5章 謝罪配信

第25話 暴露配信

 VR空間の巨大モニターに映し出された配信画面。

 別にVR空間で見なくてもいいのだが、いつものクセで、また仲間も一緒に観るには丁度良い場所だからここで見ていた。


 その子の名前は『夢乃かなえ』。

 なんかどっかで聞いたことあるような名前だが、アバターは特徴的なピンクの髪に、大きな猫耳がついた可愛らしいデザインだった。

 獣をモチーフにしているのだろう。


 だが、その割には声はおっとりとして柔らかい。

 ルナと比べると、どうやらおしゃべりは初心者のように見えた。


『みんな~今日は配信に来てくれてありがとう~(><)』


 画面越しの彼女が元気よく挨拶をする。

 その瞬間、チャット欄が一気に動き始めた。



『待ってた!』

『新人ちゃんかわいい!』

『声が癖になるww』

『ブヒブヒ!!』



 視聴者の反応も上々だ。

 やっぱり人気が出る新人は違うなぁと、ぼんやり思っていたその時だった。


『今日はね~、リアルのカフェで聞いためちゃくちゃ面白い話をみんなにシェアしちゃうね~♪』


「リアルのカフェ……?」


 最近カフェで妙なやり取りをしたことを思い出した。

 だけど、これとは全く関係ないはずだ……と思いつつも、その予感が的中するなんて、まだ思いもしなかった。


 画面に映った映像に、俺の目は釘付けになってしまう。

 見覚えのある店内。どこかで見たことがある配置のテーブル。

 ——そして、流れ始めた音声に、頭の中が真っ白になる。


『(自主規制)くんは優しい男の子だから、頼まれたことはなんでもしちゃうし、断れない男の子だから、私が代わりに言いに来たんです!』

『それを私に言うってことは、私が(自主規制)を無理させてるって言いたいのね!』

『違います!』

『じゃあ何なのよ!』


「は、はあアアアアああぁぁぁぁあぁぁっ!?」


 俺は声にならない叫びを上げた。

 そこに流れていたのは、あのカフェで俺たちが話していた内容そのものだった。


 全員の顔は映っていないものの、ルナとユメちゃんが言い合いしていたあの会話が、完全にそのまま録音されて流されている。


『どうどう~? みんな~この会話、すごくないー?』


 新人VTuberの楽しそうな声が響き、視聴者のコメントが一気に増えた。




『え、これ三角関係じゃんwww』

『いや、旦那さん絶対無自覚だろw』

『奥さんVSゼミ友とか修羅場すぎるww』

『こういうのを待ってた』

『これが話題を沸騰させる新人か……』




「修羅場じゃねえよ!?」


 俺はモニターに向かってツッコミを入れたが、当然そんな声は誰にも届かない。


『ね~これ、ドラマとか映画みたいだよね! 奥さんっぽい人、ちょっとツンデレっぽくて可愛いし、ゼミ友さんは超純粋そうでさ~』


「ちょっと待て、それ俺のことだよな? いや待て、ゼミ友ってユメちゃんのことだろ!?何でこうなるんだよ!?」


 モニター越しに視聴者の盛り上がりを見ていると、どんどんコメントが流れていく。



『旦那が一番の原因じゃね?』

『俺はゼミ友の子と結婚したい、優しさしか感じない』

『いや、奥さん派だな俺は』

『ゼミ友応援するわ、頑張れ!』

『ていうかゼミ友とかなえちゃん声似てるね』



 視聴者がそれぞれ「奥さん派」「ゼミ友派」に分かれて盛り上がり始めるのを見て、俺は頭を抱えた。


(いやいや、何で俺たちの私生活がネットの茶番みたいになってんだよ!?)


『ちなみにね~! 旦那さん、結構鈍感っぽいんだけど、それがまた良い味出してるんだよね♪』


「良い味出してるとか言うな!」


 俺は配信を見ながらひたすらツッコミを入れるが、どうにもならない。


『みんな、どっち派? 奥さん派? ゼミ友派? コメント欄で教えて~!』


 新人VTuberの声に、視聴者たちはさらなる勢いでコメントを書き込む。



『奥さん派!!』

『ゼミ友派一択!』

『いや、旦那派とかないの?』



「旦那派とか言うな! 俺は派閥じゃねえ!」


 さらに、新人VTuberはこんなことまで言い出した。


『私ね、この話を聞いて思ったの。リアルの恋愛ってやっぱり面白いな~って!』


「いや面白くないから! やめてくれ!?」


 俺の必死の抗議も虚しく、配信はどんどん盛り上がっていく。


 これ大丈夫なのか……?

 万が一、俺たちのことだってバレたら……と思うと、ルナに連絡せざるを得なかった。


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