彼氏はいない。彼氏にしたいと思う人もいない。大学生になってからも告白はされたことはあるけど、どの人も私の心を包めるような人ではなかった。

 でもその理由は私が一番よく分かっている。それに私は。

「...うーん、好きな人はいる...かな」

 好きな人はずっと変わらない。何年経っても変わっていない。なぜなら。

「え!だれだれ?!ここの大学の人?!」

 桜が前のめりになって聞いてきた。その迫力にちょっと身が引いてしまった。

「違うよ」

 私は眉を下げて少し笑って言った。

「え、じゃあ誰なの?」

 彼女が首を傾げながら聞いてきた。

「...高校の同級生の人。.......ずっと忘れることが出来ないんだよね」

 変でしょと言いながら私はオムライスをスプーンで分けた。

「実らなかったの..?」

 彼女が悲しそうな顔をしながら聞いてきた。彼女とは大学一年生の頃からの友達だけど、今まで私の過去について話したことはなかった。だからここまで来たなら話さないといけないと思ってしまった。

「....彼氏になってくれた。....でも..彼は.............凛くんは私の腕の中で....天国に行っちゃったんだ」

「.....え..?」

 彼女が大きな目をさらに大きくさせて私の目をみてそう呟いた。

「私は彼のことをずっと想ってる。生まれて初めてあんなにたくさんの愛情を注いだの。ほんとに、大好きなんだ.......。私はもう...彼以外........愛せない」

 私は零れそうになる涙を浮かべながら、頼りない笑顔で笑って言った。


 あなたを想わない日はない。高校の時の思い出が毎日毎日頭の中で、映画のスクリーンを見ているかのように鮮明に思い出される。

 あなたを愛せた、あなたから愛された私はいつまでも世界で一番幸せなんだよ。

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